心のどこかの風景 -女性がおしえてくれること-
第26回 情報との距離を保つ智恵(後編)  ──真実を教えてくれる五人
(掲載日:2011年5月15日)

 

 彼女にその方法を聞いてみた。するとこう答えてくれた。ひとつは、情報源を選別すること。それも特定の人物や個人にすること。なぜかと言うと、今や企業や団体、特定のメディアは、正しい情報や事実を様々な理由によって、発信できないことが多い。例えば、食べ物の味や匂いがどんなものかは発信できるけれど、噛んだときの食感や、味わい、消化してどうなるか。それは栄養になるのか、それとも害になるのかといった真実を述べることは非常にむつかしいという。

  ならば、上質な情報を持っていて、真実を述べることができる立場にあり、なにより人間として信用できる、誰か個人からの情報を得るしかない。ある意味、それこそがこれから私たちが生きてゆく為のライフラインのひとつになる。信用できる情報源は、五人もいれば十分であろうと言う。

 直接会って話を聞いても良いし、その方のブログを読んでも良いし、その方が出演するラジオを聴いても良いとも言う。一番怖いのは、スポンサーが多い新聞とテレビだけを情報源としてしまうこと。それらはあくまでも情報の景色として眺める程度にしておく。

  個人でもスポンサーが隠れていることが多いので注意しなければいけない。全てとは言えないが、大学教授や科学者、研究者でもその場合がある。インターネットのニュースは、配信が早いだけで情報のクオリティは新聞やテレビと同じである。

 では、情報源となる、自分が信用できる五人をどうやって探したら良いか。

 彼女が言うには、「それこそ、これからの時代に誰もが必要な能力だと私はおもう。携帯やパソコンといった便利な道具や、いくらお金を使っても、それだけは簡単に手に入らないもの。上質な情報源だからこそ苦労して手にいれるものよ。ひとつ言えるのは、純粋な『個人』として信用できる人であること。そして、知らないことを『知らない』と言える勇気のある人を信用するべきだとおもう。なんでも知っている人こそ、実は何も知らない人とおもって間違いないわ」

 彼女の口からそんな言葉が出たから驚いた。僕にとって、「知らない」と言える勇気を持つ人は彼女自身であったからだ。
 彼女は、自分で探し出した、五人という最小の情報源から知らされる事柄をマークし、それより先は必要に応じて、自分でさらに深い情報を、「歩く見る聞く」という行為で掘り起こすことを基本としている。また、情報源のリニューアルは年に一度は行っている。「時間も、お金も、体力も使うわ。でもそうしない限り、一次情報には触れられないのよ」と言って彼女は微笑んだ。

 「IT業界で働いていながら、こんなに自分の『情報の窓』を狭くしているとは驚くでしょ。でも、この世界にいるからこそ、そうおもうのよ。その理由を言葉にするのはむつかしいけれど」

 電車に乗っていると、乗車しているほとんどの人が携帯電話を開いて何かを見ている。そんな情報収集やコミュニケーションは、そろそろ止めてもいいようにおもう。

  種明かしをすると、彼女は僕にとって大切な五人の内の一人である。


(毎月1日、15日更新)

著者プロフィール
松浦弥太郎
(まつうら・やたろう)
1965年、東京都生まれ。『暮しの手帖』編集長。「COW BOOKS」代表。文筆家。18歳で渡米し、アメリカの書店文化に関心をもち、帰国後に書店を開業。著書に『くちぶえサンドイッチ 松浦弥太郎随筆集』『最低で最高の本屋』『日々の100』『今日もていねいに。』『あたらしいあたりまえ。』『松浦弥太郎の仕事術』『ぼくのいい本こういう本1,2』『あなたにありがとう。』『暮らしのヒント集2』などがある。

COW BOOKS http://www.cowbooks.jp/

暮しの手帖 http://www.kurashi-no-techo.co.jp/

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