◀第5回▶“お仕事”あれこれリサーチ その①──誰でもいつでも簡単になれる? 「フリーランス・ライター」

さて、今回からは50歳以上でも始められそうな、あるいは世間で“始められる”と認識されている職業のあれこれを、具体的に見ていきます。なお、こうした記事に付きものの☆いくつ的な数値表現はいたしません。適性は人によって異なるからです。ただし性格的な向き不向きや想定月収などは示すようにいたします。

映えある第一回は、私自身の職業である「フリーランス・ライター」、一般名称「フリーライター」を紹介します。

副業やリタイア後の職業として人気のようですが、はたして実態は?!

 

<データ>

職業名 フリーランス・ライター/無所属文筆業

業種 第三次産業/広告・出版・マスコミ業界

仕事内容 発注元から依頼を受け、取材や調査をして、相手が望む内容を揃えた文章を書く。

就業形態 案件ごとの業務委託契約。雇用され専属になることもある。在宅ワーク可能。

想定月収 0円~50万円(印税収入を除く)

上限年齢 なし

必要資格 なし

必要技能 平易な文章を書く力

情報収集/整理力

臨機応変なコミュニケーション能力

自己管理能力

 

<どんな仕事?>

フリーランス・ライターとは、案件ごとの都度契約で雑誌やWebサイトの記事執筆を行うライターのことを指します。クライアントから依頼された記事を執筆し、原稿料を受け取ります。仕事内容は、主に以下の通りです。

 

* クライアントから依頼された記事の企画・構成・執筆

* インタビューや取材活動

* 写真や動画の撮影・編集

* 校正・修正

 

フリーランス・ライターになるには、文章力や取材力、編集力などのスキルが必要です。また、クライアントとのコミュニケーション能力も重要です。自分の興味や関心のある分野を専門とするのもよいでしょう。

フリーランス・ライターとして活躍するためには、以下のポイントを押さえるとよいでしょう。

 

* 自分の強みや得意分野を明確にする

* クライアントとの信頼関係を築く

* 営業力やマーケティング力を身につける

 

以下に、フリーランス・ライターの仕事の種類をいくつかご紹介します。

 

* ニュースライター:時事問題やトレンドに関する記事を執筆する

* エンタメライター:音楽、映画、テレビ、スポーツなどのエンタメに関する記事を執筆する

* ビジネスライター:企業や商品に関する記事を執筆する

* コピーライター:商品やサービスの宣伝文句を執筆する

 

<リアルな事情>

さて、ここまではつらつら仕事内容を紹介しましたが、実は<どんな仕事?>部分の文章は、最近一般化しつつあるテクノロジーを使って作成しています。読んでいてなにか気づかれることはあったでしょうか?

種明かしをしますとこの文章、生成AI(人工知能)に「フリーライターの仕事について800字程度で説明して」とオーダーして書かせたものです。結果、ものの数十秒で十分使えるレベルの文章を出してきました。

これが一体なにを意味するのか。みなまで言わずとも、もうおわかりでしょう。

今後間違いなく、簡単な紹介記事やまとめ記事程度のライティング仕事はAIに取って代わられる、ということです。村上春樹氏が小説『ダンス・ダンス・ダンス』で「文化的雪かき」と表現したような仕事は、どんどん無くなっていくわけです。

執筆してくれたAIさんいわく、「フリーランス・ライターは、インターネットの普及により、近年ますます注目を集めている職業」で「自分のスキルや経験を活かして、自由な働き方を目指」せる職業なんだそうです。

ふむ、なるほど。

ライター業は自由な働き方である。それはそうかもしれません。勤務時間は自分で決められますからね。ただし、何を書いてもいいわけではなく、クライアントの望む通りの内容でなければなりません。自我を入れ込む隙はないわけです。もちろん、個性は自ずと香るものですし、後々それが武器になるケースもありますが、まずは心頭滅却して「文章生成マシン」になることが求められます。

自分のスキルや経験を活かせる。まあ、たしかにそうです。私も自分のスキルや経験を活かしてやっています。

しかし、なぜだかどうしてかライター業は「日本語が書ければ誰でもできる」と思われがちです。そして、元手がかからない仕事と看做されたりもします。

実際、求人サイトなどでは「スキマ時間にできる」「お小遣い稼ぎにぴったり」なんていう惹句が踊っています。「何か始めたいけど、特殊な技術はない」人向け、なんてアピールをしているものさえあります。専業ライターとしてイラッとすることこの上ないのですが、まあよしとしましょう。

言いたいことはただ一つ。「何か始めたいけど、特殊な技術はない」人が「スキマ時間にできる」レベルの案件ほど、今後はAIに取って代わられていくでしょう、ということです。上記の通り、AIさんは十分使える文章を秒で提出してきます。そうである以上、外注して経費を発生させる意味がありませんからね。(なお、今回掲載したものは職業的良心に則って多少手を加えています。)

しかしながら、ライター業にまったく将来性がないかというとそんなわけでもない、と私は考えています。

ひと言でライターと言っても内情は様々です。

最も一般的なのは、クライアントから受注した案件について取材をし、知り得た情報を整理して、文章化するタイプの仕事です。媒体に掲載される単発記事から、まるまる一冊を手掛ける「ゴーストライター」まで幅広い案件があります。

