加登屋のメモと写真…: 2014年8月アーカイブ
加登屋のメモと写真…
2014年8月アーカイブ

飯島晶子さんと「被爆ピアノコンサート 未来への伝言 2014」

清流出版 (2014年8月20日 10:23)

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飯島晶子さんと僕(撮影:臼井雅観)


・また今年も、飯島晶子さんのお招きで、「被爆ピアノコンサート 未来への伝言 2014」を鑑賞することができた。場所は、新装なった読売大手町ホールである。501席を有する読売大手町ホールは、シンポジウムやコンサート、試写会など多目的利用が可能。用途にあわせて残響を調整できるほか、映像設備としてデジタル映写機を導入するなど、充実した音響、映像空間となっている。また、所作台を組み合わせて能舞台を設けることができ、さまざまな伝統芸能の公演も可能という最先端設備が完備されている。確かに館内の側壁はどっしりとした木目調。椅子もゆったりと余裕があり、落ち着ける雰囲気であった。それに演奏が素晴らしかった。“百聞は一見にしかず”で、見てもらうのが一番いい。僕の下手な解説など無用である。一度、ご覧になられたら、きっと感動するに違いない。だからビジュアルであの舞台の空気を少しでも感じていただきたい。飯島さんのご尽力で、カメラマンが撮った写真を拝借することができた。この写真から、被爆コンサートの雰囲気の一旦でも伝われば嬉しい。


・開演前の館内。入場してすぐに気付いたのは、舞台上に座っている人物である。周りに大き目などんぶりのような物をいくつか並べ、両手に持った擂り粉木で、縁を撫でるように触れている。すると何やら音がしている。耳をそば立ててみると、腹の底に響いてくるような重低音で、ブォーン、ブォーンという共鳴音が会場をふるわせている。パンフレットを見ると、「シンギングリン」という新しい音響楽器らしい。その精妙な聖なる響きは、いわばヒーリングセラピーとも言えよう。演奏していたのは白井貴之さん。白井さんは、いわば“音の鍼灸師”なのである。シンギングリンを使っての倍音瞑想会を開き、自らのバイブレーションを感じて、リンの豊かな倍音に浸ることで、体調を整えていくのだという。倍音発声とはどういうものなのか、体験してみないと分からないが、深い呼吸とセットだというから確かに体には良さそうだ。昨年は、この被爆ピアノコンサートで“テルミン”という不思議な楽器に出合って癒された。演奏者はテルミン本体に手を接触させることなく、空間の手の位置によって音高と音量を調節し音楽を奏でた。テルミンの本体からは、通常2本のアンテナがのびており、それぞれのアンテナに近付けた一方の手が音高を、もう一方の手が音量を決める。これで音楽を奏でるのだから、とても不思議であった。もうそんな体験はないかと思っていたが、今年も未知の音楽に誘ってくれた。僕が知らなかった「シンギングリン」という未知の音に浸ることができた。


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シンギングリンの白井貴之さん(撮影:谷川 淳)


・当日のコンサートの模様をお伝えしたい。飯島晶子さんは朗読の名手だが、今回はもう一人参加していた。“声の響宴”を僕は楽しむことができた。小磯一斉(こいそ・かずなり)さんである。飯島さんがその朗読センスに惚れ込んで、急遽出演をお願いしたものだという。小磯さんは、劇団CRACKPOTに所属しており、俳優をする他、朗読もされている。流石に声がいい。メリハリの効いた重低音の声が会場中によく響く。その声が戦時中の主だった事件・事変を語り始める。そこへクラーク記念国際高等学校生の朗読が加わる。あの原爆投下の予兆がいよいよ高まる。小磯さんの朗読は、平和ボケしている日本人に、果たしてここのまま突き進んでいいのか、と立ち止まらせる力があった。一見、平和な日本だが、周辺諸国との軋轢もあって、何やらキナ臭い匂いがし始めている。また、戦禍を被ることだけは絶対避けなければならない、そんな強いメッセージが伝わってきた。


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小磯一斉さんとクラーク記念国際高等学校学生の朗読(撮影:谷川 淳)


