◀第9回▶“お仕事”あれこれリサーチ その⑤──スキマ時間を活用、「在宅でできる」お仕事

<データ>

職業名 在宅ワーク/内職

業種 全産業

仕事内容 多種多様

就業形態 業務委託契約

想定月収 1万円~20万円

上限年齢 なし

必要資格 なし

必要技能 地味な作業をコツコツできる/手順を守って作業できる/納期を守れる

 

<どんな仕事>

内職は、法人や個人から業務委託の形で仕事を受け、自宅での作業によって報酬を得ます。作業内容は部品組み立てや梱包、シール貼り、簡単な裁縫、ゴム/ビニール製品のバリ取り(付着物や残留物などを取る作業)のような軽作業のほか、パソコンでのデータ入力などがあります。

内職の最大のメリットは、自宅で仕事ができることです。当然拘束時間や通勤時間は発生しません。また、作業に必要な物品や道具類は発注元が提供し、自宅まで配送してくれるので、初期投資や継続経費はほぼ0で仕事を始めることができます。

このため、子育てや介護など、なんらかの理由で家を空けられない人がスキマ時間で稼ぐにはちょうどよい方法といえるでしょう。

また、自分のペースを乱されるのが苦手なタイプは、納期さえ守ることができれば、作業時間や休憩時間は完全におまかせ、自由に設定できるのが魅力です。

しかしながら、内職には見逃せないデメリットがあります。

それは異様なまでの単価の安さです。基本、内職は単純作業の出来高制のため、やればやるほど稼ぐことはできるわけですが、1つあたりの工賃が銭単位で設定されるのも稀ではありません。さらに、作業内容によっては仕事量の季節変動が大きく、収入が不安定になることもあります。

また、あくまで「業務委託」なので休業補償や労災保険など、雇用者なら受けられる保護などからも完全に外れます。つまり、作業中になんらかの事故が発生しても基本は自己責任になってしまいます。

よって、生計を立てるための仕事にするには不向きな働き方といえるでしょう。

 

<リアルな事情>

内職という言葉にどんなイメージを持っているでしょうか。

昭和の頃の漫画やドラマでは、割烹着を着たお母さんが薄暗い部屋のちゃぶ台の前に座って造花作りや封筒を折る、なんて光景が貧困家庭を表現する一種の定型だったりしました。

でも、実際の内職はそこまで暗いものではありません。

家族や仲間たちと一緒におしゃべりしながら、あるいはラジオを聞きながらでもできる作業もあるので、気楽といえば気楽です。

私も、小学生の頃、幼馴染のおうちで時々靴下梱包のお手伝いなどをしたことがありました。ダンボールに入った靴下をきちんと二足揃え、透明のビニールに入れて、封紙を上から被せてホッチキスで止めます。

またガチャガチャ用のおもちゃをカプセルケースに詰める仕事、なんていうのもありました。

単純作業ですが綺麗に仕上げるにはそれなりにコツが必要で、上手にできて褒められたりすると大変うれしく思ったものでした。ガチャガチャの方は時々余ったおもちゃをもらえることがあり、なんだか役得気分を味わいました。

今考えたら、完全に労働力を搾取されていたわけですが。

それでも子ども同士でワイワイやるのは楽しく、よい思い出になっています。ちなみにお給料はドーナツ1つとか、カルピス1杯だったような気がします。

このように、基本は子どもでもできるような作業が多いので、仕事を発注する側もたいしてうるさいことは言いません。マニュアル通りに作業し、納期を守ることさえできれば、明日からでもできる仕事といえるでしょう。

 

単純作業だからこその安さ

しかし、最大のデメリットは、前述した通り工賃の安さにあります。

内職は出来高制の業務委託なので、取引先とは労使関係にはありません。つまり、最低賃金の適用外なのです。

よって、工賃は時に非人道的と思えるほど抑えられます。

たとえば、ビニール製品のバリ取り――プレス加工したビニール製品を手でちぎりながら抜き出す作業などは100枚あたり40円だったりします。つまり1枚につき40銭です。お金の単位として「銭」がまだ生きているなんて、信じられませんね。でも、内職の世界では銭は十分現役です。

その結果、時給換算すると500円にも満たないケースが発生します。最安値だと1時間作業して数十円にしかならない、なんてことさえあるのです。作業への習熟度合いによって一定時間に作業量は変動しますが、それでも平均時給に達することはまずないでしょう。

 

パソコンを使った内職はもう少し単価が高いものの……

では、(これよりも)高給を期待できる内職はないのでしょうか。

実はあります。パソコンを使ったデータ入力作業や音声起こし作業です。たとえばアンケート結果や議事録などの入力などがあります。

データ入力作業は、クライアント(発注元の呼称はなぜか突然カタカナになります)から元データを受け取り、それを指定されたデータ・フォーマットで再入力するのが主な仕事です。たとえばアンケート結果や議事録などの入力があります。

