加登屋のメモと写真…: 2016年4月アーカイブ
加登屋のメモと写真…
2016年4月アーカイブ

堤未果さん

清流出版 (2016年4月26日 19:20) | コメント(0) | トラックバック(0)

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堤未果さん。お一人で来社された。今から10年前の2006年

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堤未果さん(右)とマネジャーの佐藤より子さん。2009年11月

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宇宙物理学者(鈴鹿短期大学名誉学長)・佐治晴夫さんとの対談集

・新進ジャーナリストの堤未果さんが何回か弊社を訪ねて来られた。上の写真はその時撮影した写真である。最初はお1人で、2度目の来社時は、マネジャーの佐藤より子さんと一緒だった。お会いしたきっかけは、筑摩書房の看板雑誌『展望』『人間として』『終末から』などの名編集長として知られた原田奈翁雄さんのご紹介であった。親しくしていただいていた堤江実さんのお嬢様と分かり、より一層、親近感も増し、しばしばお会いすることになった。
 
 堤江実さんには、弊社からは都合6冊の単行本、絵本などを刊行させていただいた。お嬢さんの未果さんにも、是非単行本の出版をと思っていた。そこで未果さんが尊敬する人物で旧知の宇宙物理学者であった佐治晴夫さんとの対談という形で1冊出させていただいた。それが『堤未果と考える  人はなぜ、同じ過ちを繰り返すのか?』である。
 
 それにしても、未果さんの活躍ぶりは目覚ましかった。2008年1月に刊行された『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波書店刊)では、知られざるアメリカの暗部を抉り出してみせた。学校給食にファストフード企業が食い込み、そのため貧困層の多い公立学校では約半分の子供が肥満児になっているという現実。また、高額医療費に耐え切れず無保険者が5000万人近くに増大し、一方病院もコスト削減で医療過誤が続出している事実。そして未果さんがもっとも力を入れたとみられるのが、イラク戦争についての記述だった。大学に通えない貧困層の学生たちが戦地に行った後、奨学金が出るといって食い込んだ米軍のリクルーター。富裕層と貧困層という二極分化が進行していく中で、市場原理主義が行き着くところまで行ってしまったアメリカを透徹した目で見事に分析してみせた。
 
 同書は、日本エッセイストクラブ賞、2009年の新書大賞を受賞し、トータル30万部を超えるベストセラーとなったのは皆さんもご承知の通り。岩波書店からは続編として『ルポ 貧困大国アメリカII』、そして『(株)貧困大国アメリカ』と執筆刊行し、シリーズを完結させている。第3弾にあたる『(株)貧困大国アメリカ』は、「岩波書店100周年 私の選ぶ岩波本ランキング」でベスト3に選ばれたと聞く。この本の内容も実に衝撃的だった。
 
 国際連合の「人間開発報告書」によれば、世界中の85人の大富豪が、地球上35億人分に相当する財産をもっていると言われる。アメリカだけに限ってみても、上位1%の人間が、国全体の富の80%を独占しているというのだ。想像を絶する資金力を持った経済界が、政治と癒着する「コーポラテイズム」が、大幅な規制緩和とあらゆる分野の市場化を推し進めている。こうした1%の富裕層が99%を支配する「1% vs 99%」の構図が世界的に広がり、本家本元アメリカではあらゆるものが巨大企業に飲み込まれ、株式会社化が加速し続けていると解説する。果たしてこんな状況下で国民は主権を取り戻せるのかと問いかけてくるのだ。そしてTPPが批准されれば、アメリカの市場原理主義が日本にも当然飛び火することになる。だから未果さんは、こうして警鐘を鳴らし続けているのである。
 
 
・ここで、堤未果さんの経歴を簡単に紹介しておきたい。和光中学・和光高校を卒業後、大学入学のため渡米する。これは未果さんの弟で世界的なアニメーターとなった堤大介さんとまったく同じである。前号で触れたように、大介さんはデザイン系に進んだが、未果さんはニューヨーク州立大学国際関係論学科を経て、ニューヨーク州立大学院国際関係論研究科修士課程を修了。国連、アムネスティインターナショナルのニューヨーク支局員を経て、米国野村證券に勤務中、あの9.11に遭遇する。衝撃を受けて、日本に帰国後は、アメリカ―東京間を行き来しながら、執筆・講演活動を続けている。国際政治環境研究所の理事でもある。


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4月1日、最新刊の『政府は必ず嘘をつく 増補版』(角川マガジンズ刊)を僕の家に送ってくれた。「袋とじ」で、未公開情報を書き下ろし!と帯にある。
 

・未果さんの『沈みゆく大国 アメリカ』『沈みゆく大国アメリカ 逃げ切れ!日本の医療』(ともに集英社新書)は、TPPでも特に医療分野にメスを入れたものだ。最新刊の『政府は必ず嘘をつく 増補版』(角川マガジンズ)でも、医療分野における日本の国民皆保険制度の危機を強調している。なぜ新書には珍しい袋とじの増補版にしたのか。マイ・ナンバー制度の導入やTPPの批准の裏に隠された部分を知らしめたかったのではないか。多分、このまま日本国民が政治に無知・無関心のままであるなら、確実に今のアメリカのようになる。そんな状況下で、一人一人が自分で考えるための材料としてこの本を読んでもらいたい、という切なる思いからではないか。僕はそう思う。
 