・そして、谷川俊太郎作詞の『原爆を裁く』(杵屋淨貢作曲、谷川賢作編曲)が始まった。三味線が杵屋淨貢さん(人間国宝)、ピアノが谷川賢作さん、歌はクラーク記念国際高等学校生である。大迫力で音響とともに原爆を裁く声が朗朗として流れる。「原爆は、落とした人が悪いのか、投下を命令した人が悪いのか、作った人が悪いのか」と原爆を裁いてゆく歌詞である。『原爆を裁く』は、杵屋淨貢さんが谷川俊太郎さんの詩、5つのエピグラム(警句)「罪と罰」に意気を感じ、作曲されたもの。当時は、歌舞伎の唄い手、十三弦、ティンパニーなどによって収録されたものの、放送直前で過激過ぎるからと放送中止となった経緯がある。約45年間も長らく、放送・発表禁止にされてきた楽曲である。今から5年前、三味線の杵屋淨貢さんとピアノの谷川賢作さんが即興演奏し、復活させたものだ。その刺激的なリズムが胸に突き刺さってくる。クラーク記念国際高等学校生、約100名の切なる願いがいつまでも耳に残る。この『原爆を裁く』を、世の人びとに知って是非、知って欲しい。特に日本の舵取りを担う現政権、安倍総理を始め政府要人、政治家たちには聴いて欲しいと思っている。

 その後、『五月のひとごみ』(谷川俊太郎作)の詩が唱われた。この詩が単なる人間模様を描いたものだと思っていると、どんでん返しが待っている。


「ドングリまなこ 金壷まなこ 獅子鼻 団子鼻 乱ぐい歯 二重あご 

無精髪 出っ尻 鳩胸 大根足 シャーベットトーン……ケロイド」 


最後の「ケロイド」という言葉に接したとき、一瞬ドキリとさせられる。原発、核の被害は、ケロイドに象徴されているからだ。個々の人間の個性を淡々と描いてくるように見せて、最後に戦禍の、というより、原爆という恐ろしい兵器の爪痕が入ることで、奈落の底に落とされる。ある意味、恐ろしい詩だが、現実に直面した人しか分からない迫力がある。

 この2つの詩を書いた、谷川俊太郎さんには脱帽するしかない。舞台にいなくても、いやいないほうが一段と存在感をもたらしている。ご子息の谷川賢作さんのピアノが父君の詩とコラボして、素晴らしい効果を上げていた。


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『原爆を裁く』(谷川俊太郎作詞、杵屋淨貢作曲、谷川賢作編曲)。三味線・杵屋淨貢、ピアノ・谷川賢作、笛・山崎泰之、合唱・クラーク記念国際高等学校学生(撮影:谷川 淳)


谷川賢作さんが登場、被爆ピアノを演奏された。曲目はあの有名な「死んだ男の残したものは」である。1965年、ベトナム戦争の真最中に作られた反戦歌として知られるこの曲。1965年、「ベトナムの平和を願う市民の集会」のために、谷川俊太郎作詞、武満徹作曲という黄金コンビによって作られた。この曲は声楽家・友竹正則によって披露されたという。谷川に作曲を依頼された武満は1日で曲を完成させた。武満はそれを「メッセージソングのように気張って歌わず、『愛染かつら』のような気持ちで歌って欲しい」という手紙を添えて渡したというエピソードが残っている。本当はこの会場で、歌詞も聴きたかったのだが、贅沢は言わない。谷川さんの演奏から、十分に反戦の想いが伝わってきた。


・その後、谷川賢作さん(作・編曲家、ピアニスト)と飯島晶子さんが登場し、なぜ「被爆ピアノコンサート」を毎年開催するのか、その熱い思いを語った。広島から運ばれた「被爆ピアノ」、爆心地から1.8キロという民家で被爆しながらも奇跡的に生き残ったピアノが今、舞台の上にある。調律師・矢川光則さんも舞台に登場し、日本全国で、またニューヨークでもコンサートを開催したことを話した。そして、その力強く美しい旋律は、聴く人、弾く人を魅了し、感動の輪が広がっていることを述べた。シャイな矢川光則さんは、飯島さんの問いかけにも、黙して語らず舞台から降りられた。被爆したピアノがすべて物語っているからということだろう。