だいたいの場合、入力1文字につき単価が決められており、1文字0.1円ぐらいが相場のようです。作業用語はカタカナになっても単価だけは戦前のままなのですね。

とはいえ、当然ながら一文字だけ打つ、なんて依頼はありません。ある程度まとまった量を入力することになるので、ちりも積もればなんとやら、時給換算すると最低でも1000円程度にはなるようです。入力スピードが速ければ速いほどたくさんの作業ができますから、本人のスキル次第ではもっと多く稼ぐこともできます。

一方、音声起こしの単価は一文字1円程度と、単なるデータ入力の10倍になります。

ただし作業時間は単なるデータ入力の比ではありません。なにせ、音声データを聞き取って、それを打ち込まないといけないわけです。

聞いた通りに入力する、と聞けば一見簡単そうですが、やってみるとなかなか大変です。私は仕事柄、自分がインタビューした内容を文字に起こす作業は日常的に発生しますが、全作業の中でもっとも骨が折れるパートで、正直一番嫌いです。I hate 文字起こし、です。

また、音声は必ずしも日常会話的なものばかりとは限りません。たとえば先端科学のシンポジウムなどでは聞いたこともないような専門用語がバンバン出てきます。人間の耳というのは不思議なもので、知らない単語はなかなか聞き取れないのです。

一般的な文字起こし作業の場合、聞き取れない部分はそのままにして、音声の経過時間を明記した上で聞き取り不能、などとして提出することは許されています。ですが、あまりにもそれが多いようでは次から仕事が来なくなるでしょう。逆に、完璧な文字起こし原稿を作成することができれば、高い単価で引き受けることも可能です。

ただ、こうしたパソコンを使った単純作業は今後どんどん減っていくと予測されます。

AIの急速な進歩が、人間の作業領域を侵食しつつあるからです。もちろん、AIによる音声起こしのレベルはまだまだ不完全ですが、作業補助としては使えるので、これまで外注してきた作業を内部でやってしまうことも増えています。おそらく、近い将来、完全にAIに切り替わってしまう分野であると思われます。

その点、データ入力の需要はまだ残るでしょうが、スマホなどの普及によってデータそのものが最初からデジタル入力されることが増えています。よって、これもまた今後は仕事量そのものが減っていくのは避けられないでしょう。

一方、靴下の封入やバリ取りが、AIやロボットに取って変わられることは近い将来はありえません。そうした作業を専門にさせる機械を作るより、低価格で人間にやらせた方が経費を抑えられるからです。

21世紀も後半になると、人間がパソコンに向かってやるような作業のうち、簡単なものはすべてAIに取って代わられていることでしょう。

けれどもアナログでしかできない作業が残るのは確実です。

IT技術の進歩は、人間から高時給の軽作業を奪い、低賃金の、昔ながらの内職だけを残すことになりそうです。

 

内職、最大のメリットは意外なところに

このように収入を得る手段としてはあまりメリットがない内職ですが、実は一人暮らしの高齢者には見逃せない大きなメリットがあります。

それは「独りで死んでしまっても、長時間発見されない」リスクを減らすことができる点です。

内職は、必ず材料を持ってきて成果物を受け取る集配係の人がいます。少なくとも一週間に一度程度、多ければ毎日誰かが家を尋ねてきて、必ず会話が発生することになるのです。

事は仕事に関わるので、応答がなければそのまま放置して帰る、なんてことにはなりません。必ずどこかにコンタクトを取って、結果的に安否確認をしてくれるでしょう。

高齢者の引きこもりは社会問題にもなっていますが、内職で孤立死のリスクヘッジができると思えば、安い工賃でもやる価値はあるかと思います。

 

【参入方法】

・ハローワークで探す

・インターネット上の求人サイトで「内職」と検索して探す

・内職求人サイト: シュフティ、タイミー、クラウドワークスなど

・企業のホームページを探す

・小規模な町工場が多い地域に住んでいる場合、募集チラシや広告が出ることがある

 

【こんなタイプにぴったり!】

・黙々と作業するのが好き

・同じことの繰り返しが苦痛ではない

・お小遣い程度稼げればいい

 

【こんなタイプはやめておいた方が……】

・納期を守れない

・手先が不器用

・大金を稼ぐ必要がある

 

 

門賀美央子(もんが・みおこ)

1971年、大阪府生まれ。文筆家。著書に『文豪の死に様』『死に方がわからない』など多数。
誠文堂新光社 よみもの.com で「もっと文豪の死に様」、双葉社 COLORFULで「老い方がわからない」を連載中。好きなものは旅と猫と酒。