◀第15回▶“お仕事”あれこれリサーチ その⑩-2──プレシニアの時期に、学び直しと人脈づくりで拓く「八士業」

<データ>

職業名 税理士、弁理士、土地家屋調査士、海事代理士

業種 第三次産業

仕事内容 資格取得者でなければ扱えない専門業務

就業形態 個人事業(個人事務所/法人所属)

想定年収 0円~1000万円

上限年齢 なし

必要資格 国家資格

必要技能 実務経験

 

<どんな内容>

前回に引き続き士業の解説です。今回は税理士、弁理士、土地家屋調査士、海事代理士の4つを取り上げます。

 

税理士

税理士は、個人や企業の税務に関する業務をサポートする仕事です。納税者であれば誰でもお世話になることがある仕事なので、八士業の中ではもっとも身近といえるかもしれません。仕事内容は主に税務書類とその資料の作成代行、税務相談、税務署への申告や納税の手続きを代理で行う税務代理です。また、税の知識を活用して経営コンサルティングを営む税理士もいます。

税理士になるには、税理士試験に合格する必要がありますが、受験資格は他と比べ少々ややこしくなっています。

まず、受験資格には「学識」「資格」「職歴」「認定」の4種類があり、このうちのいずれか1つでも満たせば受験資格が認められています。個々を説明すると長くなるので詳細は割愛しますが、2023年から諸条件が緩和され、以前に比べて受験しやすくなりました。その代わりに、試験内容は難しくなり、合格率は約4%という狭き門になっています。

なお、弁護士か公認会計士の資格を持っていれば税理士試験を受けなくても税に関する業務を行うことができます。また、税務署で23年以上勤務し、指定の研修を修了した人は無試験で税理士になれます。

試験内容は会計学に属する科目と税法に属する科目の11科目があり、科目ごとに試験が行われます。そして、5科目で合格点を取れば合格になります。一度合格した科目は永久に有効です。

また、試験に合格しても、税理士として協会に登録するには2年間の実務経験を求められます。一から始めるシニアにとっては少々ハードルが高いですが、在職中に会社内で経理部などに所属し会計事務を2年以上経験していれば、それも「実務経験」にカウントされるので、資格取得後すぐ税理士の看板を掲げることはできます。

 

弁理士

弁理士という職業は、一般的にはあまり馴染みがないかもしれません。しかし、情報化社会かつグローバル化が進む現代では、その重要性がどんどん増していくであろう仕事です。

弁理士は知的財産権の管理に関わります。

では、知的財産とは何でしょうか。2002年に公布された知的財産基本法には、①発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物等人間の創造的活動により生み出されるもの、②商標、商号その他事業活動に用いられる商品・役務を表示するもの及び、③営業秘密等事業活動に有用な技術上・営業上の情報と定められています。

つまり、苦労して生み出した商品価値のある知的財産(特許、実用新案、意匠、商標)を無断借用されないよう、少々くだけた言い方をするならばパクられないよう、国家が法に基づき保護しているわけです。とはいえ、アイデアが生まれたら即保護対象になるわけではありません。特許庁に申請する必要があります。さらに申請したからといってすべてが認められるわけではありません。「知的財産」と呼ぶにふさわしい新規性や独自性、また進歩性や産業上の利用可能性などを網羅的に判断した上で、要件を満たしていれば晴れて専有できる知的財産とみなされます。

弁理士はこの手続きを行うことができる国家資格です。さらに、登録後に権利侵害された場合の対策なども仕事のうちに入ります。法的紛争が発生した場合、代理人を務めることもあります。

弁理士試験は、受験資格に特段の制限はありません。また、弁護士や、特許庁で審判官/審査官として7年以上務めたキャリアの保持者は無試験でなれます。

試験の合格率は6%前後で、やはりなかなかの難関です。

弁理士の仕事はクライアントから出された案件に対し、まず同様の先例がないか調査するところから始まりますが、まったく知らない分野での調査はかなり骨が折れることでしょう。よって、現役時代に携わっていた分野に特化した弁理士を目指せば、比較的仕事を得やすいかもしれません。

 

土地家屋調査士

知的財産が無形のものなら、有形財産の筆頭格が不動産です。それに関わる職業に国家資格が求められるのは当然のことなのでしょう。土地家屋調査士は、クライアントが所有する土地や建物の登記申請をすることができます。

もちろん、申請だけが仕事ではありません。登記のためには土地の境界を確認し、明確にしなければなりません。ですので、その調査や測量も業務に含まれます。また、建物についても、新築や増築、さらに取壊しなど、何らかの変化があれば登記申請が必要で、これら手続も土地家屋調査士が行います。土地の筆界(登記上の区画線)に関する民事の法的紛争では、代理人を務めることもあります。

土地家屋調査士試験も受験資格に制限はありません。試験内容は測量知識の他、法務や登記実務、さらに面接での口頭試問もあります。なお、測量士、測量士補、一/二級建築士の資格があれば測量知識の試験は免除されます。

毎年の合格率はおおよそ10%前後。これもまた難しい試験なのでした。

土地家屋調査士は30代から40代の資格取得者が多く、個人事業主として活動する人も少なくありません。50代で資格を取り、開業することもまったく不可能ではないようです。しかし、やはり実務経験がないと難しいのも確かで、先輩調査士の事務所で補助者として経験を積んでから独立するコースが一般的であるようです。

 

海事代理士

おそらく、海運業の経験者でもないかぎり、あまりこの職業名を耳にすることはないかと思われます。登録者も行政書士が5万人ほどいるのに比べ、2千強と少数です。かなりのマイナー資格ですが、海に取り囲まれた日本のロジスティックにとってなくてはならない仕事です。

主な仕事は①船舶の登録/登記、②海上運送契約の締結/代理、③海上損害保険の代理で、これに関連する各種業務も行います。たとえば、海上事故の調査や立証、船員の雇用関係業務などです。

海事代理士試験も受験資格に制限はありません。試験内容は海事に関する法令の知識を問うもので、合格率は5割程度と高くなっています。また、公務員として海事事務に10年以上携わった経歴があれば、無試験で海事代理士として登録できます。

ただ、他の士業に比べると業務範囲が狭い分、需要も限られ、海事代理士だけで開業するケースは少ないようです。

 

<リアルな事情>

今回は前回より特殊性が高い士業を紹介しました。それだけにリタイア後のセカンドキャリアとして目指すのであれば、現役時代の経験がないと少々厳しいかもしれません。

また、すべての士業に共通するのは、それなりの人脈がなければ開業しても顧客開拓が難しい、という点です。

国家資格が必要になるほど公共性の高い業務を、まったく見ず知らずの新人に任せてくれるクライアントはそうそういないでしょう。よって、完全リタイア後に一から目指すのはあまり現実的ではないように思います。

しかし、40代ぐらいから将来を見据えて、実務に携わりつつ資格を取り、顧客候補に当たりをつけておくなどすれば、定年がなく、開業資金も少なくて済む士業は魅力的です。経験さえあれば50代でもまだまだ間に合います。

人生百年時代に入り、世代を問わず常にリスキリングしていくことが求められるようになった今、プレシニアの時期に学び直し、専門性を高めていくのは人生設計におけるスタンダードになっていくのかもしれません。

 

【こんなタイプにぴったり】

・試験勉強が苦にならない

・コミュニケーション能力が高い

・どんな分野であれ、問題解決に関わるのが好き

 

【こんなタイプはやめておいた方が……】

・クライアントの意向を汲めない

・公共心がない

・知識をアップデートし続けるのが苦手

 

 

門賀美央子(もんが・みおこ)

1971年、大阪府生まれ。文筆家。著書に『文豪の死に様』『死に方がわからない』など多数。
誠文堂新光社 よみもの.com で「もっと文豪の死に様」、双葉社 COLORFULで「老い方がわからない」を連載中。好きなものは旅と猫と酒。

◀第14回▶“お仕事”あれこれリサーチ その⑩-1──定年なし、国家資格者「八士業」への道

<データ>

職業名 弁護士、司法書士、行政書士、社会保険労務士

業種 第三次産業

仕事内容 資格取得者でなければ扱えない専門業務

就業形態 個人事業(個人事務所/法人所属)

想定年収 0円~1500万円

上限年齢 なし

必要資格 国家資格

必要技能 実務経験

 

<どんな仕事?>

士業という言葉は耳にされたことがあると思います。

士業は、高度な専門知識と技能を必要とする職業の総称で、一般的には名称の末尾に「士」の字が付く職業を指します。その中でも、弁護士、司法書士、行政書士、社会保険労務士、税理士、弁理士、土地家屋調査士、海事代理士の8業種は行政や司法に関わる国家資格なので、特に「八士業」と呼ばれています。

今回は「50歳から目指す八士業」がテーマです。

まずはそれぞれがどのような仕事なのか、一つ一つ確認していきましょう。

 

弁護士

弁護士は法曹三者の一つですが、公職である裁判官や検察官とは異なり、民間で法律の専門家として活動する職業です。その目的はたった一つ。「依頼者の利益を守る」ことです。どのような案件であれ、法律を駆使して依頼者の利益が最大になるように努めなければなりません。

法治国家である日本において、その役割の大きさは今更特筆するまでもないでしょう。法的文書作成や法令相談などの生活に密着する仕事もあれば、国民の耳目を集める刑事事件の被告人弁護や国家相手の訴訟まで、およそ弁護士が不要な分野はないものと思われます。

弁護士になるには司法試験に合格する必要があります。

司法試験を受験するには、法科大学院課程を修了するか、司法試験予備試験に合格する必要がありますが、どちらも受験資格を得た最初の4月1日から5年の間に合格しなければなりません。ただし、この要件を満たしていれば年齢制限はありません。

例年、合格率は50%を切る程度です。首尾よく合格すると司法修習生として1年ほどの研修を受け、しかる後に最後の試験である「司法修習生考試(二回試験)」に挑むことになります。そこで落ちなければ(不合格は1~2%だそうです)、晴れて日本弁護士連合会に弁護士登録し、弁護士と名乗ることができます。

このように、ただ学ぶだけでも数年かかる上、何段構えもの試験があります。1から目指すにはなかなか厳しい道です。

 

司法書士

司法書士は、法務局や裁判所、検察庁などに提出する公的書類の作成や手続きを代理で行います。不動産登記や商業登記はイメージしやすいと思いますが、他にも債務整理や財産の供託手続などの仕事があります。さらに、後半生ではいつお世話になるやも知れぬ相続登記や成年後見人業務も司法書士の業務の一部です。

司法書士になるには、司法書士試験に合格する必要がありますが、弁護士と違い学歴に由来する受験資格はなく、誰でも受験することができます。その代わり、といってはなんですが、合格率は約3%と大変な難関資格として知られています。また、合格後は必ず司法書士会が開催する新人研修を受講し、しかる後に日本司法書士会連合会に所属しなければなりません。合格後も大変そうですが、国民の財産や権利を守る仕事ですから、当然といえば当然なのでしょう。

 

行政書士

行政書士は、官公署に提出する書類の作成や手続きの代理を行う仕事です。営業許可などをはじめとする役所への許認可申請や定款変更などの企業法務が中心になりますが、相続手続きや外国人の在留資格申請、帰化申請なども業務範囲に入ります。また、成年後見人業務も範疇とします。

行政書士もまた行政書士試験に合格しなければなれません。受験資格は特になく、年齢、学歴、国籍等に関係なく誰でも受験できます。合格率は10%程度なので、やはりなかなかの難関です。また、公務員として行政事務に携わった人は、その期間が通算して20年以上(高卒者は17年以上)であれば無試験で行政書士になれます。また、弁護士、弁理士、公認会計士、税理士のいずれかの資格を有していれば、各都道府県の行政書士会に行政書士として登録することができます。また、弁護士や司法書士と違い、合格後に特別な研修を受ける必要はありません。シニアが目指す場合、一番アクセスしやすい士業ではあります。