ここで、飯島晶子さんのプロフィールを簡単に述べよう。飯島さんはジャンルを超えての朗読音楽コンサートを企画する方だ。今回の「未来への伝言2014」主宰者である。2014年2月3日、NHKEテレビ「お伝と伝じろう」に「きれいな朗読」と題し、「声だけで表現しよう」と、ゲスト出演されている。NPO日本朗読文化協会理事。日本大学藝術学部卒業。著書は、『声を出せば脳はルンルン』(清流出版)、『伝わる――毎日5分の朗読トレで身につく! 声の出し方・話し方』(日本実業出版社)。僕と臼井雅観君は、飯島さんの本を作ったお陰で、毎年、素晴らしい舞台に招かれ、本当に感謝している。


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飯島晶子さん(企画、朗読)、谷川賢作さん(作・編曲家、ピアニスト)

(撮影:谷川 淳)


・被爆ピアノを一度弾いてみたい方が、次々に押し寄せた。このコンサートは、被爆ピアノが主人公という狙いがみなさんの想いが分かって、うれしかった。


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休憩時間、被爆ピアノを直接触れる人びと(撮影:谷川 淳)


・第2部に入って、ハープ・セラピストの中野智香子さんとジャズピアニスト本田富士旺(ふじお)さんが登場された。中野智香子さんは、“武器を楽器に変えて”という言葉がありますが、一瞬にして武器が楽器に変わる魔法があれば、世界中から戦争がなくなり、この地球が音楽で満たされる世界になりますね!とおっしゃる。国立音楽大学を卒業されてからは、クラシック音楽のみならず、日本の調べ、ポピュラー音楽、スタンダード・ジャズ演奏など、ハープの概念を超えた幅広い音楽活動をされてきた。出自を聞けば納得である。祖父が曹洞宗権大僧正なのだという。仏教の教えを生活の一部として育ち、長じては、神社・仏閣において西洋の楽器ハープで「祈りのハープ・コンサート」を開催。人間の心に47弦の調和音(ハーモニー)を響かせることをテーマに、胎響コンサートなどにも積極的に取り組んできた方。演奏を聴いてみて、なるほどヒーリング音楽だと得心がいった。ジャズピアニストである本田富士旺さんとのコラボは、まさに“ヒーリングジャズハープの世界”。新たな地平を切り開いた、音楽の調べを堪能できたのは僕にとって収穫だった。


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中野智香子さん(ハープ・セラピスト)、本田富士旺さん(ジャズピアニスト)

(撮影:谷川 淳)


・次に飯島晶子さんのご紹介で、素敵な女性2人が登場した。クラシックのヴァイオリニスト白澤美佳さんとピアノニスト金山千春さんである。共にスラリとした美人で赤と青のコスチュームが照明に映えて浮かび上がる。共に桐朋音楽大学音楽学部のご出身で、各地でデュオコンサートを開催してきているほどの仲良し。白澤美佳さんは、ヴァイオリニストでヴォーカルも務める。高嶋ちさ子と12人のヴァイオリニストたちの御一人でもある。

ピアニストの金山千春さんは、ザルツブルクのコンサートに出演。神奈川フィルハーモニー管弦楽団と共演するなどの実績があり、売り出し中のお1人。最初に、“チャルダッシュ”が演奏されたが、息はピッタリだった。ちなみに、チャールダーシュ(チャルダッシュ)は、「酒場風」という意味のハンガリー音楽ジャンルの1つで、イタリアの作曲家ヴィットーリオ・モンティにより作曲された。19世紀にはウィーンをはじめヨーロッパ中で大流行を極め、ウィーン宮廷は一時チャールダーシュ禁止の法律を公布したといわれる。

もう1曲の演奏曲が“タイスの瞑想曲”である。この曲は、ジュール・マスネが作曲した歌劇「タイス」(1894年初演)の第2幕第1場と第2場の間の間奏曲として知られる。僕は、バイオリンがアンネ=ゾフィ・ムターで、カラヤン指揮のベルリン・フィル­ハーモニー管弦楽団の演奏が好きで、随分聴いてきたお馴染みの曲である。この曲を2人の女性アーティストは、どう演奏するか楽しみに耳を傾けた。その甘美なメロディーを2人が演奏し終えたとき、僕の耳には、心地良い余韻が響いていた。


