◀第8回▶“お仕事”あれこれリサーチ その④──シニア力が発揮できる「大手チェーン店アルバイト」の仕事

<データ>

職業名 大手小売/飲食チェーン店店員

業種 第三次産業

仕事内容 接客

就業形態 アルバイト/パート契約

想定月収 1万円~15万円

上限年齢 なし(建前上)

必要資格 なし

技能 手順を守って作業できる/最低限の愛想/タフな精神力

 

<どんな仕事?>

今回はアルバイトの定番である大手小売/飲食チェーン店での仕事を取り上げます。

日本にコンビニエンスストアが初登場したのは1970年前後とされています。同時期に牛丼の吉野家のチェーン展開が始まったり、東京・銀座にマクドナルドの第一号店がオープンしたりもしました。また、後に全国チェーン化するファミリーレストランが日本各地で次々と産声をあげています。

つまり、全国一律で画一化された商品やサービスを提供するチェーン事業という業態は、ようやく半世紀の歴史を持とうとしているわけです。

そして、その歴史は同時にアルバイトやパートをいかに素早く戦力化するかを模索する歴史でもありました。

その過程で確立されていった「非正規労働者即戦力化」手法が作業のマニュアル化(標準化)とOJT(On The  Job Training)です。

接客マニュアルは、顧客に対し常に均質のサービスや接客を提供できるように定められた手順書です。基本的な接客態度や業務手順が、誰にでも理解できるよう体系的に書かれています。

OJTはその名の示す通り、実際の仕事をしながらトレーニングしていく教育手法です。日本語では「職務訓練」や「職場内訓練」と訳されますが、トレーナーは現場の上司や先輩スタッフが担当し、業務を通して必要な知識やスキルを指導していきます。

大手であればあるほど、こうした教育方法が洗練された形で整備されているので、接客業は初めて、という人でも安心です。

 

コンビニエンスストア店員

コンビニエンスストアでの主な仕事は「接客」「商品管理」「店内清掃」の3つです。

接客ではレジ会計はもちろん、商品の問い合わせや各種サービス(チケット販売、宅配便受付など)の対応を行います。

商品管理については、商品の陳列や補充が基本ですが、店舗によってはバイトリーダーが発注や検品、売り場づくりなどを担当します。また、賞味期限や消費期限、期限切れ商品の廃棄なども店員の仕事です。店舗によっては商品をPRするためのPOP作成も店員が受け持つケースがあるようです。

また、店舗の維持管理で重要なのが清掃です。店内清掃はもちろん、商品棚やレジ周り、調理器具などを清潔に保ったり、店外を清掃したりして周囲の環境を保つ必要があります。特に店外清掃は店の治安を守るためにも重要です。

これらの職務内容はしっかりシステム化されているので、機器の取り扱いや手順を覚えるのが最初の仕事になるでしょう。

 

ファストフード店接客係

ファストフード店のスタッフは調理と接客に分かれますが、ここでは接客に絞りたいと思います。

お客様の注文を聞き、その内容をレジに登録し、調理場にオーダーするのが主な仕事です。調理している間に会計をします。商品はお客さんが自分自身で運ぶことになりますが、調理に若干の時間を要する場合は、接客係がお客さんの席まで運ぶこともあります。また、客席エリアの整理整頓やお手洗いの清掃も接客係の仕事であることが多いようです。

ファストフードも接客マニュアルが完全に整備されていますが、客層が幅広いため想定外もそれなりに起こります。柔軟な対応力と打たれ強さが結構重要です。

 

ファミリーレストラン店接客係

ファミリーレストランのスタッフもやはり調理と接客に分かれますが、こちらも接客に絞ります。

仕事内容は、お客さんの案内、注文受付、商品提供、会計、テーブルの片付けが主です。ファストフード店よりもお客さんに接する時間が長く、コミュニケーションもやや複雑になります。

また、ランチタイムなど、時間帯によってはお客さんを待たせる時間が発生するので、臨機応変な客さばきが求められます。商品に対しての説明を求められることも往々にしてあるので、ファストフード店での勤務より熟練には時間を要することが多いようです。

料理を運んだり、食器を片付けたりするのもかなりの重労働です。近年、食器類は軽量化が進んでいますが、提供する料理によっては陶器や金属製の重い食器があり、ある程度の腕力が必要になります。もちろん、成人なら容易に持ち運びできる程度ですが、高齢になって手や腕に痛みなどが出ている場合はつらく感じることがあるかもしれません。

 

百円均一ショップ店員

百均ショップで骨が折れるのが商品補充の仕事です。

百均は安価で多種多様な商品が揃うのが消費者にとっての最大の魅力です。しかし従業員にとっては商品管理の大変さを意味します。商品の在庫管理を行う際の最小単位はSKU(Stock Keeping Unit)と呼ばれますが、これがひたすら多いとそれだけ作業量が増えるわけです。覚えないといけないことも増えます。記憶力の減退を感じる高齢者には、少々つらい職場環境かもしれません。

また、最近は百均ショップ内で価格帯の異なる商品が扱われることが増えてきたため、以前よりレジでの確認作業が若干増えています。

 

<リアルな事情>

現在のところ大手チェーン店はパートやアルバイトの求人が多く、年齢制限もないため、高齢者にも比較的就きやすい仕事といえるでしょう。

ほとんどが最低賃金ギリギリという、低賃金傾向の強い物販や飲食の非正規雇用ですが、近頃は人手不足のあおりを受け、最低賃金にプラス100円程度上乗せされた時給も増えてきました。ですので、フルタイムで働いたら月15万ほどは確保できることになります。年金の不足分を補う程度であれば十分な収入ではないでしょうか。