 

社会保険労務士

社会保険労務士は、企業や個人の労務管理および社会保険の専門家です。社会保険は年々制度に変更や改変があるためにややこしくなる一方、さらに労務管理に関する法律も刻々と変化していきます。そのため企業としても専門家に頼る方が万事遺漏なくことを進められるとあって、今後も需要が増えると見込まれている職業です。

企業と契約すると、その労務関係業務のサポートをするのが主な仕事になります。助成金の申請や年金相談なども業務に含まれます。また、労務トラブルの相談や労働安全衛生に関するコンサルティングも行います。

資格試験を受験するためには、大学、短期大学、高等専門学校卒業などの学歴か、公務員もしくは労働社会保険諸法令の規定に基づき設立された法人で3年以上の勤務経験を持つ必要があります。また、弁護士資格を有していれば無試験で登録することができます。

合格率は7%弱と、やはりなかなかの狭き門です。ただし、合格者のうち20%弱は50歳以上だそうです。企業で長らくこうした分野の仕事に関わっていた人にはかなり現実的なセカンドキャリアの道といえるでしょう。

試験合格後は全国社会保険労務士会連合会に登録する必要がありますが、その際には2年以上の実務経験を求められます(合格前の経験も含まれます)。もしくは、この実務経験に代わる資格要件を満たすための、「事務指定講習」を受講する必要があります。ですので、まったくの未経験から必要なキャリアを積む場合、少なくとも3、4年以上の時間がかかる、ということになります。やはり、経験者のネクストステップ向きと思ったほうがよさそうです。

 

<リアルな事情>

現役時代にホワイトカラー労働者であった人が、リタイア後のセカンドキャリアとして士業を目指す例はそれほど珍しくありません。定年がなく、国家資格保持者としてのステイタスも期待できるので魅力的なのでしょう。

とは言え、さすがに50歳を過ぎて司法試験を目指す人はかなり珍しいと思われます。しかし、いないわけではありません。法務省が発表しているデータによると、これまでの最高齢合格者は2017年に合格した71歳の方だそうです。また、毎年のように60代後半で合格する人がいます。前述の通り、弁護士になるには受験資格を得てから5年の間に合格しないといけませんから、リタイア後に法科大学院などに入って勉強されたのでしょう。素晴らしいですね。

けれども、弁護士になったからといってすぐに世のイメージ通り“高給取りの弁護士先生”になれるわけではありません。弁護士事務所などに入って実務経験を積む必要があります。しかし、高齢者を見習いとして雇ってくれる事務所がどれほどあることか……。それでなくても近年弁護士の成り手が増え、若い人でも就職活動が大変だといいます。法律事務職員(パラリーガル)として長年勤めていたなど、特殊な事情がない限りやはりかなり厳しい道と言わざるを得ません。

司法書士、行政書士、社会保険労務士も同様です。ズブの素人が資格だけ取ったからといって、すぐに仕事につながるとは考えられません。

一方、現役時代に総務や人事、法務といった関連部署で仕事をしていた人であれば考慮する価値は十分あるでしょう。中には在職時から退職後を見越して資格だけ取得する人もいるようです。試験に一度合格すればその効力に期限はなく、各協会にはいつ登録してもよいからです。また、各業界で許認可関係の仕事に携わったことがあれば、行政書士の資格を得て経験業界に特化した営業をすることもできます。

会社員時代に得た経験を活かせるのであれば、キャリアのゴール地点として、またシニア起業として十分に現実的な道です。

 

たとえ合格しなくても

熟年に差し掛かってから新しいことを学ぶのは大変です。時間やお金を投資したのに結果を出せなかったらバカバカしいと考え、挑戦を躊躇する向きもあるでしょう。しかし、たとえ試験には合格できなかったとしても、生活に関連する法を学んでおくことは決して無意味ではないと私は考えています。なぜなら、老後のために知っておくべき制度や知識を得ることができるからです。

好例が成年後見制度です。

法的後見制度とは知的障害、精神障害、認知症などの理由で、判断能力に不安がある人たちを後見する制度です。老いれば誰もが認知症になる可能性がありますが、そんな時に当事者の生活を守るのが後見人の仕事です。

成年後見人になるための特別な資格は必要ありません。しかし、家族や肉親が後見人になるのは20%ぐらいにとどまるそうです。なぜなら、後見人になるには、それなりの能力が求められるからです。

後見人は家庭裁判所によって選任されますが、面談などを通じて家族が後見人になるのは難しいと判断された場合、司法書士や弁護士などから選ばれます。

この場合、報酬は、家庭裁判所が発生しうる業務量や被後見人の財政事情などを鑑みて決定します。月2万円程度のことが多いようですが、財産が多ければその管理が必要になってくるので、月6万円程度まで引き上げられることもあるようです。被後見人に支払い能力がないと判断されれば無料になりますが、普通に暮らしていけるだけの収入があれば月額は発生すると考えておいてよいでしょう。

しかし、もし家族の誰かが有資格者、あるいはそれに準ずるような知識があれば、家裁も認めてくれるでしょう。報酬金の節約になります。せこく感じるかもしれませんが、老後はなにが起こるかわかりません。節約は大事です。

それに、そもそも社会生活を送るにあたり、法や行政制度に関する知識は大きな武器になります。資格取得は最終目標として、勉強するだけでも十分意義があるのではないでしょうか。

 

※【こんなタイプにぴったり!】【こんなタイプはやめておいたほうが……】は、次回「その⑩-2」にまとめて記します!

 

 

門賀美央子(もんが・みおこ)

1971年、大阪府生まれ。文筆家。著書に『文豪の死に様』『死に方がわからない』など多数。
誠文堂新光社 よみもの.com で「もっと文豪の死に様」、双葉社 COLORFULで「老い方がわからない」を連載中。好きなものは旅と猫と酒。

◀第13回▶“お仕事”あれこれリサーチ その⑨──年齢や性別に縛られずに活躍できる「YouTuber」

<データ>

職業名 YouTuber(InstagramerやTick Tockerなど他媒体も含む)

業種 第三次産業

仕事内容 YouTubeなどインターネット上の媒体にコンテンツを公開して収益を得る

就業形態 個人事業

想定年収 0円~3億円

上限年齢 なし

必要資格 なし

必要技能 IT機器の知識、コンテンツ力

 

<どんな仕事?>

動画サイトYouTubeに自家製動画をアップし、世界中の人に閲覧してもらって広告収入を得るYouTuber。これが職業として認められるようになったのはごく近年のことです。ですが、今はもう税務申告で「YouTuber」と書いても通るそうです。

それを反映するように、YouTubeやYouTuberについて特段の説明をする必要もなくなってきました。高齢者にも視聴者が増えているとい言います。それどころか、発信者も少なくありません。InstagramやTick Tockも同様です。これらはすでに「第三のメディア」として定着したと考えてもよいでしょう。

YouTuber(以下、Instagramer/Tick Tockerも含むとお考え下さい)は、オリジナルの動画コンテンツを企画・制作し、YouTubeを通じて世界中の人々と共有するクリエイターです。動画の内容は、生活に密着したノウハウものから個人の生活記録、~してみた系、ゲーム実況などなど多岐にわたります。映像コンテンツにできるものならすべてが対象になると言っても過言ではありません。

極端に言えば、何かを撮影し、動画サイトにアップすれば、誰でも即座にYouTuberなのです。

ただし、コンテンツをアップしても即座に収益が得られるわけではありません。

収益化するにはYouTubeパートナープログラムに加入しなければならず、そのためには下記の条件を満たす必要があります(2024年5月現在)。

1.チャンネル登録者数:500人以上

2.直近12ヶ月間の公開動画の総再生時間:3,000時間以上

3.公開動画が3本以上

4.YouTubeの収益化ポリシー・ガイドを遵守している

 

無事にパートナーに認定されたら、主に以下の方法で収益を得られるようになります。

1.広告収入

動画再生時に画面表示される広告掲載で得られる収益。広告の種類や再生数、視聴者の属性などによって1再生あたりの単価が決まります。

2.投げ銭

生動画配信すると、その最中に視聴者から投げ銭と呼ばれるチップを得ることができます。

3チャンネルメンバーシップ

チャンネルメンバーシップとは、自分が運営するチャンネルのファンクラブのようなものです。メンバーになってくれた視聴者から月額料金を徴収します。メンバーには、メンバー限定動画や特典などを提供して対価とします。

4.アフィリエイト

動画内で商品やサービスを紹介し、その動画で紹介されたURL経由で購入された数に伴い、報酬が発生する仕組みを使って収益をあげます。

収益は、YouTube側が一定の割合を差し引いた上で、YouTuberに支払われます。つまり、YouTuberとは基本的には歩合制の仕事であると思えば間違いないでしょう。

人気YouTuberともなれば、テレビタレント顔負けの知名度を得ることができます。そうなると企業から商品紹介動画の作成を依頼されるケースも出てきます。この場合、企業から宣伝費が支払われます。

 

<リアルな事情>

YouTuberになるためには特別な資格など必要ありません。もっと言うなら、特技も不要です。ただあくびをして伸びをするだけの動画でも、それを面白いと思う人間が多ければたちまちバズる世の中です。

しかし、収益を得られるほどのYouTuberになろうとすると話は違ってきます。やはり「多くの人が、また見たい、何度も見たいと思うような動画」を制作する才覚が必要になります。

そこをクリアし、先述したYouTubeパートナープログラムに加入できるほどの登録者を得られたという前提で月30万円、1日あたり1万円をYouTubeで稼ごうとすると、下記のような試算になります。

動画の広告収入は1回の広告視聴単価✕動画の再生回数で計算されます。

動画再生で得られるのは1再生あたり0.1~1円前後ですが0.2円程度が平均値であるようです。

また、登録者の平均視聴率は30%、広告のクリック率2%とされています。

回数×単価が、即取り分になるわけでもありません。YouTube側が取る手数料があるからです。

これらを元にして計算すると1日につき8000回以上再生されなければ、目標額に至りません。チャンネル登録者が3万人規模でないと達成するのは容易ではないでしょう。

現在、日本でもっとも人気があるYouTuberはチャンネル登録者数が1000万人以上、中には3000万人に手が届くほどの人もいます。さらに海外に目を向けると億単位の登録者数を誇るYouTuberさえいます。このレベルになれば動画配信だけで億円単位で稼げるようになります。

けれども、これほどの人気を得ている=稼げているのはごくごく少数です。すべてのYouTubeチャンネルの中で、100万人以上の登録者数を誇るメガチャンネルは0.4%程度とみられています。平均的な登録者数は数百程度、さらに100人未満のチャンネルが約80%にのぼります。

つまり、インフルエンサー(ソーシャルメディアやインターネット上で、特定の分野において影響力を持つ個人)と呼ばれるほどたくさんの人々に見てもらえる人はごく一握りなのです。どんな世界であれ突出するのはごく一部、なのですね。

しかし、年齢や性別に縛られず活躍しやすい環境であることは間違いありません。

実際に高齢者でもYouTuberとして活躍している人たちはたくさんいます。

たとえば、おじいちゃん先生の愛称で知られる柴崎春通(しばさき はるみち)さん(76歳)の「Watercolor by Shibasaki」。2017年に開設されたこのチャンネルは水彩画の描き方をメインコンテンツにしていますが、チャンネル登録者数 はなんと180万人もいます。さらにTick Tockで100万人超、他のSNSでも10万人単位のフォロワーがいる文字通りのインフルエンサーです。

柴崎さんはもともとプロの絵画講師で、文化庁派遣芸術家在外研究員として渡米されたこともあるような方です。つまり元々斯界の名士ともいえる方だったわけですが、動画で人気が出たのはそれが理由ではありません。

色鉛筆やクレヨンといった誰でも手に入れやすい画材を使って素晴らしい絵を描き上げる過程を、時には雑談を交えながらの優しい語り口で見せる画面づくりが「癒やされる」として人気を得たのです。

ジャンルとしてはハウツーあるいはテクニック集系動画になるのでしょうが、技術だけでなく人柄やプレゼンテーション力が物を言うのがYouTubeの世界です。また、視聴者から寄せられた絵を添削するコーナーなども設けることで登録者と交流するコンテンツも設けているのが人気の秘訣でしょう。

「Watercolor by Shibasaki」 https://www.youtube.com/@WatercolorbyShibasaki

こうした人気チャンネルを多数閲覧してみてコツを勉強してみるといいかもしれません。ただし、単なる模倣では視聴者は振り向いてくれません。やはり個性が大事です。

 

収益を度外視するなら?