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白澤美佳さん(ヴァイオリニスト)、金山千春さん(ピアニスト)

(撮影:谷川 淳)


・杵屋淨貢さん、谷川賢作さん、山崎泰之(民族笛)さん、それにクラーク記念国際高等学校生が参加しての息の合ったコンサートが続く。ここでは、クラーク記念国際高等学校パフォーマンスコースについて触れよう。この学校は、「Boys, Be Ambitious!」と唱えたクラーク博士の教育理念のもと全国で1万名以上の生徒が学ぶ高等学校。校長は80歳でエベレスト登頂に挑戦した世界的冒険家・三浦雄一郎。「オーダーメイトの教育」が特色の東京キャンパス・パフォーマンスコースの生徒たちは、文武両道で歌やダンス、演劇、殺陣などの表現を学ぶ夢いっぱい元気いっぱいの高校生である。


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杵屋淨貢さん、杵屋長之介、谷川賢作さん、山崎泰之さん、クラーク記念国際高等学校生徒

(撮影:谷川 淳)


・杵屋淨貢さんは、「未来への伝言」レギュラーメンバーである。長唄杵巳流七世家元、重要無形文化財「歌舞伎長唄三味線」保持者(人間国宝)に認定。日本芸術院賞・旭日小綬章を受賞。2012年に大薩摩の名前である杵屋淨貢(きねや・じょうぐ)と改名。「原爆を裁く」を作曲している。なお、作詞は谷川俊太郎。「乃木坂の聖パウロ会での被爆ピアノに感動したのが七年前。ご一緒した飯島晶子さんから賢作さん、静流さん、飯田さんと縁が広がり、今やみんなと深い絆に包まれて、私は幸せです」とこの被爆ピアノコンサート参加の弁。

 

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杵屋淨貢さん(三味線=人間国宝)(撮影:谷川 淳)


・シンガーのおおたか静流さん、この方も「未来への伝言」レギュラーメンバーである。とにかく声に不思議な魅力がある。七色の歌声と言われる所以である。NHKの「にほんごであそぼ」に楽曲提供及び歌唱、日本語の深みと風味を、斬新な切り口で発信し、世界各国でも活躍。“声のお絵かき教室”を主宰、声の可能性とバリアフリーを追究している。おおたか静流さんも「愛とは、あなたを信じ、何処までも一緒に歩こうとすること。そして、いつまでも力強く“NO!”と言い続けること」がスタンスと強調する。僕はおおたか静流さんのCDを全部持っていて、その音楽をいつも楽しんでいる。


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おおたか静流さん(シンガー)(撮影:谷川 淳)


・クラーク記念国際高等学校パフォーマンスコースの生徒たち。よーく見ると、各人は個性を発揮していると同時にバランスにこだわり、歌の内容を丁寧に実現したいと思う気持ちが溢れている。この画面から読み取ってほしい。


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クラーク記念国際高等学校パフォーマンスコース(校長は冒険家・三浦雄一郎)

(撮影:谷川 淳)


・「未来への伝言」レギュラーメンバーである谷川賢作さん。父君である詩人の谷川俊太郎さんと朗読と音楽コンサートを全国で開催している。現代詩をうたうバンド「DiVa」、ハーモニカ奏者・続木力とのユニット「パリャーソ」でも展開中。また、2014年度船橋市文化芸術ホール芸術アドバイザー等で活躍。また、谷川賢作さんは、被爆ピアノは「年々若くなっている。雨の日も風の日も、このピアノとともに全国へとまわって、実感している」と語っている。不思議なことだが、命を吹き込まれたピアノが世界を回るうち、多くの感動を与えたことでパワーアップしていったというのも分からないではない。


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ピアニスト兼作・編曲家の谷川賢作さん

(撮影:谷川 淳)


なお、演出:飯田照雄さん。(株)メディアサウンズ代表。TOKYO FM・JFN番組、各種イベント等多岐に渡る。NPO日本朗読文化協会理事、2008年より銀座博品館での「朗読の日」総合演出等をされている。


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