加登屋のメモと写真…: 2013年8月アーカイブ
加登屋のメモと写真…
2013年8月アーカイブ

飯島晶子さんと『未来への伝言 2013―響け世界へ 平和の旋律』のコンサート

清流出版 (2013年8月21日 10:49)

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被爆ピアノを弾く谷川賢作さんと朗読する飯島晶子さん(撮影:谷川 淳氏)

 

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ナターシャ・グジーさん(左)は、ウクライナの生まれ。歌手兼民族楽器パンドゥーラ奏者で、日本人のファンが圧倒的に多い。司会役の飯島晶子さん(右)とぴったり息を合わせた。(撮影:谷川 淳氏)

 

・今年もあの素晴らしい舞台を見る夢がかなった。『未来への伝言 2013―響け世界へ 平和の旋律』のコンサートである。今回はどんな演出で楽しませてくれるか、僕はわくわくしながら会場に足を運んだ。NPO日本朗読文化協会理事、有限会社ヴォイスケ(VoiceK)の代表・飯島晶子さんが、このイベントの仕掛け人である。飯島さんには、『声を出せば脳はルンルン』(2006年刊、1785円)というCD付の単行本を弊社から刊行させていただいた。その縁で、毎年この時期に行われるコンサートにお誘いの声を掛けてくれる。今年は、六本木ヒルズハリウッドホールが会場。これまで池袋の自由学園明日館や銀座の博品館劇場、渋谷の東京ウィメンズプラザホール、後楽園にほど近い文京シビックセンターなど中規模な会場で開催されてきた。今回は場所も六本木ヒルズとなり、ハリウッドホールは1000人ぐらい入れる大きなホールだ。加えて、終演後、余韻を楽しみながら食事をするにもってこいのロケーションである。このビルの地下2階には、和洋中のレストラン街が揃っていて選り取り見取り。今回はその中でも、しゃぶしゃぶとお蕎麦が売り物の和食店に予約を入れていた。

 

・出演者は、三味線の人間国宝杵屋淨貢さん(きねや・じょうぐ。昨年末まで杵屋巳太郎)、作曲と編曲のピアニスト谷川賢作さん、ヴォーカルおおたか静流さん、クラーク記念国際高等学校の生徒さん(校長は80歳で3度目、世界最高齡でのエベレスト登頂を達成した三浦雄一郎氏)、朗読、企画、司会が飯島晶子さん。以上がレギュラー出演者である。それに、もう一つ重要な役割を担うレギュラー出演物がある。広島の爆心地から18キロの民家で被爆しながら奇跡的に生き残ったピアノである。調律師矢川光則氏によってよみがえり、全国各地で、また海を越えニューヨークに渡りコンサートで演奏されてきた。その力強く美しい音色は、聴く人、弾く人を魅了し、感動の渦が広がっている。ヤマハのアップライトピアノで、1932(昭和7)年に製造された。高さ120センチ、重さ220キロ、鍵盤85鍵、鍵盤の材質は象牙である。ピアノ演奏は、谷川賢作さんであった。彼の弾き方は、ピアニシモからフォルテシモまで自由自在。とくに、父君の谷川俊太郎氏の詩に旋律をつけて弾いたのが印象深い。詩がメロディにのって深みを増し、谷川父子の力強い反戦メッセージが伝わってきた。付け加えれば、このピアノを題材にして松谷みよ子さん(文)と木内達朗さん(絵)による『ミサコの被爆ピアノ』(講談社刊、2007年)が刊行されている。

 

・舞台転換は幕を使わずに行われた。電気が一つ一つ消えて、舞台の出演者にスポットライトが当たるという演出だ。谷川賢作さんの被爆ピアノの演奏で、プロローグ飯島晶子さんの朗読『私はピアノ』が始まった。

「私はピアノ。68年前、広島で被爆したピアノ。私は忘れない。20万人の人が一瞬に消えてしまったあの原爆の日。私が生き残ったのは奇跡。あなたに平和を伝えるための奇跡。平和の尊さを、平和の喜びを伝えたい――どうぞ私を聴いてください」……。

 