では、柴崎さんのように発信するに足るスキルを持っていなければYouTuberにはなれないのでしょうか。いえ、そういうわけでもありません。

本来、YouTubeとは個人が気軽に情報発信をするためのツールでした。あくまで趣味の延長線として考え、さほど収益にこだわらないのであれば、気軽に挑戦できます。スマートフォンの動画撮影機能とYouTubeへのアップロード方法さえ知っていればOK。スマホなんて使えない! というなら、撮影とアップロードは家族や知人にお願いする、なんていう手もあります。

高齢者YouTuberには、普段の生活をそのまま発信するだけで人気になっている方々もいます。彼らは特段大仰なポーズをとったり、特別おもしろいことを言ったりするわけではありません。むしろ自然な振る舞いが、視聴者にほっとした時間を与えるのです。

また、ハウツー系は、特別な技能がなくても、長年の暮らしの中で培ってきた「おばあちゃんの知恵袋」的ノウハウを披露するだけでも成り立ちます。箒とハタキだけを使う掃除手順やそうめんの美味しい茹で方などなど、「こんなこと、わざわざ見る人がいるの?」と思うような内容でも案外人気があります。おそらく、今どきの人は誰かに教えてもらうより、動画などで知りたい情報だけ見るほうが「タイムコスパがよい」と考えるのでしょう。

そうした実利に加え、発信者の人柄が垣間見えるようなもの、あるいは見ていて心地よい画面づくりであれば、うまくいけばファンを得ることができます。プラスアルファとして、「田舎暮らし」「団地暮らし」「都心暮らし」などなんらかの特徴を出せれば、一つのライフスタイル提案としてコンテンツに付加価値を与えることができでしょう。

もし動画が難しくても、静止画が撮れればInstagramerになれます。

もっとも重要なのはプレゼンテーション力。それも、素人らしい自然で親しみやすい雰囲気がある方が、人気が出る傾向にあるようです。

 

注意すべき点

市井の人々の生活をドキュメンタリー的に発信するのは既存メディアでもよくあった手法です。しかし、自分で自身をコンテンツ化し、世界に発信するという形式はやはりインターネットの発展なくしてはありえませんでした。

つまり、分野の歴史としてはまだまだ浅く、その分リスク管理のノウハウがきっちり確立されていないきらいがあります。

まず気をつけないといけないのは、登録者数や閲覧数を意識するばかりに内容が過激化することです。高齢者の場合、年の功でそうした心配はないと思われがちですが、自分の意見を発信するタイプの動画の場合、登録者の気に入るようなことを言おうとするあまりエコーチェンバー現象に陥り、過激思想や陰謀論にはまってしまう可能性があります。

また、生活系コンテンツの場合は、生活場所を特定されないように気をつける必要があります。犯罪から身を守るためです。こうした危機管理はやはり事前に学んでおくべきでしょう。

しかし、そこさえしっかりできれば、自分でコンテンツを作り、それを発表し、多くの人に観てもらうというのは楽しく、生きがいになるものです。人目を意識すると生活にも張りが出て、老化防止につながることでしょう。

YouTuberになるには、さほど費用もかかりません。いつ始めても、いつ止めても自由です。気楽にやってみるのもいいのではないでしょうか。

 

【こんなタイプにぴったり!】

・自己表現することが好き

・何かを伝えたい熱意がある

・社会通念をわきまえていて、そこから逸脱することはない

 

【こんなタイプはやめておいた方が……】

・強迫概念を持ちやすい

・極度のお調子者

・コンプライアンス意識が低い

 

 

門賀美央子(もんが・みおこ)

1971年、大阪府生まれ。文筆家。著書に『文豪の死に様』『死に方がわからない』など多数。
誠文堂新光社 よみもの.com で「もっと文豪の死に様」、双葉社 COLORFULで「老い方がわからない」を連載中。好きなものは旅と猫と酒。

◀第12回▶“お仕事”あれこれリサーチ その⑧──年齢が高いほど信用してもらえる「占い師」

<データ>

職業名 占い師

業種 第三次産業

仕事内容 人の運勢を占い、アドバイスをする

就業形態 個人事業

想定年収 100万~1000万

上限年齢 なし

必要資格 なし

必要技能 占術の知識、コミュニケーション能力、コンプライアンス精神

 

<どんな仕事?>

占い師は、様々な占術を用いて人々の未来や人生上の決断に対して助言を行う職業です。

即物主義や合理主義が蔓延する現代社会においても、未だ占いに関心を持ったり悩み事を占い師に相談したりする人は少なくありません。その市場規模は約一兆円とも言われています。なかなかのビッグビジネスです。

日本でポピュラーな占術は、大別すると西洋系と東洋系に分かれます。

テレビや雑誌などで日々触れる機会がもっとも多いのは西洋占星術、いわゆる「星占い」でしょう。とはいえ星占いは12パターンで運勢を予想するかなり大雑把な内容です。どれぐらい大雑把なのかを天気予報でたとえると「アジアの天気は晴れ、ヨーロッパは曇り、アフリカは雨」レベルになります。

本来の西洋占星術は、対象が出生した時のホロスコープを元に占います。ホロスコープは生まれた月日だけでなく出生時間や出生場所まで関係してくるので、かなり複雑で個人差もあります。よって、運命や性格、運勢を判断するのに適するとされています。

タロットカードと呼ばれる占術用のカードを使う占いも人気です。タロットカードは中世後期の欧州地域で遊ばれたゲーム用のカードが起源とされていますが、日本で流行するようになったのは1970年代以降のことです。カードの神秘的で象徴的な絵が乙女心をそそり、若い女性を中心に人気が出始め、やがて一般に広がりました。主に問題解決のヒントや近未来の展望を知るのに適するといいます。

東洋系占術の代表格は四柱推命でしょう。五行思想に基づいて理論構築されており、生年月日時から導き出される「四柱」と呼ばれる情報を元に性格の傾向や運勢を判断します。また、吉凶判断にも適するとされるため、仕事や進路の選択など、人生の重要な局面で活用される傾向にあります。

身体的特徴から占断するのは手相占いや人相占いです。手のひらの線や形、顔の相から性格や運命、未来の出来事を予測します。生年月日と違い、フィジカルな特徴は年月とともに変化するので、短期スパンの運勢を見るのに用いられます。

人相見が併用することが多い易占(えきせん)は、古代中国で書かれた古典「易経(えききょう)」を原理とする占術で、卦(け)の組み合わせから未来を予測します。昔は繁華街に行くと一人や二人は人相見が座っていたものですが、近ごろはめっきり見かけなくなりました。

同じく古代中国由来の占いでは風水も人気です。住居に由来する運勢診断に使用されるため、建築やインテリア関連の企業と結びつきやすいのが特徴です。そこから派生した風水グッズはすっかりおなじみになりました。

占術を用いない「霊感占い」もあります。これは霊的インスピレーションを元にするので、技法よりも個人の資質に頼ることになります。

このように日本では多種多様な占いが根付いており、好みによって選ぶことができます。その気になればオリジナルの占法を編み出すことも可能でしょう。

営業場所は常設店舗のほか、週末などの特定日に商業施設の催事として開かれる占いコーナーなどが主になります。一方、直接対面せず、電話やネットを使用する場合もあります。いずれの場合も運営会社と業務委託契約を結び、報酬に関しては歩合制を取ることが多いようです。もちろん、完全な個人経営も可能です。その場合集客や占い場所の確保などは自分自身でしなければなりません。

また、雑誌やWebのコンテンツ、あるいは占いアプリに占いを提供する仕事もあります。この場合、報酬は原稿料や業務委託料として提供先から受け取ることになります。

人気占い師になると、独自の占い本を出す機会にも恵まれるでしょう。それが大ヒットすれば高額収入も夢ではありません。

 

<リアルな事情>

占い師になるために必要な資格は特にありません。私の職業であるライターと同じで名乗ったもの勝ちです。しかし当然ながら、お金を稼ぐ手段にするには他の職業同様に前提となる知識やテクニックが求められます。今回はそのリアルな事情を現役の占い師さんから直接伺うことにしました。

話してくださったのは大阪で長年占い師をしておられる山葵(わさび)さんです。主に商業施設の占いコーナーで対面の占いをされているほか、Webページの占いコーナーを担当されています。

 

山葵さんプロフィール

https://enso.co.jp/profile_popup/uranai_info.asp?idx=10000058

 

山葵さんは、四柱推命とタロットカードをメイン、補助として手相なども取り入れた総合的な占いを実践しています。

占いの勉強を始めたのは28歳のころで、定年のない仕事をしようと思いたち、占い師を志されたそうです。

勉強の手段として最初に選んだのはカルチャーセンターの占い入門講座でした。そこで基礎的なことを学んだ後、講師からの勧めによって本格的に学べる占い学校に移りました。月謝はそれほど高くなく、20代の勤め人でも出せる程度だったとか。現在でもカルチャーセンターの占い講座の月謝は3000円から5000円程度のところがほとんどなので、経済面では比較的学びやすいかもしれません。資本を十分用意できない50代が一から起業するにはうってつけです。

一般的には3年ほどで占い師になることが多いようですが、山葵さんは2年ほど教室で学び、その後講師の推薦を受けて占い師としてデビューしました。最初の占いの場は教室の運営会社が提供してくれました。とはいえ、雇用関係ではなく、個人事業主として会社から業務委託の形でした。

このパターンが職業占い師になるにはもっとも効率的かつ障壁が少ない方法でしょう。独学かつ市場開拓も一から自分でやれば、報酬はすべて自分のものになりますが、かなりの労力が必要です。その点、業務委託だと報酬は歩合制がほとんどであるものの、事務手続きやその他の諸作業は委託元がするので、占いに専念できるのがメリットです。なお、一部日給制の場合もあるそうです。

 

学ぶのに遅すぎることはない

さて、山葵さんは20代で占いの世界に入られました。しかし、これはむしろ特異な例で、占い師を始めるのは50代ぐらいからがもっとも多いそうです。そう、占いはシニアになってから堂々と始められる、それどころか加齢がアドバンテージになる数少ない職業なのです。

その背景には、占い師は年齢が高い人ほど信用してもらいやすい、という特性があります。理由ははっきりしていますね。占いとは詰まるところ人生相談です。若い人より、ある程度劫を経た感じの方が言葉に説得力が感じられるのでしょう。占い師の世界は50代ではまだまだひよっこ扱いされることもあるそうです。デビューが早かった山葵さんは、若い頃はできるだけ老けて見えるよう服装などに気を使われたと言います。

では、占い師になるにはどのような能力が必要でしょうか。

霊感? スピリチュアルな能力?

