加登屋のメモと写真…: 2021年2月アーカイブ
加登屋のメモと写真…
2021年2月アーカイブ

なかにし礼さん

清流出版 (2021年2月19日 10:22)

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写真:百瀬恒彦氏

・なかにし礼さんがお亡くなりになった。新聞によれば、2020年秋に持病の心臓病が悪化し療養していたが、同年12月23日に心筋梗塞のため東京都内の病院で死去したとのこと。享年82だった。死後、新聞・雑誌、テレビ番組などで、なかにしさんを偲ぶ記事や追悼番組などが数多く放映されたが、それだけ社会に与えたインパクトは大きかった。なかにしさんは、1938年、中国黒龍江省牡丹江市(現在の中華人民共和国黒竜江省)で生まれた。ご両親は、元は北海道小樽市に在住していたが、満州に渡り酒造業で成功を収めていたのである。終戦後、満州からの引き揚げで家族とともに何度も命の危険に晒される。この壮絶な引き揚げ体験が以後の活動に大きな影響を与える。なかにしさんの実兄は、立教大学から学徒出陣して陸軍に入隊し、特別操縦見習士官として特攻隊に配属されたが終戦となった。この特攻隊の生き残りだった兄が、戦後、北海道で鰊漁(ニシン漁)に投資して失敗、理不尽にもなかにしさんが膨大な借金を肩代わりし、返済に塗炭の苦しみを味わうことになる。


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BSテレビ朝日系追悼番組「昭和偉人伝」より

・兄と同じ立教大学に進んだなかにし礼さんは、在学中の1963年に最初の妻と結婚する。その立教大学の学生だったなかにしさんの才能を見抜いた人が、元タカラジェンヌでシャンソン歌手の深緑夏代さん。彼女に依頼されたことがきっかけでシャンソンの訳詞を手掛けていた。新婚旅行先の静岡県下田のホテルで、『太平洋ひとりぼっち』を撮影中の石原裕次郎と偶然に出会い知遇を得る。石原に「シャンソンの訳詩なんてやってないで、日本語の歌詞を書きなさい」と薦められ、約1年後に作詞・作曲した作品(後の「涙と雨にぬれて」)を石原プロに持ち込んだ。数ヶ月後、石原プロがプロデュースした「涙と雨にぬれて」がヒットする。これが運命の扉を開くことになった。

「知りたくないの」のヒットを機に作詞家になったなかにしさんだが、絶え間なくヒット曲を量産し続ける表の顔と、実兄の常軌を逸した放蕩が生んだ借金に苦しむ裏側の顔が交錯し続けた。そんな絶望と向き合うことで絞り出すようにできた歌が、やがて奇跡を呼ぶことになる。それがあの名曲「石狩挽歌」や、「時には娼婦のように」である。レコードの年間売上枚数1500万枚という金字塔を打ち立て、生涯4000曲もの作詞をした、阿久悠さんと並ぶ昭和を代表する作詞家となっていた。そして昭和の大スター、美空ひばりに「われとわが身を眠らす子守唄」を、石原裕次郎に「わが人生に悔いなし」と「遺書」のような歌詞を贈った後、小説家の道へと歩み始める。

・なかにしさんは、どうしても書きたいテーマがあった。それが前述した特攻隊帰りの兄との確執である。16年間絶縁状態だったなかにしさんの元に、兄の死の報せが届く。胸中によみがえる兄の姿。戦後、破滅的に生きる兄に翻弄され、巨額の借金の肩代わりを強いられた。そんな兄と弟のどうしようもない絆を、哀切の念をこめて描いたのが小説『兄弟』だった。その後も直木賞受賞作『長崎ぶらぶら節』、NHK連続テレビ小説『てるてる家族』の原作となった『てるてる坊主の照子さん』を始め、『赤い月』『夜盗』『さくら伝説』『戦場のニーナ』『世界は俺が回してる』『夜の歌』など話題作を次々発表している。

・実は弊社でも、なかにし礼さんがホスト役を務めての対談本『人生の黄金律』シリーズを3冊出させて頂いている。それだけになかにしさんの訃報を聞いた時、僕はガックリするほど脱力感に襲われた。彼の対談本の販促には、僕も力を入れたので当時の記憶は鮮明に残っている。大手出版社で出せばもっと売れたと思われるのも癪なので、随分、広告宣伝費も投入した。準レギュラー枠を持っていた朝日新聞夕刊の全五段広告、『週刊文春』、『週刊新潮』等にも広告を掲載し、販促に注力したものだった。

 元の原稿はといえば、『婦人画報』(アシェット婦人画報社)に3年間にわたって連載されたものだった。当該、対談の担当編集者が自社で刊行が難しいので、と弊社に刊行を依頼してきたのが発端である。僕はビッグネームの対談ということもあり、願ってもない話なので企画を即決した。後はなかにしさんのOKをもらうだけとなった。ほどなく、秘書の梅田恵子さんから、刊行をお願いするに当たり、一度顔合わせをしたいとの連絡があり、編集担当の臼井君が出向いた。臼井君によれば、なかにしさんは出版広告等で弊社をよくご存じで、刊行に向けていい雰囲気だったという。ただ、話の途中で、持病の心臓病薬を何種も服用されていたのが、気がかりに思ったらしい。
 