そして『子どもたちの遺言』という詩……。

谷川俊太郎氏の詩である。朗読は飯島晶子さん、ピアノが谷川賢作さん。

 

生まれたよ ぼく

やっとここにやってきた

まだ眼は開いていないけど

まだ耳も聞こえないけど

ぼくは知ってる

ここがどんなにすばらしいところか

だから邪魔しないでください

ぼくが笑うのを ぼくが泣くのを

ぼくが誰かを好きになるのを

ぼくが幸せになるのを

 

いつかぼくが

ここから出て行くときのために

いまから遺言する

山はいつまでも高くそびえていてほしい

海はいつまでも深くたたえていてほしい

空はいつまでも青く澄んでいてほしい

そして人はここにやってきた日のことを

忘れずにいてほしい……

 

谷川俊太郎氏の詩が実に良い! 3歳の子が遺言に託す言葉を表現する。思わず「ああ、僕もこんな詩が書ければなあ」と長嘆息してしまった。

 

次に、『ひとりひとり』。谷川俊太郎氏の詩、朗読はVoiceK、ハープが中野智香子さん。同じ谷川俊太郎氏の詩が、朗読とハープのコラボで変化するのも一興である。

 

ひとりひとり違う目と鼻と口をもち

ひとりひとり同じ青空を見上げる

ひとりひとり違う顔と名前をもち

ひとりひとりよく似たため息をつく

ひとりひとり違う小さな物語を生きて

ひとりひとり大きな物語に呑みこまれる

ひとりひとりひとりぼっちで考えている

ひとりひとりひとりでいたくないと

ひとりひとり簡単にふたりにならない

ひとりひとりだから手がつなげる

ひとりひとりたがいに出会うとき

ひとりひとりそれぞれの自分を見つける

ひとりひとりひとり始まる明日は

ひとりひとり違う昨日から生まれる

ひとりひとり違う夢の話をして

ひとりひとりいっしょに笑う

ひとりひとりどんなに違っていても

ひとりひとりふるさとは同じこの地球……

 

中野智香子さんのハープは、47弦のハーモニーを響かせる。中野さんは国立音楽大学を卒業後、ライフワークとして胎響コンサート、音楽療法、神社・仏閣においてハープという西洋の楽器で祈りのコンサートを数多く実施してきた人である。

 

そして、『祈り』。「歌っていれば、笑顔になれる。祈りは必ず届くはず」の部分が印象的だ。 佐々木香さん、谷川賢作さんが作詞・作曲、歌はZEROキッズ+クラーク記念国際高等学校の生徒さん、ピアノは谷川賢作さんだった。合唱は、非営利活動法人ZEROキッズとクラーク記念国際高等学校の生徒さんで、溌剌とした動きと歌声であった。クラーク記念国際高等学校は、「Boys, be ambitious」のクラーク博士の教育理念のもと全国一万人以上の生徒が学ぶ。パフォーマンスコースの生徒は文武両道である。歌、ダンス、演劇、殺陣などで表現力を学び、それを舞台いっぱいに使って表現していた。

ここまで曲の説明は無しで、一気にプログラムが進行してきた。そして司会の飯島晶子さんが、ここまでの演奏曲名、作詞・作曲者などを紹介してくれた。今までになかった舞台進行で、この方がより効果的に思えた。この後、飯島さんはいったん舞台袖から消え、すぐにウクライナのナターシャ・グジーさんの手を取りながら登場してきた。

 

・ナターシャ・グジーさんは、日本人のファンが圧倒的に多い。歌手兼民族楽器パンドゥーラ奏者として知られる。1980年、ウクライナの生まれ、3人姉妹の末っ子。6歳の時、チェルノブイリ原発事故に遭遇する。原発から35キロで被爆したのである。このような境遇にもかかわらず、民族音楽団「チェルボナ・カリーナ」(赤いカリーナ)のメンバーとして1996年と1998年に来日し、全国で救援コンサートを行なっている。また、2000年から日本語を学びながら日本での本格的な活動を開始している。その透明感のある美しい歌声は、「水晶の歌声」と称えられた。民族楽器、パンドゥーラの音色も素晴らしい。可憐な響きは多くの聴衆の心を惹きつけている。2008年には「徹子の部屋」、NHK教育テレビ「視点・論点」などに出演し、その歌声が多くの人々の感動を呼んだ。また、福島の原発事故と住民の避難先についても深い関心をお持ちの方だ。広河隆一氏を発起人とする沖縄・球美(くみ)の里を支援する運動に、ナターシャ・グジーさんは賛同し、日本語で呼びかけをしている。

