ある日、仕事を一緒にしていた知人の女性に「夢を話して」と言われて、「夢は秘めておくものだから、話さない」とカッコつけて答えたのは、三十歳の誕生日を過ぎた頃のことだ。当時の僕は夢があり過ぎて、その一つひとつをノートに書き連ねていた。そして、ぼんやりとそのノートを眺めているのが好きだった。自分で書いた夢をいつも見ていれば、忘れることがないだろうと安心だった。
「夢はたくさんの人に話したほうがいいに決まってる。夢が自分一人で叶えられると本気でおもっているの? そして、叶った夢を自分一人で喜んで、それでしあわせを感じることができるとおもっているの?」。
そんな風に言われて、なんだか偏屈な気持ちが露になって情けなくなった。後ろから木の棒で殴られたような気分だった。女性に反論する気もなく「うん」とだけ答えた。
「おろかだとおもわれても、自分の夢をたくさんの人に話すといいわ。そのうちの誰か一人でもあなたを応援してくれるかもしれないし、何か手助けしてくれるかもしれない。自分一人の夢なんて、寂しすぎるわ。だから、夢を話しつづけることを決してあきらめないで。夢は話せば話すほどに自分の心の中でもほんとうの夢になって、それはまたたくさんの人にとってもほんとうの夢になって届くから。いいことを教えてあげる。夢を百人の人に話せば、その夢は必ず叶う、という諺があるの。その諺を信じてみて」
女性は「大丈夫、あなたの夢は必ず叶うから」といわんばかりのまなざしと、にっこりとした笑顔で僕を見つめた。すると、それまであった、夢にいつもまとわりついていた無力感や不安、絶望が静かに洗い流された。女性の瞳が、あのメノルカ島のマヨネーズ・コンテストで二度も優勝を果たした夫人の瞳と重なった。
マヨネーズ発祥の場所、スペイン領、メノルカ島に行って、島いちばんのおいしいマヨネーズを食べること。これが僕のいちばんの夢である。
夢はたくさんの人と分かち合うもの。たくさんの人と喜び合うもの。だからこそ、夢はかならず叶うと今は信じている。
(毎月1日、15日更新)