 ところで、関西系のテレビに出演した未果さんは、安倍政権が取り組む国家戦略特区で、医療分野の規制緩和に向けて動き出していることを指摘、その脅威を語っていた。特区内に本社を置けば、特区外でも同様の医療サービスを展開できる。事実上の自由診療解禁を危惧しているのだ。マスコミはTPPを自由化というスタンスで報じているが、TPPの実態はいわば独占である。国内産業保護のために規制していた参加国のルールは自由化されても、製薬会社などが持つ特許や知財権は彼らの独占状態になるというのだ。1%の人々にとってTPPは夢のまた夢。ロビイストが米議会にバラまいた献金は100億円超といわれている。しかし、その何百倍もの恩恵を未来永劫得られるのだから安い投資だと分析している。現在、大統領選挙の真っ只中にあるアメリカ。民主党、共和党の候補者はすべからくTPPの批准には否定的なようだが、予断は許さない。実現に向けて彼らはさらに札束をばら撒いて批准に向けて圧力を強めるはずだという。
 
 
・その他にも、未果さんは注目すべき事実を増補版で公開している。2016年2月4日、ニュージーランドのオークランド市、スカイシティ・コンベンションセンターで日本やアメリカを含む12か国の代表が、TPPに調印した。2015年10月にアトランタで大筋合意がなされ、30章からなる約600頁の全文は、付属書など関連文書を含めると1500頁を超える。日本では全訳でなく大幅に割愛され、わずか97頁に縮小された「概要」だった。特に参加国内から批判の声が大きいISDS条項の章はスカスカだった。全文が訳された英語圏、仏語圏、スペイン語圏の参加国は、内容を検討した人々から声が上がり始める。アメリカからは、「製薬企業に医薬品の独占権が与えられる」「安価な労働者に職が奪われる」「食の安全が脅かされる」などと懸念する声が。また、オーストラリアからは「企業利益拡大のために、消費者・市民が犠牲になる」のでは。ニュージーランドからは「ISDS条項の乱用防止策がザル法だ」などと指摘された。
 
 実は、調印式の直前、国際人権理事会理事でジュネーブ外交大学院国際法教授のデ・サヤス氏は、全参加国に対し、「TPP条約に署名も批准もするな」と要請していたというのだ。その理由は不当な企業活動を規制できなくなることをはじめ、その内容に民主主義をおびやかす重大な欠陥があるからだという。国連機関がこうした要請を各国政府に行うことは極めて異例だが、これについて日本政府、国内マスコミは揃って沈黙しており、大半の国会議員もこうした要請文の存在すら知らないでいる。こんなシャープな切り口で問題点を抉り出し、それを白日の元に晒してみせる。だからこそ、若い人たちを中心に支持を集めているのであろう。
 
 
・未果さんは今年前半、単行本を3冊刊行する予定。1冊目は今月刊行されたばかりの『政府は必ず嘘をつく 増補版』(4月10日)である。そして、『18歳の民主主義』(岩波新書)が4月20日に、3冊目が7月10日刊行予定で『政府は必ず嘘をつく PART2(仮題)』(角川新書)だという。今年の後半は、まだ未定のようなので、是非、弊社も時流に合った単行本企画をぶつけて、名乗りをあげて欲しいと思っている。
 
 今年3月27日は、未果さんの夫君・川田龍平さんが関係する「川田龍平といのちを守る会」の年次総会が行われた。この総会には、ご多忙の中を鎌田實先生が駆けつけて講演をされたと聞く。弊社の月刊『清流』でも鎌田先生には連載執筆をお願いしたりしてお世話になった。僕はハワイ旅行をご一緒したこともある。お2人にとっても、第二の父親ともいうべき鎌田先生の存在は、きっと精神的支柱であり続けていると思う。僕も聴いたことがあるが、鎌田先生の「いのちの講演」はいつ聞いても本当に素晴らしい。きっと会場を感動の渦に巻き込んだに違いない。
 
 
・最近僕は、血ということについて考える。思うに、未果さんは意識するしないに関わらず、父親のばばこういちさんからは「ジャーナリスト魂」を、母親の堤江実さんからは「詩人の魂」を受け継いできたように思える。ばばこういちさんを若い方はご存じないかもしれないが、フリーの放送ジャーナリストとしてテレビ番組に数多く出演、番組の企画制作、執筆・講演活動も精力的にこなした。特にテレビ朝日の『アフタヌーンショー』では水曜日の企画「なっとくいかないコーナー」のレポーター役を務め、“納得いかない”政治・社会問題(主に公共事業や官僚・閣僚の気質、迷惑行為など)を徹底追求したことで知られる。
 
 ここで面白い対談をご紹介したい。新潮社の『波』2009年5月号だが、田勢康弘さんと五木寛之さんの対談の一部分である。
 
≪田勢――昔とくらべたら、ずいぶん変わりましたね。岩波といえば、『ルポ 貧困大国アメリカ』を書いた堤未果さんのお父さん、意外な方なんですね。五木さんはご存知でしたか?
 五木――知っているも何も、彼にはどれだけやられたか。かつての雀友、ばばこういちさん。無頼派ジャーナリストの彼に、あんな優秀なお嬢さんがいたとは……時代は変わったなあ(笑)≫
 
 ばばこういちというジャーナリストの知られざる一面を知るに恰好の記述である。未果さんは、今後もお二人から受け継いだ DNAに磨きをかけ、さらに書き手として成長していくに違いない。これは母堂の江実さんのDNAなのだろうか、精神的にもタフで、土性骨もしっかりしている。まさに伸び盛りのジャーナリストである。20代の若者たちと団塊世代のはざ間にあって、なんとか橋渡し役をしたいとの夢をお持ちのようだ。僕としてもできる限り応援していきたいと思っている。

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