◀第13回▶“お仕事”あれこれリサーチ その⑨──年齢や性別に縛られずに活躍できる「YouTuber」

<データ>

職業名 YouTuber(InstagramerやTick Tockerなど他媒体も含む)

業種 第三次産業

仕事内容 YouTubeなどインターネット上の媒体にコンテンツを公開して収益を得る

就業形態 個人事業

想定年収 0円~3億円

上限年齢 なし

必要資格 なし

必要技能 IT機器の知識、コンテンツ力

 

<どんな仕事?>

動画サイトYouTubeに自家製動画をアップし、世界中の人に閲覧してもらって広告収入を得るYouTuber。これが職業として認められるようになったのはごく近年のことです。ですが、今はもう税務申告で「YouTuber」と書いても通るそうです。

それを反映するように、YouTubeやYouTuberについて特段の説明をする必要もなくなってきました。高齢者にも視聴者が増えているとい言います。それどころか、発信者も少なくありません。InstagramやTick Tockも同様です。これらはすでに「第三のメディア」として定着したと考えてもよいでしょう。

YouTuber(以下、Instagramer/Tick Tockerも含むとお考え下さい)は、オリジナルの動画コンテンツを企画・制作し、YouTubeを通じて世界中の人々と共有するクリエイターです。動画の内容は、生活に密着したノウハウものから個人の生活記録、~してみた系、ゲーム実況などなど多岐にわたります。映像コンテンツにできるものならすべてが対象になると言っても過言ではありません。

極端に言えば、何かを撮影し、動画サイトにアップすれば、誰でも即座にYouTuberなのです。

ただし、コンテンツをアップしても即座に収益が得られるわけではありません。

収益化するにはYouTubeパートナープログラムに加入しなければならず、そのためには下記の条件を満たす必要があります(2024年5月現在)。

1.チャンネル登録者数:500人以上

2.直近12ヶ月間の公開動画の総再生時間:3,000時間以上

3.公開動画が3本以上

4.YouTubeの収益化ポリシー・ガイドを遵守している

 

無事にパートナーに認定されたら、主に以下の方法で収益を得られるようになります。

1.広告収入

動画再生時に画面表示される広告掲載で得られる収益。広告の種類や再生数、視聴者の属性などによって1再生あたりの単価が決まります。

2.投げ銭

生動画配信すると、その最中に視聴者から投げ銭と呼ばれるチップを得ることができます。

3チャンネルメンバーシップ

チャンネルメンバーシップとは、自分が運営するチャンネルのファンクラブのようなものです。メンバーになってくれた視聴者から月額料金を徴収します。メンバーには、メンバー限定動画や特典などを提供して対価とします。

4.アフィリエイト

動画内で商品やサービスを紹介し、その動画で紹介されたURL経由で購入された数に伴い、報酬が発生する仕組みを使って収益をあげます。

収益は、YouTube側が一定の割合を差し引いた上で、YouTuberに支払われます。つまり、YouTuberとは基本的には歩合制の仕事であると思えば間違いないでしょう。

人気YouTuberともなれば、テレビタレント顔負けの知名度を得ることができます。そうなると企業から商品紹介動画の作成を依頼されるケースも出てきます。この場合、企業から宣伝費が支払われます。

 

<リアルな事情>

YouTuberになるためには特別な資格など必要ありません。もっと言うなら、特技も不要です。ただあくびをして伸びをするだけの動画でも、それを面白いと思う人間が多ければたちまちバズる世の中です。

しかし、収益を得られるほどのYouTuberになろうとすると話は違ってきます。やはり「多くの人が、また見たい、何度も見たいと思うような動画」を制作する才覚が必要になります。

そこをクリアし、先述したYouTubeパートナープログラムに加入できるほどの登録者を得られたという前提で月30万円、1日あたり1万円をYouTubeで稼ごうとすると、下記のような試算になります。

動画の広告収入は1回の広告視聴単価✕動画の再生回数で計算されます。

動画再生で得られるのは1再生あたり0.1~1円前後ですが0.2円程度が平均値であるようです。

また、登録者の平均視聴率は30%、広告のクリック率2%とされています。

回数×単価が、即取り分になるわけでもありません。YouTube側が取る手数料があるからです。

これらを元にして計算すると1日につき8000回以上再生されなければ、目標額に至りません。チャンネル登録者が3万人規模でないと達成するのは容易ではないでしょう。

現在、日本でもっとも人気があるYouTuberはチャンネル登録者数が1000万人以上、中には3000万人に手が届くほどの人もいます。さらに海外に目を向けると億単位の登録者数を誇るYouTuberさえいます。このレベルになれば動画配信だけで億円単位で稼げるようになります。

けれども、これほどの人気を得ている=稼げているのはごくごく少数です。すべてのYouTubeチャンネルの中で、100万人以上の登録者数を誇るメガチャンネルは0.4%程度とみられています。平均的な登録者数は数百程度、さらに100人未満のチャンネルが約80%にのぼります。

つまり、インフルエンサー(ソーシャルメディアやインターネット上で、特定の分野において影響力を持つ個人)と呼ばれるほどたくさんの人々に見てもらえる人はごく一握りなのです。どんな世界であれ突出するのはごく一部、なのですね。