一方、最近増えているのは「こたつ記事」と呼ばれる類の案件です。ネット上の情報をいくつかコピー&ペーストして、読める日本語に整えた程度の記事を作成します。

また、自主的に取材し、記事化した原稿を出版社に持ち込む方法もあります。

これらのうち、一番簡単で、参入障壁が低いのは、言うまでもなく「こたつ記事」です。ですが、当然ながら、報酬は激安です。1000字書いて1000円なんていう目が点になるような案件さえあります。これらは最初から「コピペしてまとめるだけ」が前提なのでしょう。もし自力できちんと調べて文章化する手間暇をかけるなら、とてもではないけれども受注できる金額ではありません。

また、この手の案件では、コンテンツ管理システムに直接記事を入力して原稿を納品する形が一般化しています。CMS入稿と呼ばれていますが、WordPressやStudioなどの専用ソフトが使えないと仕事ができません。新しい技術についていく根性が必要とされるわけですね。とはいえ、Microsoft Wordや一太郎などのワープロソフトを使えたら十分対応できるレベルのものです。また、ソフト自体はクラウドでクライアントから提供されます。私も何度かCMS入稿をしたことがありますが、一、二度やればすぐ慣れました。編集者の仕事を肩代わりさせられているようで何だかモヤッとしましたが(CMS入稿を求められる案件ほど単価が安かったりするのに、です)。

次に多いのは「一般的なライター案件」です。昔は出版社などに営業をかけないといけませんでしたが、今は求人サイトで仕事を見つけることができます。ほとんどが業務委託として案件ごとに受注する形です。単価はこたつ記事よりは上がりますし、ゴーストライターとして一冊書く仕事なら一本数十万円単位のギャランティが支払われるでしょう。

しかし、その分、より専門性が求められるようになります。ビジネス記事を書くのに「CEO」の意味がわからなかったら話になりませんし、今まで一度も酒を呑んだことがない人が酒場紹介の記事を書いたところで魅力的なものにはなりません。つまりなんらかの引き出しがないと書けない、というわけです。

また、WEB媒体だと、記事作成にプラスして取材交渉や写真撮影もライターが担当するケースがほとんどです。本来、これらは編集者やフォトグラファーの仕事であるはずなのですが……。しかも多くの役割を求められる仕事ほど単価が安いという謎の逆転現象も起きています。

さらに、SEO(Search Engine Optimization)、つまりブラウザ検索への対策をした記事を求められるケースもありますので、適応した文章を書けるようにならなくてはなりません。

なお、ギャランティ的にもっとも割がいいのは大手出版社の紙媒体、最悪はこたつ記事を乱造乱発するタイプのウェブ媒体です。よって、理想は前者の仕事をすることですが、初心者がいきなり参入するのはかなりハードルが高いと思われます。

高額を稼げて、かつWEB募集から参入しやすいのは、ゴーストライターです。しかし、ゴーストライターは一種の専門職です。著者となる人物にインタビューをし、その人の言葉を引き出した上で構成する作業をしなければいけません。そのためには著者と会話が成立する最低限の基礎知識ぐらいは必要です。また、著者の話を補足するために周辺情報を独自調査し、原稿に付加しなければなりません。つまりリサーチ力が求められます。

私は以前、物理学の先生にお話を聞いてまとめる仕事をしたことがありますが、話が決まってからひと月は中学物理から大学の一般教養レベルまで付け焼き刃でおさらいしました。正直、死にそうになりました。ギャランティは普通だったけれども、あの知恵熱が出そうな労力に見合っていたかというと……。でも、もし私に学部卒程度の物理学知識があったなら、そこまで苦労はしなかったはずです。専門ライターが専門記事を短時間で書けるのは膨大な蓄積あってのこと。そこに至るまでにはそれなりの時間と元手がかかっています。

つまり、何の専門性もない人が元手を一切かけずいきなりライターになって生活費を稼ぐ、なんていうのはほぼ夢物語なのです(小遣い稼ぎならいけるかも)。

逆に、これまでの人生の中で何か一つでも一家言持てるほど造詣を深めてきた分野があるとして、それをきちんと誰もが理解できるレベルの文章にする力があるならば、何歳からでも十分参入可能な職業ともいえるでしょう。実際、長年の趣味が高じた結果、ライターになった方はかなりの数います。実は私もその口の一人なのですが。

なお、未経験者がライターになるためには、知らないことは知らないと言える素直さと、できないことでもできるとハッタリをかませられる度胸が必要かと思います。

最後に、自主取材をして記事化した原稿を出版社に持ち込むケースですが、ここまでいくとすでにドキュメンタリー作家の領域に入ってきます。ですので、回を改めて触れたいと思います。

 

【参入方法】

1.WEBのライター求人に応募する。

2.出版社やWEBコンテンツ業者にライターとして売り込む。

 

【こんなタイプにぴったり!】

・「ひとりでコツコツ」が好き

・好奇心が強く、新しい知識や知らない分野への興味が旺盛

・知らないことは知らないと素直に言える

・できないことでもできるとハッタリをかませられる

 

【こんなタイプはやめておいた方が……】

・自我が強すぎる/プライドが高すぎる

・社会情勢に対する認識や知識をアップデートできない

・スケジュール管理ができない

 

門賀美央子(もんが・みおこ)

1971年、大阪府生まれ。文筆家。著書に『文豪の死に様』『死に方がわからない』など多数。
誠文堂新光社 よみもの.com で「もっと文豪の死に様」、双葉社 COLORFULで「老い方がわからない」を連載中。好きなものは旅と猫と酒。