いえ、そのようなものは二義的であって、一番必要なのはまず人の話を聞く力であり、さらにいえば人の話を聞くことそれ自体を楽しめる力だそうです。顧客の中には長話をする人や聞くだけでもつらい話をする人もいます。そういう時でも興味を失わず、最後には「この人の話を聞けてよかった」と思えるタイプでないと職業としては長続きしません。

逆に向いていないのは、自分の出した占い結果に固執しすぎて相手に合わせられない、自分の意見を押し付けてしまいがちなタイプです。また、占いが好きすぎる人、信じすぎる人はやめた方がいいようです。むしろ、ある程度「占い」そのものを客観視していて、時には懐疑的にもなれないと顧客によいアドバイスができません。

占法も一つに頼るのではなく、複数知っておいた方が有利です。相談内容は多岐にわたる一方、占法はそれぞれどのような内容を占うのに向くのかが分かれます。山葵さんの場合、運勢は四柱推命で、個別の問題解決はタロットカードを使用することが多いそうです。武器は多いほうがいいのも、また一般的な職業と何ら変わりありません。

占い師がシニアの職業に向いている理由は他にもあります。老若男女を問わず、様々な人とコミュニケーションを取ることができる点です。

普通、退職などすれば人間関係が狭くなり、付き合う相手も同世代に限られがちになります。その点、占い師をしていれば、それこそ孫世代とも話すことになります。年の離れた世代の新しい価値観や、昔と変わらない悩みなどを聞くことによって気持ちの若さを保てるでしょうし、自身の視野も広がることでしょう。また、顧客に感謝されれば、老いると失われがちな自己肯定感も高い状態で維持できるかもしれません。

山葵さんが所属する事務所の占い師平均年齢は60歳後半、80歳を超えた方も現役で活躍されています。そうした方の中には60代に入ってから占いの勉強を始められた方も珍しくないということでした。つまり、学ぶには遅すぎるといった心配も不要。結局のところ、人を受け入れる包容力、もっといえば「人が好き」かどうかが占い師として成功するための一番の鍵であるようです。

 

【こんなタイプにぴったり!】

・人と話をするのが好き

・一つのことを一生かけて勉強する意欲がある

・どんな相手でも対処できる柔軟性がある

 

【こんなタイプはやめておいた方が……】

・コミュニケーションが苦手

・意見を押し付けがち

・なにかを信じたら疑わなくなる

 

 

門賀美央子(もんが・みおこ)

1971年、大阪府生まれ。文筆家。著書に『文豪の死に様』『死に方がわからない』など多数。
誠文堂新光社 よみもの.com で「もっと文豪の死に様」、双葉社 COLORFULで「老い方がわからない」を連載中。好きなものは旅と猫と酒。

◀第11回▶“お仕事”あれこれリサーチ その⑦──「農業」を生業にするために直面すること

<データ>

職業名 農業

業種 第一次産業(第六次産業)

仕事内容 農作物や畜産物の生産

就業形態 経営

想定年収 100万~1000万

上限年齢 なし

必要資格 なし

必要技能 農業知識、経営能力、コミュニケーション能力

 

<どんな仕事>

農業についてはいまさら説明するまでもないでしょう。

近年、第一次産業の従事者が減り続け、後継者のいない耕作放棄地が社会問題になっています。そのため、農林水産省が率先してシニア世代(といっても50~59歳)の新規就農を勧めるような動きがあります。

また、退職後は農業地帯に家を持ち、新たに就農したいと希望する人たちも少なくありません。その多くは実家が農家など、元々第一次産業とつながりがあるケースですが、中にはまったくの新規就農を希望する人たちもいます。

イメージとして(あくまでイメージとして)、農業は老人でも就業が可能で、退職後にも充実した日々を送ることができる、いわゆる悠々自適のカントリーライフを得る手段と捉えられています。さらに、自家消費用の作物を得られれば家計の足しになりますし、直売所での販売などによって現金収入源を確保できます。もちろん、初期投資は必要ですが、退職金を活用して環境を整えることはできます。

また、地域に密着することで新たな人間関係を構築できれば、満ち足りた「終の棲家」を得ることもできるでしょう。新規就農の場合、経験や知識の不足といった課題が伴いますが、各地域の公的機関が提供する新規就農者への支援策や、居住地域の先達の協力を得ることで、スキルを身につけながら地域社会に溶け込んでいくことができるかもしれません。

また、もう少し事業寄りに考えるなら、農林水産業(第一次産業に製造業⦅第二次産業⦆と商業⦅第三次産業⦆)を融合させる第六次産業分野での起業を視野にいれるべきでしょう。

従来の農林水産業は、主に一次産品を生産し、協同組合などを通して出荷するのが中心でした。しかし、現在は生産者が自ら製造、流通、サービスに参入し、商品開発や加工、Eコマース(電子商取引)や直売所での販売などに携わるケースが増えています。

また、アグリツーリズムと呼ばれる、農業体験を都市部や外国からの旅行者に提供するサービス業も盛んになりつつあります。

2011年には「六次産業化・地産地消法」が施行されました。この法律は生産者の所得向上と地域活性化の両立を目指し、国の支援策も設けられています。これからの農業を事業として運営するならば、第六次産業化は避けられません。しかし、それには複数の業種にわたるノウハウの習得や設備投資が必要です。そのため、中小規模の生産者には負担が大きく、新規就農者がいきなり目指すにはかなりハードルが高い面があります。しかし、農業は初めてでも食品製造や流通販売に携わっていた経験があれば、必ず役立つでしょう。生産者として、地域の協力を得ながら、付加価値の高い事業モデルを構築できれば可能性はあるプランです。

 

<リアルな事情

自然と触れ合う、だけでない

シニアが新規就農する場合、既存農家の後継者として入るのであればさほど障壁はないでしょう。少なくとも住宅や農地や機材は揃っているはずです。現実に、地域農業を保持する役割を期待されてもいます。

ですが、完全に見知らぬ土地で新規就農となるとなかなか厄介です。

シニア雑誌の特集などを見ると、古民家を購入して自家消費用の野菜を無農薬で育てたりしている方々が、実によい笑顔の写真付きで紹介されています。ですが、よく読むと最初から現地となんらかの縁があった、あるいは資産的に余裕があるというケースが多いように見受けられます。

農業が今担い手不足に直面しているのは確かです。そのため労働力の多くを海外からの“研修生”に頼っています。もし、まったくの素人が、本当に一から生活の糧を得る手段として農業を始めるのであれば、“研修生”同様に“研修”と呼ばれる下働きに従事し、農業の実際を覚えるという手はあるかと思います。ですが、おそらく、なんの準備もしていないシニアには体力的にも精神的にもきついはずです。農園の仕事は田畑を耕すだけではありません。付随する作業が色々とあり、これがまた大変なのです。

先般、私はとある農園の作業所で出荷準備のアルバイトをしている方のお話を聞きました。その方は毎年真冬限定で発生する出荷作業をしているのですが、屋内作業とはいえ作物の傷みを防ぐために温度はほぼ外気温と同じ。太陽が遮られている分、よけいに寒くなります。そんな中、8時間ほどひたすら黙々と流れ作業をすることになります。正直、かなりの苦痛だそうです。そこには、農村風景で想像されがちなような、和気あいあいとおしゃべりしながら、時にはお茶でも飲んで、なんていうのどかな風景はありません。むしろ、食品工場の流れ作業に近い雰囲気だそうです。一日中同じ場所に立ってベルトコンベアを流れてくる弁当箱にハランを置くだけ、みたいな、あの感じです。

今どき、生産品に少しでも異物混入があればクレームにつながります。それがたとえ農作物であっても、虫や髪の毛の混入などもってのほかであるわけです。よって、食品工場並とまでは言いませんが、それに近い衛生管理がされています。私語も厳禁、だそうです。

耕作そのものの厳しさは比較的想像がしやすいでしょうが、農業にはその他の作業もたくさんあります。

結局のところ、素人の日曜菜園と産業としての農業ではまったく話が違うことを理解しておかないと、生活の糧を得る手段としての新規就農はかなり厳しいでしょう。

 

小規模営農ならば可能か?

では、最初の例に出したような自家消費+αの小規模営農はどうでしょうか。

結論から言うと、これも簡単ではないようです。

そもそも農業は熟練のスキルが要求される職業です。作物の栽培方法、病害虫への対処、機械の扱いなど、若いうちから先達に教わっていれば次第に一人前になれるでしょうが、定年後にいきなりこれらを独学するのはほぼ不可能でしょう。また、農作業の肉体的負担に耐えられるだけの体力があるでしょうか。テレビなどでは後期高齢者でも農作に励む姿が映し出されたりしますが、あれは長年やってこられたからこその姿です。基礎体力が違います。

人口減少が続く自治体などでは就農支援のための研修制度が設けられていたりしますし、農地も公的機関の斡旋で借りることができます。それでも、土地をよく知り、その場所に適した農業を教えてくれる先達が不可欠です。なぜなら、多くの場合、農村は独自のルールでつながる独立した共同体だからです。

いわゆる「田舎の習慣」に馴染めるかどうか。それが、シニア就農者が成功するかどうかの分かれ目と言われています。

「田舎の習慣」というと、なにやら不合理や因習の塊であるように誤解する人もいますが、実際はその共同体が共存共栄するために長い時間をかけて生み出した慣習です。その地域なりの理があるわけです。それを無視しては暮らしていけません。

移住しての新規就農に失敗する例は、十中八九人間関係構築の失敗にあるといいます。

よくあるのが、自然農法をいきなり持ち込んで、周囲の農家の不興を買うパターンだそうです。

都会の人間は無農薬や有機栽培が大好きです。しかし、周囲一帯が農薬や化学肥料を使う慣行農法(標準的な農法)の農家である中、自分の田畑だけ有機農法をやりたいと言っても普通は受け入れてもらえません。

なぜなら田畑には境目がなく、土も水も空気もつながっているからです。病虫害を防ぐには地域が一斉に同じ対策を取らないと意味がありません。自分のところだけやりたくない、では済まないのです。ですが、そこを理解できず、我を通して周囲との関係が悪化し、結局は地域から出ていかなくてはならなくなるケースは珍しくないとか。

また、自家消費で余った作物を破格の価格で販売するせいで、正当な値段(それでも一般流通品に比べれば安いわけですが)で販売している直売所が影響を受けるというケースもあると言います。無邪気な販売が価格破壊を起こしてしまうのです。これは、それで糧を得なければならない人たちにとっては大変困ったことです。当然、プロの農家の生産品と半素人のものでは品質に雲泥の差があるわけですが、消費者はとかく値段だけを見がちです。

結局のところ、農村で農家としてやっていくためには、規模の如何にかかわらず、その地域のルール内でやっていかなければならない。そのためには、土地をよく知らなければならない。つまり、土地の人々と良好な関係を築き上げた上でないと不可能です。ということは、新参者がいきなり現れて始めるのは無理、ということになります。

もし本気で就農したいのであれば、数年前からその土地に通い、キーマンとなりそうな人を見つけ、少しずつ関係を深めた上でアドバイスを受け、支援してもらいながら移住するのがベスト、ということになります。その第一歩として、アグリツーリズムの「収穫体験」や「耕作体験」に応募してみるのも手かもしれません。最近は短期就業を前提とした旅行を斡旋するサイトなどがあるので、アクセスしてみるといいでしょう。

また、農業の現実的な情報を発信するサイトや、新規就農のノウハウ本も出ています。雑誌の特集などで憧れるだけでなく、現実的な情報を収集し、計画的に準備できるのならば、素敵なシニア農業ライフも夢ではないと思います。

いずれにせよ、新規就農を成功させる上で大事なのは、長期的な計画であるようです。そしてこれは営農の上でも大変大切だということです。なにせ自然相手の仕事ですから、年々で結果が違います。収入は市場価格に左右されるし、たった一回の災害ですべての努力が無になることも計算に入れておかなければなりません。自然は決して人に優しいものではないので。

 

