◀第12回▶“お仕事”あれこれリサーチ その⑧──年齢が高いほど信用してもらえる「占い師」

<データ>

職業名 占い師

業種 第三次産業

仕事内容 人の運勢を占い、アドバイスをする

就業形態 個人事業

想定年収 100万~1000万

上限年齢 なし

必要資格 なし

必要技能 占術の知識、コミュニケーション能力、コンプライアンス精神

 

<どんな仕事?>

占い師は、様々な占術を用いて人々の未来や人生上の決断に対して助言を行う職業です。

即物主義や合理主義が蔓延する現代社会においても、未だ占いに関心を持ったり悩み事を占い師に相談したりする人は少なくありません。その市場規模は約一兆円とも言われています。なかなかのビッグビジネスです。

日本でポピュラーな占術は、大別すると西洋系と東洋系に分かれます。

テレビや雑誌などで日々触れる機会がもっとも多いのは西洋占星術、いわゆる「星占い」でしょう。とはいえ星占いは12パターンで運勢を予想するかなり大雑把な内容です。どれぐらい大雑把なのかを天気予報でたとえると「アジアの天気は晴れ、ヨーロッパは曇り、アフリカは雨」レベルになります。

本来の西洋占星術は、対象が出生した時のホロスコープを元に占います。ホロスコープは生まれた月日だけでなく出生時間や出生場所まで関係してくるので、かなり複雑で個人差もあります。よって、運命や性格、運勢を判断するのに適するとされています。

タロットカードと呼ばれる占術用のカードを使う占いも人気です。タロットカードは中世後期の欧州地域で遊ばれたゲーム用のカードが起源とされていますが、日本で流行するようになったのは1970年代以降のことです。カードの神秘的で象徴的な絵が乙女心をそそり、若い女性を中心に人気が出始め、やがて一般に広がりました。主に問題解決のヒントや近未来の展望を知るのに適するといいます。

東洋系占術の代表格は四柱推命でしょう。五行思想に基づいて理論構築されており、生年月日時から導き出される「四柱」と呼ばれる情報を元に性格の傾向や運勢を判断します。また、吉凶判断にも適するとされるため、仕事や進路の選択など、人生の重要な局面で活用される傾向にあります。

身体的特徴から占断するのは手相占いや人相占いです。手のひらの線や形、顔の相から性格や運命、未来の出来事を予測します。生年月日と違い、フィジカルな特徴は年月とともに変化するので、短期スパンの運勢を見るのに用いられます。

人相見が併用することが多い易占(えきせん)は、古代中国で書かれた古典「易経(えききょう)」を原理とする占術で、卦(け)の組み合わせから未来を予測します。昔は繁華街に行くと一人や二人は人相見が座っていたものですが、近ごろはめっきり見かけなくなりました。

同じく古代中国由来の占いでは風水も人気です。住居に由来する運勢診断に使用されるため、建築やインテリア関連の企業と結びつきやすいのが特徴です。そこから派生した風水グッズはすっかりおなじみになりました。

占術を用いない「霊感占い」もあります。これは霊的インスピレーションを元にするので、技法よりも個人の資質に頼ることになります。

このように日本では多種多様な占いが根付いており、好みによって選ぶことができます。その気になればオリジナルの占法を編み出すことも可能でしょう。

営業場所は常設店舗のほか、週末などの特定日に商業施設の催事として開かれる占いコーナーなどが主になります。一方、直接対面せず、電話やネットを使用する場合もあります。いずれの場合も運営会社と業務委託契約を結び、報酬に関しては歩合制を取ることが多いようです。もちろん、完全な個人経営も可能です。その場合集客や占い場所の確保などは自分自身でしなければなりません。

また、雑誌やWebのコンテンツ、あるいは占いアプリに占いを提供する仕事もあります。この場合、報酬は原稿料や業務委託料として提供先から受け取ることになります。

人気占い師になると、独自の占い本を出す機会にも恵まれるでしょう。それが大ヒットすれば高額収入も夢ではありません。

 

<リアルな事情>

占い師になるために必要な資格は特にありません。私の職業であるライターと同じで名乗ったもの勝ちです。しかし当然ながら、お金を稼ぐ手段にするには他の職業同様に前提となる知識やテクニックが求められます。今回はそのリアルな事情を現役の占い師さんから直接伺うことにしました。

話してくださったのは大阪で長年占い師をしておられる山葵(わさび)さんです。主に商業施設の占いコーナーで対面の占いをされているほか、Webページの占いコーナーを担当されています。

 

山葵さんプロフィール

https://enso.co.jp/profile_popup/uranai_info.asp?idx=10000058

 