僕は、彼女のCDを、すでに4枚持っている。会場で、近作『Nataliya2』と単行本『ふるさと――伝えたい想い』(文・絵・写真提供:ナターシャ・グジー、オフィス・ジルカ刊)を買ったが、僕のようにナターシャ・グジーさんのファンだったら、全部集めたいのと思うのが本音であろう。今回のコンサートでは、『キエフの鳥の歌』(ウクライナ民謡、日本語詞が木内宏治氏)と『いつも何度でも』(覚和歌子作詞、木村弓作曲)を披露してくれたが、本当に素晴らしかった。曲の終わりに流暢な日本語で語りを入れた。彼女の携えた民族楽器「パンドゥーラ」について説明してくれたのだ。パンドゥーラの弦は64弦あり、重さも8キロを超えるという。お陰で「腕力」がついたとポーズし、ユーモアを交えて話され、会場内をなごませた。

 

・その後、『原爆をさばく』(谷川俊太郎作詞、杵屋淨貢作曲、谷川賢作編曲)が始まった。三味線が杵屋淨貢さん、ピアノが谷川賢作さん、歌はクラーク記念国際高等学校の生徒さんである。大音響とともに原爆を裁く声が朗朗と流れる。原爆は、落とした人が悪いのか、投下を命令した人が悪いのか、作った人が悪いのかと原爆を裁いてゆく歌詞である。『原爆をさばく』は、長らく(約四十年間)放送・発表禁止にされてきた楽曲である。2年前、三味線の杵屋淨貢さん(もと巳太郎)とピアノの谷川賢作さんが即興演奏し、復活させたものだ。その刺激的なリズムが胸に突き刺さってくる。クラーク記念国際高等学校の学生さん約100名の妥協を許さぬ声がいつまでも耳に残っている。これで、プログラムの第一部は終わりになった。

 

・第二部は、ノルウェーから、その名も「PIKADONMUSICDANCEFILM」という世界平和をパフォーマンスで訴えるグループが登場した。PIKADONの作曲家や聖歌隊、約60名が来日し、盛り沢山の音楽、ダンス、朗読等を上演した。合唱はボルダ・コーラスの方々、ダンスはエイニ・オーム・バークス、ケヴィン・ホー、ウタ・タケムラ、ゲストダンサーは日本から三好由貴さん。次々に登場する。ハッと視線を上げると、舞台上の演技者の他に、2階のキャットウォークのような通路でも男女が3人ずつ2組、ダンサーがパフォーマンスをしていた。そして、会場の左右には幕があり、短編アニメ映画や舞台上のパフォーマンスが映し出される仕掛けになっている。

 

・まず、ヤン・エーリック・ヴォル作詞、マグナル・オル作曲の表題となる『PIKADONMUSICDANCE AND FILM』を皮切りにして、『To Unfold(君に告ぐ)』(ハープ:エレン・セーイェシュテード、歌:ヌア・サルボ)と続いた。その内容は「僕は、僕は生きる、君という愛を」と歌う。ヌア・サルボさんが耳に付けるイヤーオンタイプマイクが実に効果的な音を出すことに驚かされた。一瞬、日本独自の古い聲明(声明=しょうみょう)と似ている。ヌア・サルボさんの歌とAsian Wingsのボーカルおおたか静流さんの掛け合いは、迫力満点であった。

 

・次に、『Will this moment ever let go?(この瞬間は何処へ?)』(演奏:PIKADONMUSICDANCEFILMAsian Wings)が歌われる。「誰かが呼んでいる、答えは、返ってこない、けれど、誰かが、呼んでいる、しかし、答えは、もう、届いている」というメッセージが伝わる。歌というより祈り、叫びなどを強調してのノルウェーの現代音楽である。指揮者のマグナル・オルさんはノルウェーを代表する現代作曲家の一人。2013年、オスロ市市長舍にて、日本の短編アニメ映画「ピカドン」に触発されて作曲したという楽曲「Will this moment ever let go?」を初演した。