【参入方法】

・新規就農を募集する地域の役所や農協などに相談する

・就業前提旅行などで農業体験を重ね、農村との縁を作る

参考:おてつだび https://otetsutabi.com/

 

【こんなタイプにぴったり!】

・体力がある

・計画性がある

・協調性がある

・柔軟性がある

 

【こんなタイプはやめておいた方が……】

・金銭的な余裕がない

・情報収集が苦手

・何があっても我が道を行きたい

 

 

門賀美央子(もんが・みおこ)

1971年、大阪府生まれ。文筆家。著書に『文豪の死に様』『死に方がわからない』など多数。
誠文堂新光社 よみもの.com で「もっと文豪の死に様」、双葉社 COLORFULで「老い方がわからない」を連載中。好きなものは旅と猫と酒。

◀第10回▶“お仕事”あれこれリサーチ その⑥──一国一城の主を目指して「起業」

<データ>

職業名 社長/団体代表

業種 全産業

仕事内容 多種多様

就業形態 経営

想定月収 0万円~天井なし

上限年齢 なし

必要資格 なし

必要技能 経営能力

 

<どんな仕事>

起業とは、読んで字の如し、新しく事業を起こすことです。

事業の内容はなんでもOK。第一次産業から第三次産業まで、どの業種でも事業を始めることができます。

一般的には、法人設立を以て事業を開始するのを起業といいます。個人事業主として事業を始める場合は「開業」と呼ぶことが多いようです。しかし、これはあくまで言葉上の問題で、やることは同じ。自分が事業主として新規事業を立ち上げればそれは「起業」です。

法人として事業を起こす場合、株式会社や合同会社など営利企業として立ち上げる方法と、NPO法人や公益法人など非営利団体で始める方法があります。利益を出しやすい事業は営利企業、社会的意義はあるが利益は出づらい=還元できないタイプの事業はNPO法人で起業することになります。ただし、NPO法人が利益を出してはいけないわけではありません。出た利益を出資者などに配当してはいけないだけです。給与として従業員に配分するのは問題ありません。もちろん、社会通念を越えるような高額給与であれば監査の時点で待ったがかかるとは思いますが。会計監査が必要なのはどんな法人でも同じです。それぞれにメリットとデメリットがあるので、事業内容や規模、資金調達方法などを考慮して、事業内容にもっとも適した形態を選ぶ必要があります。法人化する最大のメリットはやはり社会的信用でしょう。

個人事業主として事業を起こすならば、法人を設立する必要はないため、大きく開業資金を節約できます。手続きも税務署への開業届ぐらいで済みます。事業拡大を目指さず、食い扶持を稼ぎつつのんびりやるならば個人事業主でも十分かと思います。ただし、法人が有限責任であるのに比べ、個人事業主は無限責任を負うため、事業上のリスクが大きくなるという欠点があります。つまり、大きな取引をするには向かない、ということです。

いずれにせよ、起業する前には事業計画や資金調達方法など、しっかりと準備しておくことが重要です。

では、後半生であえて起業するメリットはどこにあるのでしょうか。

やはり一番は一国一城の主になれることでしょう。自分のアイデアを実現するために働くのは、雇われて命じられるまま仕事をするスタイルとは比べ物にならないほど喜びを感じられるはずです。鶏口と為るも牛後と為る無かれ、の気概がある向きには最適の働き方でしょう。また、大きく成功すれば勤め人では得られない大きな収益を得られます。事業内容によっては社会貢献にもなるので、社会的動物としてこの上ない満足感を得ることもできます。

では、デメリットはなんでしょうか。それは一にも二にもリスクの高さです。一国一城の主になるとはつまり、一朝事あらば真っ先に首を取られるということでもあります。また事業が軌道に乗るまでは収入が不安定になりますし、事業主にはタイムカードなどないのでどうしても長時間労働になる傾向があります。

どのような業種であれ、起業は自分の可能性への挑戦です。その分、リスクも伴います。特に高齢者の起業はしっかりとした事前準備をしておくことが重要です。

 

<リアルな事情>

シニア起業、という言葉を聞いたことはないでしょうか。

これは、定年退職をした人たちが新たに自分の事業を立ち上げることをいいますが、最近では50代で早期退職などをし、起業する人たちも増えているそうです。

背景は色々あるでしょうが、国がシニア起業を奨励しているのは見逃せない点です。たとえば日本政策金融公庫ではシニア向けに優遇された特別利率を用意する新規開業資金融資がありますし、各自治体でも助成金を出すことが増えてきました。

では、なぜ公が起業を奨励するのでしょう。

理由は明白です。年金だけで生活する高齢者を極力減らしたいからです。

制度としての年金は破綻しない、とされています。少なくとも向こう100年ほどは。ただし、給付水準が今後低下の一途をたどるのは火を見るよりも明らかです。年金問題に触れるとキリがなくなるので、ここではこれ以上言及しませんが、平均して20年から25年はあるであろう退職後の人生を年金のみで暮らしていけるのは、公務員や教員など一部の何層にも手当された年金制度に加入してきた人たちだけです。老後収入が国民年金のみであれば、行く末はホームレスです。

では、高齢者の雇用を維持すればいいかというと、それも難しいところがあります。現在では定年が60歳、そのあと5年は継続雇用制度を使う人が多いでしょう。つまり年金受給開始年齢までは、現役時代より大幅に減るとはいえ、会社からの給金が一応保障されるわけです。また2021年の高年齢者雇用安定法の改正により、2025年を目処に65歳定年制が義務化され、努力義務ではあるものの70歳までは就業機会を確保するよう求められるようになりました。これにより安定収入を得られる期間が長くなった人もいるかと思います。

しかし、企業側にしてみれば社会保険の負担が続くことになります。以前は65歳以上であれば雇用保険料が免除されていましたが、2020年4月1日からは高年齢労働者についても雇用保険料の納付が必要となりました。ご存知の通り、被雇用者の社会保険料は雇用側が一定額を負担することになっています。現在のような実体経済の伸長を伴わないコスト高傾向が続けば、こうした負担を嫌う企業が増えることでしょう。政府は経済界の意向も汲んで政策を決めますので、今後高齢者雇用については必ずしも楽観できない状況が続くと思われます。

要するに、高齢者には自分の責任で仕事をして自力で稼いでほしいというのが、政府や経済界の本音なのです。

 

シニア起業のキラキラは本物?

最近、シニア起業のキラキラ成功例を紹介する記事や番組が目立つようになってきました。シニア起業の成功率は20代の倍以上、7割に達する、なんて惹句も散見します。しかし、私は、個人的には、眉唾だと思っています。

そもそも起業の成功とはどのような状態を指すのでしょうか。年商何千万に達すること? それとも起業後10年は潰さないでいること? 基準が曖昧です。

私も個人事業主ですので一応は起業経験者、ということになります。そして、ほぼ物書き仕事だけで20年近く食べていますので、成功といえば成功の部類に入るのかもしれません。しかし、実感は成功とは程遠いものがあります。正直食べていくだけで精一杯ですし、これから先、安定して稼げるとも限りません。しかし、統計上は廃業していない=失敗していないということで成功にカウントされるでしょう。でも実態は「実感なき成功」なのです。「実感なき景気回復」のようなものです。

おそらく、今後もシニア起業を勧めるような記事や番組はどんどん作られていくと思います。しかし、それらは政府によるプロパガンダと思って、話半分で見ておくのが吉でしょう。

半分の話から夢を見るのもいいと思います。ただし、失敗した時、家族や親しい人に累が及ぶかもしれません。60代で退職金などを注ぎ込んだ末、事業に失敗したらどうなるでしょうか? 若い頃と違い、再起はなかなかしんどいものです。シニア起業の怖さは、失敗した時の取り返しのつかなさにあります。それを承知の上でなお起業を目指すのであれば、それは大変素晴らしいことです。社長って響きはやっぱり魅力的なのでしょうし。

老婆心ながら、計画は御家族ともよく相談なさったうえでお進めになるのがいいかと存じます(最後にわざわざこんなことを書くのはどうしてかって? それをしないでえらいことになったケースが山ほどあるからさ)。

 

【参入方法】

・法人設立

・個人事業開業

 

【こんなタイプにぴったり!】

・勤勉実直かつ柔軟性がある

・バランスの取れたものの見方ができる

・やりたいことが明確

・リスクを正しく恐れることができる

 

【こんなタイプはやめておいた方が……】

・安定志向

・大企業での勤務経験しかない

・何かあっても責任は取りたくない

・資金が豊富にあるわけではない

 

 

門賀美央子(もんが・みおこ)

1971年、大阪府生まれ。文筆家。著書に『文豪の死に様』『死に方がわからない』など多数。
誠文堂新光社 よみもの.com で「もっと文豪の死に様」、双葉社 COLORFULで「老い方がわからない」を連載中。好きなものは旅と猫と酒。

◀第9回▶“お仕事”あれこれリサーチ その⑤──スキマ時間を活用、「在宅でできる」お仕事

<データ>

職業名 在宅ワーク/内職

業種 全産業

仕事内容 多種多様

就業形態 業務委託契約

想定月収 1万円~20万円

上限年齢 なし

必要資格 なし

必要技能 地味な作業をコツコツできる/手順を守って作業できる/納期を守れる

 

<どんな仕事>

内職は、法人や個人から業務委託の形で仕事を受け、自宅での作業によって報酬を得ます。作業内容は部品組み立てや梱包、シール貼り、簡単な裁縫、ゴム/ビニール製品のバリ取り(付着物や残留物などを取る作業)のような軽作業のほか、パソコンでのデータ入力などがあります。

内職の最大のメリットは、自宅で仕事ができることです。当然拘束時間や通勤時間は発生しません。また、作業に必要な物品や道具類は発注元が提供し、自宅まで配送してくれるので、初期投資や継続経費はほぼ0で仕事を始めることができます。

このため、子育てや介護など、なんらかの理由で家を空けられない人がスキマ時間で稼ぐにはちょうどよい方法といえるでしょう。

また、自分のペースを乱されるのが苦手なタイプは、納期さえ守ることができれば、作業時間や休憩時間は完全におまかせ、自由に設定できるのが魅力です。

しかしながら、内職には見逃せないデメリットがあります。

それは異様なまでの単価の安さです。基本、内職は単純作業の出来高制のため、やればやるほど稼ぐことはできるわけですが、1つあたりの工賃が銭単位で設定されるのも稀ではありません。さらに、作業内容によっては仕事量の季節変動が大きく、収入が不安定になることもあります。

また、あくまで「業務委託」なので休業補償や労災保険など、雇用者なら受けられる保護などからも完全に外れます。つまり、作業中になんらかの事故が発生しても基本は自己責任になってしまいます。

よって、生計を立てるための仕事にするには不向きな働き方といえるでしょう。

 

<リアルな事情>

内職という言葉にどんなイメージを持っているでしょうか。

昭和の頃の漫画やドラマでは、割烹着を着たお母さんが薄暗い部屋のちゃぶ台の前に座って造花作りや封筒を折る、なんて光景が貧困家庭を表現する一種の定型だったりしました。

でも、実際の内職はそこまで暗いものではありません。

家族や仲間たちと一緒におしゃべりしながら、あるいはラジオを聞きながらでもできる作業もあるので、気楽といえば気楽です。

私も、小学生の頃、幼馴染のおうちで時々靴下梱包のお手伝いなどをしたことがありました。ダンボールに入った靴下をきちんと二足揃え、透明のビニールに入れて、封紙を上から被せてホッチキスで止めます。

またガチャガチャ用のおもちゃをカプセルケースに詰める仕事、なんていうのもありました。

単純作業ですが綺麗に仕上げるにはそれなりにコツが必要で、上手にできて褒められたりすると大変うれしく思ったものでした。ガチャガチャの方は時々余ったおもちゃをもらえることがあり、なんだか役得気分を味わいました。