チェーン店での接客は、なぜかやったことがない人ほど「誰でもできる」と思う傾向にありますが、まったくそのようなことはありません。確実に適性があります。それも心身両面で。

世の中、店員には偉そうにしていいと思っている中高年が少なくありません。そういう人物を軽くいなせるか、何か言われても馬耳東風できるか。それが一つの大きな関門になることでしょう。いちいち傷ついていては到底やっていけません。こういうところだけは中高年の厚かましさ全開でOKなのだと思います。繊細な方にはお勧めしません。

とはいえ、比較的参入しやすい職なのは確かです。

もし、接客業をやったことがない人がこの分野に挑戦してみようと思うのであれば、初心者の受け入れ態勢が整っている大手飲食系からやってみるのがベストかと思います。

たとえば、大手ハンバーガーチェーンのマクドナルドでは不定期でクルー体験会というのが開催されています。

これはアルバイトをしたいけれども雰囲気などがわからず不安……という人に向けて、30分程度で開かれる説明会です。日程さえ合えば参加者が一人でも開催してくれます。店の責任者がタブレットなどを使っておおよその仕事内容を説明した後、少しだけ現場に立たせてくれます。

実は私も体験してみました。

説明は丁寧でわかりやすく、調理体験では些細なことでも褒めちぎるという具合で、非常に今どきの教育姿勢であるとの印象を受けました。体験会はもちろんリクルーティングの一貫ではあるけれども、働きに来る人もまた一顧客であることを会社全体が理解していることの表れでしょう。作ったハンバーガーは体験終了後に食べさせてくれました。たいへん美味しゅうございました。

その後、すぐに入社を迫られることもなく、後追いの電話連絡などもない、たいへん気楽な内容でした。あれこれ不安に思うタイプの方ほど、一度、説明会を体験してみるといいかもしれません。

 

第一関門は脚力

さて、中高年が小売や飲食の仕事をするにあたって、最初の関門になるのはなんでしょう。

物覚え? スマイル? いいえ、違います。

ずばり、脚力です。

大手チェーン店での仕事はほとんどが立ち仕事です。ずっと立ちっぱなしというのは、慣れていないと相当足に負担がかかります。おそらく、今まで一度もやったことがなければ、初日は3時間もすれば足の裏あたりがかなり痛くなってくることでしょう。

もちろんやっていくうちに慣れるものではあるのですが、最初のうちは音を上げてしまうかもしれません。

ウォーキングやスポーツをしているから大丈夫だわ、と自信がある方もいらっしゃるでしょうが、遊びと仕事では使う筋肉がまったく違います。最初のうちは湿布など用意しておいて、それなりの覚悟で挑んだほうがよいでしょう。

 

レジや注文の無人化で変わる光景

大手チェーン店では、現在急速に注文や会計の無人化が進んでいます。また、料理の配膳もロボット任せにする店が出てきました。こちらはまだエンターテインメントの域を出ていないですが、客側が慣れたら配膳ロボットの本格導入が始まるかもしれません。それはつまり、求人が少なくなっていくことを意味します。

もちろん、百パーセント無人になることは当面ないでしょう。ロボットはまだまだ人間の管理無しでは稼働できないし、注文や会計をすべてセルフでこなせないお客さんも多いからです。

しかし将来的に単純作業や登録作業のセルフ化が進めば、人間には問題解決能力だけが求められることになります。その場合、むしろシニアの方が有利になるかもしれません。トラブル解決や少し複雑な要求に適宜対応する能力は、総じて中高年の方が高いからです。つまり、意外と最後まで中高年に開かれた職場として残る可能性があるわけです。

 

コンビニは熟練工の活躍の場に?

コンビニエンスストアでは、最近少しおもしろい流れが出来ています。店員のフリーランス化です。

今、日雇いアルバイトのマッチングサイトなどを見ると、特定のコンビニで働いたことのあるスタッフをスポット雇用したいという求人が山のようにあります。

人手不足の昨今、店舗を回すのにどうしても人が足りないケースがある。そんな場合、経験者に来てもらえたら一番であるわけですが、身近な人脈だけだとなかなかそううまくタイミングが合いません。しかし、マッチングサイトの増加によって、教育不要な経験者を必要な時だけ臨時雇いできるようになったのです。

これは雇用の安定という意味ではあまりよろしくない傾向ですが、個人が自由に働く時間を選択できるという意味では「自由な働き方」だと言えるでしょう。

少しだけ稼ぎたいリタイア層の場合、まずレギュラーアルバイトとして店に入り、経験を積んで「コンビニ熟練工」となった後は、こうした仕組みを使って自由時間と稼ぐ時間のバランスを取る方法もあるのです。

 

【参入方法】

・求人への応募

 

【こんなタイプにぴったり!】

・心身ともにタフ

・最低限のマナーと愛想はある

・人間観察が好き

 

【こんなタイプはやめておいた方が……】

・何か言われたらすぐに凹む

・人の好き嫌いが激しい

・忙しい時間と暇な時間の落差が苦手

 

 

門賀美央子(もんが・みおこ)

1971年、大阪府生まれ。文筆家。著書に『文豪の死に様』『死に方がわからない』など多数。
誠文堂新光社 よみもの.com で「もっと文豪の死に様」、双葉社 COLORFULで「老い方がわからない」を連載中。好きなものは旅と猫と酒。