山葵さんは、四柱推命とタロットカードをメイン、補助として手相なども取り入れた総合的な占いを実践しています。

占いの勉強を始めたのは28歳のころで、定年のない仕事をしようと思いたち、占い師を志されたそうです。

勉強の手段として最初に選んだのはカルチャーセンターの占い入門講座でした。そこで基礎的なことを学んだ後、講師からの勧めによって本格的に学べる占い学校に移りました。月謝はそれほど高くなく、20代の勤め人でも出せる程度だったとか。現在でもカルチャーセンターの占い講座の月謝は3000円から5000円程度のところがほとんどなので、経済面では比較的学びやすいかもしれません。資本を十分用意できない50代が一から起業するにはうってつけです。

一般的には3年ほどで占い師になることが多いようですが、山葵さんは2年ほど教室で学び、その後講師の推薦を受けて占い師としてデビューしました。最初の占いの場は教室の運営会社が提供してくれました。とはいえ、雇用関係ではなく、個人事業主として会社から業務委託の形でした。

このパターンが職業占い師になるにはもっとも効率的かつ障壁が少ない方法でしょう。独学かつ市場開拓も一から自分でやれば、報酬はすべて自分のものになりますが、かなりの労力が必要です。その点、業務委託だと報酬は歩合制がほとんどであるものの、事務手続きやその他の諸作業は委託元がするので、占いに専念できるのがメリットです。なお、一部日給制の場合もあるそうです。

 

学ぶのに遅すぎることはない

さて、山葵さんは20代で占いの世界に入られました。しかし、これはむしろ特異な例で、占い師を始めるのは50代ぐらいからがもっとも多いそうです。そう、占いはシニアになってから堂々と始められる、それどころか加齢がアドバンテージになる数少ない職業なのです。

その背景には、占い師は年齢が高い人ほど信用してもらいやすい、という特性があります。理由ははっきりしていますね。占いとは詰まるところ人生相談です。若い人より、ある程度劫を経た感じの方が言葉に説得力が感じられるのでしょう。占い師の世界は50代ではまだまだひよっこ扱いされることもあるそうです。デビューが早かった山葵さんは、若い頃はできるだけ老けて見えるよう服装などに気を使われたと言います。

では、占い師になるにはどのような能力が必要でしょうか。

霊感? スピリチュアルな能力?

いえ、そのようなものは二義的であって、一番必要なのはまず人の話を聞く力であり、さらにいえば人の話を聞くことそれ自体を楽しめる力だそうです。顧客の中には長話をする人や聞くだけでもつらい話をする人もいます。そういう時でも興味を失わず、最後には「この人の話を聞けてよかった」と思えるタイプでないと職業としては長続きしません。

逆に向いていないのは、自分の出した占い結果に固執しすぎて相手に合わせられない、自分の意見を押し付けてしまいがちなタイプです。また、占いが好きすぎる人、信じすぎる人はやめた方がいいようです。むしろ、ある程度「占い」そのものを客観視していて、時には懐疑的にもなれないと顧客によいアドバイスができません。

占法も一つに頼るのではなく、複数知っておいた方が有利です。相談内容は多岐にわたる一方、占法はそれぞれどのような内容を占うのに向くのかが分かれます。山葵さんの場合、運勢は四柱推命で、個別の問題解決はタロットカードを使用することが多いそうです。武器は多いほうがいいのも、また一般的な職業と何ら変わりありません。

占い師がシニアの職業に向いている理由は他にもあります。老若男女を問わず、様々な人とコミュニケーションを取ることができる点です。

普通、退職などすれば人間関係が狭くなり、付き合う相手も同世代に限られがちになります。その点、占い師をしていれば、それこそ孫世代とも話すことになります。年の離れた世代の新しい価値観や、昔と変わらない悩みなどを聞くことによって気持ちの若さを保てるでしょうし、自身の視野も広がることでしょう。また、顧客に感謝されれば、老いると失われがちな自己肯定感も高い状態で維持できるかもしれません。

山葵さんが所属する事務所の占い師平均年齢は60歳後半、80歳を超えた方も現役で活躍されています。そうした方の中には60代に入ってから占いの勉強を始められた方も珍しくないということでした。つまり、学ぶには遅すぎるといった心配も不要。結局のところ、人を受け入れる包容力、もっといえば「人が好き」かどうかが占い師として成功するための一番の鍵であるようです。

 

【こんなタイプにぴったり!】

・人と話をするのが好き

・一つのことを一生かけて勉強する意欲がある

・どんな相手でも対処できる柔軟性がある

 

【こんなタイプはやめておいた方が……】

・コミュニケーションが苦手

・意見を押し付けがち

・なにかを信じたら疑わなくなる

 

 

門賀美央子(もんが・みおこ)

1971年、大阪府生まれ。文筆家。著書に『文豪の死に様』『死に方がわからない』など多数。
誠文堂新光社 よみもの.com で「もっと文豪の死に様」、双葉社 COLORFULで「老い方がわからない」を連載中。好きなものは旅と猫と酒。