今考えたら、完全に労働力を搾取されていたわけですが。

それでも子ども同士でワイワイやるのは楽しく、よい思い出になっています。ちなみにお給料はドーナツ1つとか、カルピス1杯だったような気がします。

このように、基本は子どもでもできるような作業が多いので、仕事を発注する側もたいしてうるさいことは言いません。マニュアル通りに作業し、納期を守ることさえできれば、明日からでもできる仕事といえるでしょう。

 

単純作業だからこその安さ

しかし、最大のデメリットは、前述した通り工賃の安さにあります。

内職は出来高制の業務委託なので、取引先とは労使関係にはありません。つまり、最低賃金の適用外なのです。

よって、工賃は時に非人道的と思えるほど抑えられます。

たとえば、ビニール製品のバリ取り――プレス加工したビニール製品を手でちぎりながら抜き出す作業などは100枚あたり40円だったりします。つまり1枚につき40銭です。お金の単位として「銭」がまだ生きているなんて、信じられませんね。でも、内職の世界では銭は十分現役です。

その結果、時給換算すると500円にも満たないケースが発生します。最安値だと1時間作業して数十円にしかならない、なんてことさえあるのです。作業への習熟度合いによって一定時間に作業量は変動しますが、それでも平均時給に達することはまずないでしょう。

 

パソコンを使った内職はもう少し単価が高いものの……

では、(これよりも)高給を期待できる内職はないのでしょうか。

実はあります。パソコンを使ったデータ入力作業や音声起こし作業です。たとえばアンケート結果や議事録などの入力などがあります。

データ入力作業は、クライアント(発注元の呼称はなぜか突然カタカナになります)から元データを受け取り、それを指定されたデータ・フォーマットで再入力するのが主な仕事です。たとえばアンケート結果や議事録などの入力があります。

だいたいの場合、入力1文字につき単価が決められており、1文字0.1円ぐらいが相場のようです。作業用語はカタカナになっても単価だけは戦前のままなのですね。

とはいえ、当然ながら一文字だけ打つ、なんて依頼はありません。ある程度まとまった量を入力することになるので、ちりも積もればなんとやら、時給換算すると最低でも1000円程度にはなるようです。入力スピードが速ければ速いほどたくさんの作業ができますから、本人のスキル次第ではもっと多く稼ぐこともできます。

一方、音声起こしの単価は一文字1円程度と、単なるデータ入力の10倍になります。

ただし作業時間は単なるデータ入力の比ではありません。なにせ、音声データを聞き取って、それを打ち込まないといけないわけです。

聞いた通りに入力する、と聞けば一見簡単そうですが、やってみるとなかなか大変です。私は仕事柄、自分がインタビューした内容を文字に起こす作業は日常的に発生しますが、全作業の中でもっとも骨が折れるパートで、正直一番嫌いです。I hate 文字起こし、です。

また、音声は必ずしも日常会話的なものばかりとは限りません。たとえば先端科学のシンポジウムなどでは聞いたこともないような専門用語がバンバン出てきます。人間の耳というのは不思議なもので、知らない単語はなかなか聞き取れないのです。

一般的な文字起こし作業の場合、聞き取れない部分はそのままにして、音声の経過時間を明記した上で聞き取り不能、などとして提出することは許されています。ですが、あまりにもそれが多いようでは次から仕事が来なくなるでしょう。逆に、完璧な文字起こし原稿を作成することができれば、高い単価で引き受けることも可能です。

ただ、こうしたパソコンを使った単純作業は今後どんどん減っていくと予測されます。

AIの急速な進歩が、人間の作業領域を侵食しつつあるからです。もちろん、AIによる音声起こしのレベルはまだまだ不完全ですが、作業補助としては使えるので、これまで外注してきた作業を内部でやってしまうことも増えています。おそらく、近い将来、完全にAIに切り替わってしまう分野であると思われます。

その点、データ入力の需要はまだ残るでしょうが、スマホなどの普及によってデータそのものが最初からデジタル入力されることが増えています。よって、これもまた今後は仕事量そのものが減っていくのは避けられないでしょう。

一方、靴下の封入やバリ取りが、AIやロボットに取って変わられることは近い将来はありえません。そうした作業を専門にさせる機械を作るより、低価格で人間にやらせた方が経費を抑えられるからです。

21世紀も後半になると、人間がパソコンに向かってやるような作業のうち、簡単なものはすべてAIに取って代わられていることでしょう。

けれどもアナログでしかできない作業が残るのは確実です。

IT技術の進歩は、人間から高時給の軽作業を奪い、低賃金の、昔ながらの内職だけを残すことになりそうです。

 

内職、最大のメリットは意外なところに

このように収入を得る手段としてはあまりメリットがない内職ですが、実は一人暮らしの高齢者には見逃せない大きなメリットがあります。

それは「独りで死んでしまっても、長時間発見されない」リスクを減らすことができる点です。

内職は、必ず材料を持ってきて成果物を受け取る集配係の人がいます。少なくとも一週間に一度程度、多ければ毎日誰かが家を尋ねてきて、必ず会話が発生することになるのです。

事は仕事に関わるので、応答がなければそのまま放置して帰る、なんてことにはなりません。必ずどこかにコンタクトを取って、結果的に安否確認をしてくれるでしょう。

高齢者の引きこもりは社会問題にもなっていますが、内職で孤立死のリスクヘッジができると思えば、安い工賃でもやる価値はあるかと思います。

 

【参入方法】

・ハローワークで探す

・インターネット上の求人サイトで「内職」と検索して探す

・内職求人サイト: シュフティ、タイミー、クラウドワークスなど

・企業のホームページを探す

・小規模な町工場が多い地域に住んでいる場合、募集チラシや広告が出ることがある

 

【こんなタイプにぴったり!】

・黙々と作業するのが好き

・同じことの繰り返しが苦痛ではない

・お小遣い程度稼げればいい

 

【こんなタイプはやめておいた方が……】

・納期を守れない

・手先が不器用

・大金を稼ぐ必要がある

 

 

門賀美央子(もんが・みおこ)

1971年、大阪府生まれ。文筆家。著書に『文豪の死に様』『死に方がわからない』など多数。
誠文堂新光社 よみもの.com で「もっと文豪の死に様」、双葉社 COLORFULで「老い方がわからない」を連載中。好きなものは旅と猫と酒。

◀第8回▶“お仕事”あれこれリサーチ その④──シニア力が発揮できる「大手チェーン店アルバイト」の仕事

<データ>

職業名 大手小売/飲食チェーン店店員

業種 第三次産業

仕事内容 接客

就業形態 アルバイト/パート契約

想定月収 1万円~15万円

上限年齢 なし(建前上)

必要資格 なし

技能 手順を守って作業できる/最低限の愛想/タフな精神力

 

<どんな仕事?>

今回はアルバイトの定番である大手小売/飲食チェーン店での仕事を取り上げます。

日本にコンビニエンスストアが初登場したのは1970年前後とされています。同時期に牛丼の吉野家のチェーン展開が始まったり、東京・銀座にマクドナルドの第一号店がオープンしたりもしました。また、後に全国チェーン化するファミリーレストランが日本各地で次々と産声をあげています。

つまり、全国一律で画一化された商品やサービスを提供するチェーン事業という業態は、ようやく半世紀の歴史を持とうとしているわけです。

そして、その歴史は同時にアルバイトやパートをいかに素早く戦力化するかを模索する歴史でもありました。

その過程で確立されていった「非正規労働者即戦力化」手法が作業のマニュアル化(標準化)とOJT(On The  Job Training)です。

接客マニュアルは、顧客に対し常に均質のサービスや接客を提供できるように定められた手順書です。基本的な接客態度や業務手順が、誰にでも理解できるよう体系的に書かれています。

OJTはその名の示す通り、実際の仕事をしながらトレーニングしていく教育手法です。日本語では「職務訓練」や「職場内訓練」と訳されますが、トレーナーは現場の上司や先輩スタッフが担当し、業務を通して必要な知識やスキルを指導していきます。

大手であればあるほど、こうした教育方法が洗練された形で整備されているので、接客業は初めて、という人でも安心です。

 

コンビニエンスストア店員

コンビニエンスストアでの主な仕事は「接客」「商品管理」「店内清掃」の3つです。

接客ではレジ会計はもちろん、商品の問い合わせや各種サービス(チケット販売、宅配便受付など)の対応を行います。

商品管理については、商品の陳列や補充が基本ですが、店舗によってはバイトリーダーが発注や検品、売り場づくりなどを担当します。また、賞味期限や消費期限、期限切れ商品の廃棄なども店員の仕事です。店舗によっては商品をPRするためのPOP作成も店員が受け持つケースがあるようです。

また、店舗の維持管理で重要なのが清掃です。店内清掃はもちろん、商品棚やレジ周り、調理器具などを清潔に保ったり、店外を清掃したりして周囲の環境を保つ必要があります。特に店外清掃は店の治安を守るためにも重要です。

これらの職務内容はしっかりシステム化されているので、機器の取り扱いや手順を覚えるのが最初の仕事になるでしょう。

 

ファストフード店接客係

ファストフード店のスタッフは調理と接客に分かれますが、ここでは接客に絞りたいと思います。

お客様の注文を聞き、その内容をレジに登録し、調理場にオーダーするのが主な仕事です。調理している間に会計をします。商品はお客さんが自分自身で運ぶことになりますが、調理に若干の時間を要する場合は、接客係がお客さんの席まで運ぶこともあります。また、客席エリアの整理整頓やお手洗いの清掃も接客係の仕事であることが多いようです。

ファストフードも接客マニュアルが完全に整備されていますが、客層が幅広いため想定外もそれなりに起こります。柔軟な対応力と打たれ強さが結構重要です。

 

ファミリーレストラン店接客係

ファミリーレストランのスタッフもやはり調理と接客に分かれますが、こちらも接客に絞ります。

仕事内容は、お客さんの案内、注文受付、商品提供、会計、テーブルの片付けが主です。ファストフード店よりもお客さんに接する時間が長く、コミュニケーションもやや複雑になります。

また、ランチタイムなど、時間帯によってはお客さんを待たせる時間が発生するので、臨機応変な客さばきが求められます。商品に対しての説明を求められることも往々にしてあるので、ファストフード店での勤務より熟練には時間を要することが多いようです。

料理を運んだり、食器を片付けたりするのもかなりの重労働です。近年、食器類は軽量化が進んでいますが、提供する料理によっては陶器や金属製の重い食器があり、ある程度の腕力が必要になります。もちろん、成人なら容易に持ち運びできる程度ですが、高齢になって手や腕に痛みなどが出ている場合はつらく感じることがあるかもしれません。

 

百円均一ショップ店員

百均ショップで骨が折れるのが商品補充の仕事です。

百均は安価で多種多様な商品が揃うのが消費者にとっての最大の魅力です。しかし従業員にとっては商品管理の大変さを意味します。商品の在庫管理を行う際の最小単位はSKU(Stock Keeping Unit)と呼ばれますが、これがひたすら多いとそれだけ作業量が増えるわけです。覚えないといけないことも増えます。記憶力の減退を感じる高齢者には、少々つらい職場環境かもしれません。

また、最近は百均ショップ内で価格帯の異なる商品が扱われることが増えてきたため、以前よりレジでの確認作業が若干増えています。

 

<リアルな事情>

現在のところ大手チェーン店はパートやアルバイトの求人が多く、年齢制限もないため、高齢者にも比較的就きやすい仕事といえるでしょう。

ほとんどが最低賃金ギリギリという、低賃金傾向の強い物販や飲食の非正規雇用ですが、近頃は人手不足のあおりを受け、最低賃金にプラス100円程度上乗せされた時給も増えてきました。ですので、フルタイムで働いたら月15万ほどは確保できることになります。年金の不足分を補う程度であれば十分な収入ではないでしょうか。