しかし、年齢や性別に縛られず活躍しやすい環境であることは間違いありません。

実際に高齢者でもYouTuberとして活躍している人たちはたくさんいます。

たとえば、おじいちゃん先生の愛称で知られる柴崎春通(しばさき はるみち)さん(76歳)の「Watercolor by Shibasaki」。2017年に開設されたこのチャンネルは水彩画の描き方をメインコンテンツにしていますが、チャンネル登録者数 はなんと180万人もいます。さらにTick Tockで100万人超、他のSNSでも10万人単位のフォロワーがいる文字通りのインフルエンサーです。

柴崎さんはもともとプロの絵画講師で、文化庁派遣芸術家在外研究員として渡米されたこともあるような方です。つまり元々斯界の名士ともいえる方だったわけですが、動画で人気が出たのはそれが理由ではありません。

色鉛筆やクレヨンといった誰でも手に入れやすい画材を使って素晴らしい絵を描き上げる過程を、時には雑談を交えながらの優しい語り口で見せる画面づくりが「癒やされる」として人気を得たのです。

ジャンルとしてはハウツーあるいはテクニック集系動画になるのでしょうが、技術だけでなく人柄やプレゼンテーション力が物を言うのがYouTubeの世界です。また、視聴者から寄せられた絵を添削するコーナーなども設けることで登録者と交流するコンテンツも設けているのが人気の秘訣でしょう。

「Watercolor by Shibasaki」 https://www.youtube.com/@WatercolorbyShibasaki

こうした人気チャンネルを多数閲覧してみてコツを勉強してみるといいかもしれません。ただし、単なる模倣では視聴者は振り向いてくれません。やはり個性が大事です。

 

収益を度外視するなら?

では、柴崎さんのように発信するに足るスキルを持っていなければYouTuberにはなれないのでしょうか。いえ、そういうわけでもありません。

本来、YouTubeとは個人が気軽に情報発信をするためのツールでした。あくまで趣味の延長線として考え、さほど収益にこだわらないのであれば、気軽に挑戦できます。スマートフォンの動画撮影機能とYouTubeへのアップロード方法さえ知っていればOK。スマホなんて使えない! というなら、撮影とアップロードは家族や知人にお願いする、なんていう手もあります。

高齢者YouTuberには、普段の生活をそのまま発信するだけで人気になっている方々もいます。彼らは特段大仰なポーズをとったり、特別おもしろいことを言ったりするわけではありません。むしろ自然な振る舞いが、視聴者にほっとした時間を与えるのです。

また、ハウツー系は、特別な技能がなくても、長年の暮らしの中で培ってきた「おばあちゃんの知恵袋」的ノウハウを披露するだけでも成り立ちます。箒とハタキだけを使う掃除手順やそうめんの美味しい茹で方などなど、「こんなこと、わざわざ見る人がいるの?」と思うような内容でも案外人気があります。おそらく、今どきの人は誰かに教えてもらうより、動画などで知りたい情報だけ見るほうが「タイムコスパがよい」と考えるのでしょう。

そうした実利に加え、発信者の人柄が垣間見えるようなもの、あるいは見ていて心地よい画面づくりであれば、うまくいけばファンを得ることができます。プラスアルファとして、「田舎暮らし」「団地暮らし」「都心暮らし」などなんらかの特徴を出せれば、一つのライフスタイル提案としてコンテンツに付加価値を与えることができでしょう。

もし動画が難しくても、静止画が撮れればInstagramerになれます。

もっとも重要なのはプレゼンテーション力。それも、素人らしい自然で親しみやすい雰囲気がある方が、人気が出る傾向にあるようです。

 

注意すべき点

市井の人々の生活をドキュメンタリー的に発信するのは既存メディアでもよくあった手法です。しかし、自分で自身をコンテンツ化し、世界に発信するという形式はやはりインターネットの発展なくしてはありえませんでした。

つまり、分野の歴史としてはまだまだ浅く、その分リスク管理のノウハウがきっちり確立されていないきらいがあります。

まず気をつけないといけないのは、登録者数や閲覧数を意識するばかりに内容が過激化することです。高齢者の場合、年の功でそうした心配はないと思われがちですが、自分の意見を発信するタイプの動画の場合、登録者の気に入るようなことを言おうとするあまりエコーチェンバー現象に陥り、過激思想や陰謀論にはまってしまう可能性があります。

また、生活系コンテンツの場合は、生活場所を特定されないように気をつける必要があります。犯罪から身を守るためです。こうした危機管理はやはり事前に学んでおくべきでしょう。

しかし、そこさえしっかりできれば、自分でコンテンツを作り、それを発表し、多くの人に観てもらうというのは楽しく、生きがいになるものです。人目を意識すると生活にも張りが出て、老化防止につながることでしょう。

YouTuberになるには、さほど費用もかかりません。いつ始めても、いつ止めても自由です。気楽にやってみるのもいいのではないでしょうか。

 

【こんなタイプにぴったり!】

・自己表現することが好き

・何かを伝えたい熱意がある

・社会通念をわきまえていて、そこから逸脱することはない

 

【こんなタイプはやめておいた方が……】

・強迫概念を持ちやすい

・極度のお調子者

・コンプライアンス意識が低い

 

 

門賀美央子(もんが・みおこ)

1971年、大阪府生まれ。文筆家。著書に『文豪の死に様』『死に方がわからない』など多数。
誠文堂新光社 よみもの.com で「もっと文豪の死に様」、双葉社 COLORFULで「老い方がわからない」を連載中。好きなものは旅と猫と酒。