ひと月に一度だけ会うひとがいる。そのひとと僕は恋をしているわけではない。いや、出会った頃は、ほのかな恋心を持っていたかもしれない。しかし、ひと月に一度会うようになって一年が経とうとしている今、僕も彼女も相手に何かを求めることはなく、相手のことを特別深く知ろうとすることもなく、ただ会うということだけを続けている。
知り合ったのは三年前。半年に一度くらい、たまに会っておしゃべりするだけの間柄だった。それがある日、「ひと月に一度必ず会うっていうのはどう?」と彼女が言って、僕は何も考えずに頷いた。彼女は微笑んでから「だいたい月はじめにしておこうか? なんだかおもしろいね」と言った。
約束のしかたは、その頃あいになると、なんとなくどちらかが電話をして、場所と時間を聞くようになっている。場所は、ひとけの少ない場末のカフェが多く、時間は夕方六時くらいと決まっている。
「来られなかったら、それはそれでいいよ」。毎回そんなふうに互いが言うけれど、時間に遅れることがあっても、どちらかが来なかったことはない。いつも彼女のほうが先に着いている。
はじめの頃は、会うと互いの近況を聞き合うといった、他愛のないおしゃべりで終わっていた。会う時間はだいたい一時間半くらい。最近は会っても、ほとんど話すことなく、ただ一緒にいる、というだけだった。それはなんだか、ひさしぶりに会った兄妹のような関係に近いかもしれない。仲はいいけれど、相手に対してそこまで踏み込まない、というような。それはそれで心地よいと距離だとおもっている。ぼんやりしているだけで、何も話さなくても、さみしくないし、ある時間を一緒に過ごしているというだけだが、あたたかなひととき。不思議な感覚だった。
「こんにちは」「元気?」「うん、元気」「そっか、よかった」こんなやり取りをして、あとは何も話さず、ぼうっとしながらコーヒーや紅茶を飲んでいる。そして「そろそろ帰ろうか」「うん」「じゃあね」「うん、気をつけて」と言って別れる。
そんな付き合いだが、会ったあとの帰り道には、会えてよかった、ありがとう、というおもいが必ず湧いてくる。たいして話すこともなく、なにもせずに会うだけの関係だが、なんとなく、次に会う約束が楽しみになっている。
僕らはなぜ会い続けているのか。少し前にふと考えたことがある。だけど答えは見つからなかった。そんなことはどうでもいい。言葉にできないおもいや考えはいくらでもある。答えを見つける必要がないこともある。そう自分に言い聞かせて、それ以来考えなくなった。彼女がどうおもっているかはわからないが。
(後編へ続く。毎月、1日、15日更新。次回は1月14日です)