チェーン店での接客は、なぜかやったことがない人ほど「誰でもできる」と思う傾向にありますが、まったくそのようなことはありません。確実に適性があります。それも心身両面で。

世の中、店員には偉そうにしていいと思っている中高年が少なくありません。そういう人物を軽くいなせるか、何か言われても馬耳東風できるか。それが一つの大きな関門になることでしょう。いちいち傷ついていては到底やっていけません。こういうところだけは中高年の厚かましさ全開でOKなのだと思います。繊細な方にはお勧めしません。

とはいえ、比較的参入しやすい職なのは確かです。

もし、接客業をやったことがない人がこの分野に挑戦してみようと思うのであれば、初心者の受け入れ態勢が整っている大手飲食系からやってみるのがベストかと思います。

たとえば、大手ハンバーガーチェーンのマクドナルドでは不定期でクルー体験会というのが開催されています。

これはアルバイトをしたいけれども雰囲気などがわからず不安……という人に向けて、30分程度で開かれる説明会です。日程さえ合えば参加者が一人でも開催してくれます。店の責任者がタブレットなどを使っておおよその仕事内容を説明した後、少しだけ現場に立たせてくれます。

実は私も体験してみました。

説明は丁寧でわかりやすく、調理体験では些細なことでも褒めちぎるという具合で、非常に今どきの教育姿勢であるとの印象を受けました。体験会はもちろんリクルーティングの一貫ではあるけれども、働きに来る人もまた一顧客であることを会社全体が理解していることの表れでしょう。作ったハンバーガーは体験終了後に食べさせてくれました。たいへん美味しゅうございました。

その後、すぐに入社を迫られることもなく、後追いの電話連絡などもない、たいへん気楽な内容でした。あれこれ不安に思うタイプの方ほど、一度、説明会を体験してみるといいかもしれません。

 

第一関門は脚力

さて、中高年が小売や飲食の仕事をするにあたって、最初の関門になるのはなんでしょう。

物覚え? スマイル? いいえ、違います。

ずばり、脚力です。

大手チェーン店での仕事はほとんどが立ち仕事です。ずっと立ちっぱなしというのは、慣れていないと相当足に負担がかかります。おそらく、今まで一度もやったことがなければ、初日は3時間もすれば足の裏あたりがかなり痛くなってくることでしょう。

もちろんやっていくうちに慣れるものではあるのですが、最初のうちは音を上げてしまうかもしれません。

ウォーキングやスポーツをしているから大丈夫だわ、と自信がある方もいらっしゃるでしょうが、遊びと仕事では使う筋肉がまったく違います。最初のうちは湿布など用意しておいて、それなりの覚悟で挑んだほうがよいでしょう。

 

レジや注文の無人化で変わる光景

大手チェーン店では、現在急速に注文や会計の無人化が進んでいます。また、料理の配膳もロボット任せにする店が出てきました。こちらはまだエンターテインメントの域を出ていないですが、客側が慣れたら配膳ロボットの本格導入が始まるかもしれません。それはつまり、求人が少なくなっていくことを意味します。

もちろん、百パーセント無人になることは当面ないでしょう。ロボットはまだまだ人間の管理無しでは稼働できないし、注文や会計をすべてセルフでこなせないお客さんも多いからです。

しかし将来的に単純作業や登録作業のセルフ化が進めば、人間には問題解決能力だけが求められることになります。その場合、むしろシニアの方が有利になるかもしれません。トラブル解決や少し複雑な要求に適宜対応する能力は、総じて中高年の方が高いからです。つまり、意外と最後まで中高年に開かれた職場として残る可能性があるわけです。

 

コンビニは熟練工の活躍の場に?

コンビニエンスストアでは、最近少しおもしろい流れが出来ています。店員のフリーランス化です。

今、日雇いアルバイトのマッチングサイトなどを見ると、特定のコンビニで働いたことのあるスタッフをスポット雇用したいという求人が山のようにあります。

人手不足の昨今、店舗を回すのにどうしても人が足りないケースがある。そんな場合、経験者に来てもらえたら一番であるわけですが、身近な人脈だけだとなかなかそううまくタイミングが合いません。しかし、マッチングサイトの増加によって、教育不要な経験者を必要な時だけ臨時雇いできるようになったのです。

これは雇用の安定という意味ではあまりよろしくない傾向ですが、個人が自由に働く時間を選択できるという意味では「自由な働き方」だと言えるでしょう。

少しだけ稼ぎたいリタイア層の場合、まずレギュラーアルバイトとして店に入り、経験を積んで「コンビニ熟練工」となった後は、こうした仕組みを使って自由時間と稼ぐ時間のバランスを取る方法もあるのです。

 

【参入方法】

・求人への応募

 

【こんなタイプにぴったり!】

・心身ともにタフ

・最低限のマナーと愛想はある

・人間観察が好き

 

【こんなタイプはやめておいた方が……】

・何か言われたらすぐに凹む

・人の好き嫌いが激しい

・忙しい時間と暇な時間の落差が苦手

 

 

門賀美央子(もんが・みおこ)

1971年、大阪府生まれ。文筆家。著書に『文豪の死に様』『死に方がわからない』など多数。
誠文堂新光社 よみもの.com で「もっと文豪の死に様」、双葉社 COLORFULで「老い方がわからない」を連載中。好きなものは旅と猫と酒。

◀第7回▶“お仕事”あれこれリサーチ その③──他人様に「教える」お仕事

<データ>

職業名 講師

業種 第三次産業/教育業界

仕事内容 自分の知識を他人様に教える。

就業形態 正規雇用、非正規雇用、業務委託契約、個人経営。在宅ワークも可能。

想定月収 0円~40万円

上限年齢 なし

必要資格 なし(あった方がよい場合/必須の場合もある)

必要技能 他人様に伝授するに値する知識や技能/コミュニケーション力/人間に対するあたたかな目線と懐の深さ

 

<どんな仕事?>

ひと言で講師と言っても様々です。

大学講師もあれば一回こっきりの講演会やセミナーなどで話す講師もあります。今回は社会人相手の専門学校やカルチャーセンター、もしくは企業が開催するセミナーなどで教える講師を取り上げたいと思います。

言語講師

日本語や英語などを教える仕事です。

日本語の場合、教える対象は主に留学生。他言語の場合は子供から社会人まで幅広く教えることになります。

意外なことに、言語講師には無資格でもなれます。2024年2月現時点では教員免許のような国家資格はありません。しかし、英語や国語の教員免許や、関連する何らかの検定に合格していれば、仕事を得るのに有利に働くのは間違いありません。給与交渉もしやすくなるでしょう。

もちろん例外もあります。外国人が「留学」の在留資格を取れる日本語教育機関(法務省告示校)で日本語を教える場合は、

1.四年制大学卒業+日本語教師養成講座受講(420単位時間以上)

2.日本語教育能力検定試験合格

3.大学もしくは大学院で日本語教育を専攻・副専攻した経歴

が必要です。

日本語教師養成講座は文化庁指針に基づく420時間以上のカリキュラムで構成された講座で、専門学校や通信教育講座などで受講できます。一定以上の基準で修了できれば、上記の通り、法務省告示日本語教育機関で日本語教師ができるようになります。

また「日本語教育能力検定試験」は公益財団法人日本国際教育支援協会が主催する検定で、日本語教育の体系的な知識や教育現場での対応能力が一定基準に達しているかを測定します。受験資格に国籍や学歴、関連講座受講歴などの制限はなく、これ自体は国家資格ではありません。

しかし、2024年4月から「登録日本語教員制度」が始まります。日本語教員試験に合格し、教育実習を修了した場合のみ教員として登録できる制度で、これは国家資格になります。日本語教員試験は2024年から始まる予定の試験で、昨年年末には現役の日本語教師などを対象にした試行試験が行われました。

登録日本語教員でなくとも日本語講師に就くことは可能ですが、資格があった方が活躍の場が広がるのは間違いありません。

英語など他言語の講師には今のところこのような動きはありません。ただし、何らかの検定に合格していたらそれは売りになります。

言語講師は正規雇用、非正規雇用、業務委託など様々な形があります。自宅を教室とする個人教師であれば法人を通さず直接生徒を集められます。またフリーランスでも企業研修講師として複数受け持つことができれば、ある程度安定して稼ぐことができるでしょう。最近ではオンライン講座も盛んになり、在宅で好きな時間に講師をすることもできるようになりました。

賃金はスキルや需要によって異なります。正社員で月給25万円~35万円程度、非正規で時給だと1時間1,500円~3,500円程度あたりが相場のようです。

カルチャーセンター講師

手芸、料理、工芸、美術、木工、楽器、声楽、文学、ダンス、生涯学習系などありとあらゆる講座があります。何か一つでも人に教えられるほどの知識や技能があれば、誰でも講師を務めることはできます。資格は特に必要ありませんが、何か売りになるような経歴はあった方がいいでしょう。伝統芸能やお稽古ごとなら各流派の師範免状、芸術系なら受賞歴や芸大卒の学歴が半ば必須のようになっています。

講座を開くにはカルチャーセンターに申し込む方法が一般的です。カルチャーセンターでは集客可能か検討した上で開講を判断します。

収入は生徒から受け取る謝礼金の30~40パーセント程度です。残りはカルチャーセンターに上納する形になります。

セミナー講師

単発セミナーなどの講師を請け負う仕事です。内容はビジネス・マナーからビジネス・ノウハウ、さらには専門知識など様々あります。近年は情報化社会のトレンドやデータサイエンスの行末などを教える講師が特に人気のようです。

主催者は自治体、企業、学校など様々で、そこから依頼を受けて出向くことになります。

セミナー講師になるには講師派遣会社に登録する方法が一般的です。この場合は派遣社員と同じで、派遣会社との契約内容次第で収入が変わります。

個人で請け負うこともできますが、この場合、仕事を得るルートは紹介や口コミが多くなるでしょう。強い人脈がある場合は紹介のみでも十分ビジネスとして成り立ちます。しかし、口コミを当てにするならば、世間に広く名前を知ってもらえるように、何らかの顕著な業績をあげるか、あるいは有名人になるしかありません。謝礼はお車代程度から一回数十万円まで。本人の知名度や呼ばれた先の経済力次第で大きく変わります。

 

<リアルな事情>

人に何かを教える仕事も、リタイア層には人気です。

「先生」と呼ばれる職業はなんであれ自尊心がくすぐられるのでしょう。

しかし、その実態はサービス業ど真ん中です。敬ってもらうどころか、全方向的に生徒に対して気を遣っていかねばなりません。今どきは医者や大学教員ですらそんな感じです。「先生」職でふんぞり返っていられるのは、選挙運動期以外の政治家だけでしょう。

 

生徒さんたちは“お客様”

さて、従来、人を教える仕事は物理的な「教室」を持つのが前提でした。しかし、近頃はオンラインで教えるパターンが増えています。特にコロナ禍で一気に増えました。

今や外国語は、現地在住のネイティブにオンラインで教えてもらうのが当たり前になっています。初心者を卒業し、練習台が欲しいタイプの生徒だったら、オンライン講師に教えてもらうほうが効率的かつ経済的です。

しかし、さすがに初心者はそうもいきません。やはり教えてもらう側の母語で会話できる講師に、基礎から教えてもらうのが一番です。

つまり、日本人が外国語を教える場合、初学者向けのカリキュラムを提供できなければ需要はないと思っておいた方がよいでしょう。何ごともそうですが、できない人に一から教えるのが一番難しいものです。つまり、言語に習熟しているだけでは不足で、「教える技術」を習得しておかなければできない仕事だと言えます。