そこに「Asian Wings」のメンバーが加わる。おおたか静流(ボーカル)さん、佐伯雅啓(ウード、三線)さん、児嶋佐織(テルミン)さん、嵯峨治彦(馬頭琴、喉歌)さんなど、民族楽器、ボイス、電子音を組み合わせて、独特の郷愁と浮揚感溢れる音楽世界を醸し出した。ノルウェーと日本メンバーとのコラボである。よく意思の疎通も取れ、音楽の調和もよくお見事というしかない。

 

・こうしたノルウェーの演奏家、聖歌隊、舞踏家が日本の音楽集団「Asian Wings」と共に行なう大規模な音楽のイベントは、すでに今年3月、オスロで開催された核兵器の非人道性に関する国際会議の際で初演され、話題を集めた。そして、201384日には広島平和市長会議で、広島から世界へ平和への願いをアートに込めて発信した。そして、京都でも演奏をし、今日、東京の六本木ヒルズハリウッドホールで「未来への伝言 2013」のゲストとして、この曲を披露したという。

 

・ここで僕は、「Asian Wings」の児嶋佐織さんが弾く楽器テルミンに注目した。テルミンの最大の特徴は、本体に手を触れることなく、空中の手の位置によって音高と音量を調節することである。テルミンの本体からは2本のアンテナがのびており、それぞれのアンテナに近付けた一方の手が音高を、もう一方の手が音量を決める。わずかな静電容量の違いを演奏に利用するため、演奏者自身の体格・装身具などによる静電容量の違いをはじめ、演奏環境に依存する部分が大きく、演奏前に綿密なチューニングを必要とするなど、安定した狙った音階を出すには奏者の高い技量が要求され、演奏には熟練を要するという。確かに、児嶋さんの手元を見ていると、左手の位置と右手の位置が全然違う。両手の格好も違う。片方の手は上下に叩く、もうひとつの手は左右に流す。その不思議な動作と音色が魔法のようだ。なんたる不思議さよ、と見とれていた

 

・ようやくフィナーレが近づいた。若い力が『Ambitious』(秋山耕太郎、Erina Tamura作詞・作曲、歌はクラーク記念国際高等学校)と、『ずっと忘れない ずっと頑張るよ』(田村依理奈作詞・作曲、歌はクラーク記念国際高等学校生徒)を歌う。その後、エピローグの『そして鳥は歌う』(構成:谷川賢作)が続いて歌われる。

クラーク記念国際高等学校の生徒さんは、生き生きとして、全員が調和のある歌い方で、それにもかかわらず動きは違っていた。体を動かしてのパフォーマンスはそれぞれの個性の発露なのだ。そこに今回は、ウクライナのナターシャ・グジーさんやノルウェーの演奏家たちが合流し、素晴らしい舞台となった。学生諸君、今後も精進して欲しいと思う。平和への歌声をこれからも世界に響かせ、初心忘るべからずと言いたい。素晴らしい舞台を創った約200名の演奏者、その全体の演出・飯田照雄さん、また企画そのものにいまや欠く事ができない、すなわち「未来への伝言」がライフワークになった飯島晶子さんには絶大なる拍手を送りたい! 


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三味線の人間国宝・杵屋淨貢さんは、昨年12月、一門の杵屋巳吉に「巳太郎」を譲った。現代の高校生たちにも三味線の音が魅力的に感じられるのは、うれしいことだ。(撮影:谷川 淳氏)

 

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終演間際の会場。中心に、ナターシャ・グジーさん(赤いスカート)と飯島晶子さんが並ぶ。その左におおたか静流さん。その奥に三味線を持つ杵屋淨貢さんが見える。(撮影:谷川 淳氏)

 

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ナターシャ・グジーさんと飯島晶子さんをアップ。ノルウェーの演奏家や着物姿がよく似合うZEROキッズたち。(撮影:谷川 淳氏) 

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