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2003年8月、弊社より刊行

 
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森光子さんと 写真:百瀬恒彦氏
 
・なかにしさんは、テレビ朝日系列で放送されていた『ワイド! スクランブル』のコメンテーターを務めていたが、2012年3月5日の放送で、食道癌であることを報告し、治療のため休業することを明らかにした。医師たちから抗がん剤治療、放射線治療、手術といった各種治療法の説明を受けるが、自分の心臓は長い手術や放射線治療には耐えられないと考え、他の治療法を探し続ける。インターネットで調べるうち最先端の陽子線療法を知り、それに賭けたのである。費用については、後に、阿川佐和子さんとの『週刊文春』の対談で明かされている。「僕は300万円の自己負担でした。先進医療だから保険は適用されない。でも、それをただ“高い”というのは違うと思うんです。だって、普通のがん手術だって、入院すればそのくらいかかることもあるでしょう。研究促進のため、陽子線治療には国からもお金が出ている。だから僕は本に《ありがとう日本!!》と書いたんですけどね」と語っている。その決断が吉と出て、闘病の結果、食道癌を克服し、同年10月に現場復帰を果たす。しかし、2015年3月、自身のラジオ番組『なかにし礼「明日への風」』で癌が再発したので休養することを明らかにした。そして再度、癌に打ち勝って再起を果たす。なんという粘り腰であろう。再発した癌治療にもう陽子線療法が使えないという逆境の中で、どうやってがんに克つことができたのか。絶対に諦めないという強い心がなければ、到底乗り越えられない。僕には想像もつかない精神力の強さである。


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2003年8月、弊社より刊行


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北野武氏と 写真:百瀬恒彦氏

・弊社刊行の『人生の黄金律―なかにし礼と華やぐ人々』と題したシリーズは、「自由の章」「共生の章」「勇気の章」の3部作であった。具体的に登場したゲストは実に多士済々だった。なかにしさんの交流の広さには驚くばかりだった。「自由の章」の対談相手は、瀬戸内寂聴、岸惠子、コシノジュンコ、中丸三千絵、美輪明宏、市川新之助、田村亮子、荒木経惟、富司純子、森光子、渡辺貞夫の各氏。勿論、魅力的な方ばかりだが、とりわけ僕は、荒木経惟と渡辺貞夫の両氏が好きだったので、天才アラーキーの写真命の熱愛の心と世界のナベサダがどうして生まれたのかを興味深く読んだ。柔道のやわらちゃんとの回でのツーショット写真は、柔道技(払い腰だろうか)で投げられんばかりのなかにしさん。いつに変わらぬサービス精神ぶりが窺えた。


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2004年10月、弊社より刊行

「共生の章」では、黒柳徹子、宮沢りえ、黒川紀章、小宮悦子、五嶋みどり、柳家小三治、コン・リー、黒鉄ヒロシ、松坂慶子、細川護煕・細川佳代子夫妻、錦織健、北野武の各氏であり、これまたバラエティに富んだ人選となっている。この本では、黒川紀章氏との対談テーマ『「弱さ」を認める精神が「共生」を育む』を興味深く読んだ。今でこそ共生という言葉は周知の言葉だが、黒川氏が最初に提唱したものだという。世界的な映画監督となった北野武氏とのテーマ『暴力と死は、優しさと愛』では、映画監督になるに至った経緯が語られる。また、コン・リー氏との対談写真では、なかにしさんもチャイナ服で登場。実にさりげない気配りで、ゲストと交感を深めているのが印象的だった。 

「勇気の章」は、あの長嶋茂雄をはじめ、鳳蘭、安藤忠雄、ピーコ、立花隆、池田理代子、加藤登紀子、篠田正浩、石井好子、横尾忠則、仲代達矢、筑紫哲也の各氏。3冊ともに、ほどよい距離感で相手の魅力を引き出しながら、自らの来し方も語っている、実に味のある対談集になっている。写真は百瀬恒彦氏から拝借した。彼は『婦人画報』の対談を撮影してきたカメラマンだったが、偶然にも臼井君の高校の同級生。そんな幸運もあって、単行本に所収する写真は快く拝借できた。

・昭和という時代に対する「恨みつらみ、愛と感謝、旧満州への望郷の思い」という三つの要素が作詞の源泉と語るなかにしさん。朝日新聞の追悼記事でも、旧満州から始まるなかにしさんの人生は、「戦争への甘美なる復讐」という言葉に凝縮されていると綴る。癌の闘病生活以降は、自らの戦争体験に基づき平和の尊さや核兵器・戦争への反対を訴える著述が多くなった。「僕たち戦争体験者は若い世代とともに闘うための言葉を自ら探さなければいけません」とも語っている。僕も5歳の時、信州に疎開を余儀なくされ、戦争の悲惨さを知っている。なかにしさんの平和への熱い思いは、戦争体験者が受け継ぎ語り継いでいかねばなるまい。

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