日本語講師の場合、日本語ネイティブなら簡単になれると思ってしまう向きもあるようで、長年なぜか人気の職業扱いになっていました。しかし、「話せる」と「教えられる」の間にはマリアナ海溝より深い溝があります。2024年になって“日本語教師”の資格がより厳しくなったのは質を高めるのが急務だったためなのでしょう。

これは他の「教える仕事」でも同じです。趣味が玄人はだしの粋に達したからといって、あるいは習いごとの師範免状を取ったからといって、すぐに教えられるわけではありません。講師として成功するには一にも二にも“お客様”である生徒さんたちを引きつけて離さない人柄が第一要件になるようです。

一方、単発セミナーの講師は知名度と人脈が武器になりますが、それ以上に大事なのは提供する知識に何らかの付加価値をつけることです。

たとえば、「掃除」。ひと昔前なら掃除のやり方をセミナーで講義します、と募集したところで関心を持たれることはほとんどなかったでしょう。

しかし、そこに何らかの思想的あるいはスピリチュアル的意味合いを乗せることで「掃除」でさえパワーのあるコンテンツにできることが証明されました。つまり、プレゼンテーションさえ上手にできれば、何でも講座やセミナーの種になるわけです。

専門性があれば講師になること自体は可能です。しかし、継続してお呼びがかかるようにするにはプラスαの個性が必要な時代なのです。

 

【参入方法】

・資格を取る、あるいは特技を身につけて専門学校などに講師登録する。

・フリーランスの講師として自宅教室やオンライン教室を開催し、ネットなどを通して生徒を募集する。

・フリーランスの講師として法人などに売り込む。

 

【こんなタイプにぴったり!】

・「褒めて伸ばす」が得意

・自分自身に付加価値をつけるのが上手

・分け隔てなく人と接することができる

・教え子の成長を我がことのように喜べる

 

【こんなタイプはやめておいた方が……】

・先生と呼ばれたい

・部下の養成が下手だった

・相手から立ててもらえないとイライラする

 

 

門賀美央子(もんが・みおこ)

1971年、大阪府生まれ。文筆家。著書に『文豪の死に様』『死に方がわからない』など多数。
誠文堂新光社 よみもの.com で「もっと文豪の死に様」、双葉社 COLORFULで「老い方がわからない」を連載中。好きなものは旅と猫と酒。

◀第6回▶“お仕事”あれこれリサーチ その②──あこがれの職業「作家」を巡る現実

<データ>

職業名 小説家、エッセイスト、ドキュメンタリー作家

業種 第三次産業/広告・出版・マスコミ業界

仕事内容 発注元から依頼を受け、文芸作品やルポルタージュ、随筆などを書く。

就業形態 案件ごとの業務委託契約。ほぼ在宅ワーク(よほどの売れっ子はホテル缶詰などもある)。

想定月収 0円~100万円(印税収入を除く)

上限年齢 なし

必要資格 なし

必要技能 最後まで書き通す力/構成力、文章力/自信と客観性のバランス

 

<どんな仕事?>

作家というと小説家をイメージされるかもしれませんが、文筆業における作家は小説家に限りません。エッセイストやノンフィクション作家もいます。

小説家

ひと言で小説といっても種類は様々です。

まず思いつくのは「純文学」と「大衆文学」の区分でしょう。ですが、近頃はこの区分はあまり用いられません。大衆性の高い純文学、あるいは文学的に評価される大衆小説もあり、境目は年々薄くなっています。昭和の頃には純文学作家が大衆小説作家より高級、みたいな価値観がありましたが今はほぼ失せていると思って間違いありません。

小説家はフィクションの物語を文章化するのが仕事で、比較的平均的な手順は次の通りです。

1.物語の種を探し当てる。

2.アイデアに従って、登場人物やストーリーを具体的に考え、プロット(あらすじ)を作る。

3.編集者にプロットを説明し、OKが出れば書き始める。

4.とにかく最後まで完結させる。

しかし、中にはプロットなしで書き始める人もいますし、思いついた場面から始めるという人もいます。書き方は人それぞれです。

エッセイスト

随筆を書くのが仕事ですが、専門作家はそれほど多くはありません。たいてい小説家や何か別に専門を持つ人が執筆しています。中には私のような雑文書きが、適切な肩書きが見つからないので仮に「エッセイスト」を名乗っていることもあります。

英語のessayは小論文や論説などの意味も含みますが、日本ではもっぱら随筆がエッセイと呼ばれています。そして、随筆とは「自己の見聞・体験・感想などを、筆に任せて自由な形式で書いた文章」(「デジタル大辞泉」より)であり、あまり肩のこらないまさに「徒然なるままに、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつく」文章と考えられています。専門家のエッセイは自分の専門分野について一般向けに軽く解説するような内容が多いようです。

一方、編集部から与えられたお題や自由題で書く場合は、読んでもらうためのテーマ選びや工夫が重要になります。これにはたくさんの知識の引き出しが必要ですし、時代にあわせた感性のアップデートも不可欠です。

ノンフィクション作家

現実の事件や出来事、人物の評伝などを手掛ける作家です。小説家がノンフィクションを書くこともありますが、多くの分野で専門のノンフィクション作家がいます。なぜなら、長年にわたる知識の蓄積がないと書けるものではないからです。

また、ノンフィクションは書き下ろしが多いのも特徴です。書き下ろしとは雑誌などへの連載を介さず書籍化することですが、連載時の原稿料がない分、収入が下がるという大きなデメリットがあります。

いずれの場合も主な収入源は原稿料です。

原稿料は一記事に対して定額が支払われる場合と、原稿用紙1枚あたりの単価が決まっていて、書いた文字数を原稿用紙換算した上で支払われる場合があります。前者も後者も、作家のキャリアや人気により金額は変動します。

人間、一ヶ月に書ける原稿量はある程度限られますので、例示した最高額を稼ぐには人気作家になって原稿用紙一枚あたりの単価を上げるしかありません。いずれにせよ、発注がなければ月収は0円です。安定した職業とは決して言えないので今日明日の収入が必要なタイプには向きません。一方、万が一ベストセラーを出せたら一攫千金も夢ではありません。というか、私もそんな夢を見てみたいものです。

 

<リアルな事情>

50歳を過ぎて作家を目指す人なんているの? と思われるかもしれませんが、実は案外少なくありません。

特に、リタイア後のセカンドキャリアとして作家を志す男性はかなり多いようです。インテリジェンスが感じられる上、社会的地位が高い、というようなイメージがあるのでしょう。

こうした方々は概ね御自身が社会人として体験してきたことを文章化すれば立派な商品になると思っておられるようです。

ですが、はっきり申し上げましょう。それは大いなる誤解です。

体験は点に過ぎません。小説にするのであれば、点から四次元の世界を生み出さなければなりません。個人の体験だけでは物語にはならず、むしろ未体験を描写できるかどうかが鍵なのです。

体験をエッセイに仕立てる場合は、そこに普遍的な価値なり共感に繋がる要素なりを持たせる、あるいは自ら道化になる覚悟が必要です。単なる自慢話では商品になりません。

ドキュメンタリーを目指すなら、体験を時系列で整理し、綿密な裏打ちや取材による客観証拠を加えなければなりません。脳内を棚卸しするのは膨大な労力が必要です。

とにかく、「社会的ステータスがありそうだから」「なんとなくあこがれだから」では百パーセント作家にはなれないでしょう。

 

情熱はそこにあるのか

世の中の作家志望には、どうやら二種類いるようです。

一つは「“作家”になりたい」人。要するにステータスとしての作家の名が欲しい人です。みんなに「先生、先生」と呼ばれてチヤホヤされたい人です。残念ながらこの手のタイプは十中八九作家には向いていません。もしなったところで長続きしないでしょう。

もう一つは「書かないと死ぬ」人です。なんでもいいから文章を書きたい。書いていないと落ち着かない。発表する場はなくとも自分から溢れ出る物語を止めることはできない。

そういう人です。

私が知る限り、長年「作家」を続けているのはこうした人たちです。

記録的な大ベストセラーでデビューしたとある直木賞作家は、暇つぶしの種を持たずに電車に乗っても時間を持て余すことなど絶対にない、とおっしゃっていました。たとえば広告ひとつ目に入っただけで、そこから無数の物語が生まれ、頭の中を駆け巡るのだそうです。それを追いかけるのに必死で退屈している暇などない、と。

また、50歳でデビューし10年越しでブレイクしたある小説家は、注文が来ない時期もずっと原稿を書き続けていたそうです。理由は、書かずにはおられないから。人気作家になった後は驚くようなスピードで立て続けに作品を発表されたのですが、ストックがたくさんあったから可能だったそうです。今も一作ごとに作風を変えるという驚異的な技を繰り広げながら、力作を出し続けておられます。

エッセイストやドキュメンタリー作家も同じです。

ある人気エッセイストはブログの文章が評判になり、それが著作に結晶しました。書き綴っていたのは幼少期から大人になるまでのかなりハードな生い立ちです。誰が読んでも心痛むような過去です。しかし、その方は自己憐憫に陥らず、むしろユーモアたっぷりに表現されました。それが同じような体験をしてきた人々の琴線に触れたのです。

また、あるドキュメンタリー作家は、引き受けてくれる出版社はないだろうと思いつつも、いわゆる「食うための仕事」をやりながらもコツコツ書き続けていたといいます。「たとえ日の目を見なくてもどうしても書きたい」との衝動を抑えられなかったそうです。

これは他の分野――たとえば漫画などでも同じでしょう。プロとして成功する人のほとんどは、とにかく書く/描くことが好きです。内側に表現への欲が渦巻いているのです。

そういう人たちは生まれながらの作家であり、何歳からでもスタートできるのだと思います。

 

作家へのハードルは下がった?

ひと昔前までは「行く当てのない原稿」を世間に出すことは困難でした。

しかし、今は状況が一変しました。

小説ですと、「小説家になろう」や「カクヨム」などの小説投稿サイトがあります。現在はいわゆるライトノベルと称される分野の作品が多いものの、ジャンルに制限はありません。PV数(Webページの閲覧数)が評価のすべてという、ある種梁山泊的な場所です。武者修行にはぴったりでしょう。こうしたサイトから何作も十万部単位のベストセラーが生まれているのは事実です。最近では50代を過ぎての小説家デビューは珍しくなくなりました。挑戦する余地は十分あると思います。

エッセイやルポルタージュには同様の場はありませんが、自前のブログなどで発表していたものがネット上で話題になれば出版社から声をかけられることは十分あります。またSNSでの発言がたびたびバズるようになると、その個性を買われて出版社から本の執筆を勧められることもあります。

いずれにせよ、以前に比べたら作家デビューのハードルは随分と低くなっているのは間違いありません。問題は人気をずっと保てるか、です。正直一発屋も少なくありません。結局のところ、質の高いコンテンツを途切れることなく提供できるかどうかにかかっているのでしょう。

 

【参入方法】

1.新人賞に応募する。

2.出版社に持ち込む。(古の作法なので今では受け付けてくれる会社があるかどうか)

3.Web上に自作を掲載して高い閲覧数を得る。

4.SNSなどで個性を発揮してバズる。

 

【こんなタイプにぴったり!】

・「書きたい」衝動で溢れている

・売れようが売れまいが書けたら幸せ

・これだけは世に出したいと熱望する何かが“複数”ある

 

【こんなタイプはやめておいた方が……】

・何かを書きたいのではなく、“作家”になりたい

・読書が嫌い

・これだけは世に出したいと熱望する何かが“一つだけ”ある

 

 

門賀美央子(もんが・みおこ)

1971年、大阪府生まれ。文筆家。著書に『文豪の死に様』『死に方がわからない』など多数。
誠文堂新光社 よみもの.com で「もっと文豪の死に様」、双葉社 COLORFULで「老い方がわからない」を連載中。好きなものは旅と猫と酒。