〈元祖オタク〉のシナリオライター、山崎忠昭について - 高崎俊夫の映画アット・ランダム
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〈元祖オタク〉のシナリオライター、山崎忠昭について

 先日、どこかのソフトメーカーから、突然、昔のテレビアニメをDVD化するので脚本を手がけた山崎忠昭さんの著作権継承者を教えてほしいという電話があった。

 

 なぜ、そのような問い合わせがくるのだろうといぶかしく思ったが、すぐに、六年前、私が山崎忠昭さんの遺稿集『日活アクション無頼帖』(ワイズ出版)を編集したせいだと得心がいった。

 

『日活アクション無頼帖』は、一九八三年から八六年にかけて『月刊イメージフォーラム』に、山崎忠昭さんが連載していたメモワールである。ホン読みというシステム、プロットライターという職能に関するひねりのきいた考察があり、鈴木清順の『野獣の青春』や中平康の『危いことなら銭になる』など、山崎さんがシナリオを手がけた傑作の製作秘話が語られ、そして不遇時代の虫明亜呂無や長谷部安春、神代辰巳、佐藤重臣ほか映画人たちの爆笑エピソードが次々に披瀝される。まさに、日活無国籍アクションを中心とした六〇年代カルチュア・グラフィティとしても出色の面白さである。

 

 山崎忠昭さんは、六〇年代後半には映画界を離れ、テレビアニメの世界で活躍するようになるが、私はその方面にはまったく不案内なため、この遺稿集のために、テレビアニメのシナリオで共作することが多かった雪室俊一さんにインタビューをした。

 雪室俊一さんは、山崎さんの独特の作風を次のように分析している。 

「たとえば、『ルパン三世』もそうだけど、非日常の世界を書かせたら、山崎さんは冴えるんですよ。だから逆にホームドラマみたいなのは苦手で、書けないんですよ。……中略……山崎さんは原作を換骨奪胎するのがうまいんですよ。(『ムーミン』で)「無駄じゃ、無駄じゃ」なんて言っているジャコウネズミとか渡り鳥のようなスナフキンとか、ノンノンの兄貴のエリート、スノークとか、ああいう面白いキャラクターは、全部、山崎さんがつくったんですよ。だって、原作を読んだら、たんなるのどかな話で、ほんとにつまんないんでびっくりしましたもの。……山崎さんはお母さんとふたりだけの母子家庭だったとは微塵も思わせない、日常とは超越した世界を構築していたと思いますね。」

 

雪室さんは、山崎さんが、途中で『ウィークエンダー』やワイドショーの構成のほうに寄り道し、テレビ局は世代交代が激しいために、アニメの世界に戻った時にはもはや浦島太郎状態になってしまっていたと語っていたが、その指摘は正しいだろう。

 

山崎忠昭さんは、早稲田大学文学部演劇科を卒業しているが、卒論のテーマは「一九五〇年代のアメリカSF小説」というユニークなものだった。いわば〈元祖オタク〉というべきか。当時、翻訳もされていなかったロバート・A・ハインラインやフレドリック・ブラウン、レイ・ブラッドベリ、シオドア・スタージョンなどのペーパーバックを神保町の古本屋で大量に買いあさっていたと嬉しそうに語っていたのを憶えているが、恐らく、その卒論は担当の大学教授にはまったく理解不能だったのではないかと思われる。

 

山崎さんの奇想に満ちたアモラルな感覚については、さまざまな逸話が残されている。たとえば、『テレビの黄金時代』で、小林信彦さんは次のように書いている。

「山崎忠昭は奇妙なギャグを考える才能があり、のちに小川英と共同で小林旭映画の脚本を書いたが、コワいところもあった。日活でお盆映画を企画したとき、原爆の被害者の亡霊ものを考え、ぼつになった。「それはまずいでしょう」とぼくが言うと、「まずいですかねえ?」 彼は納得しない。コワいというのはそういう瞬間であり、おおむねは内向的な、静かな人物であった。」

 

日本テレビの敏腕プロデューサーであった山口剛さんも山崎さんに興味を抱き、藤竜也主演のアクションドラマ『プロハンター』で、ホンを依頼し、プロットを提出してもらった時のエピソードを、『ジャズ批評』七月号「日本映画とジャズ」特集のインタビューで次のように語っている。

「ひとつは、鎌倉の奥に巨大生物を作っている秘密工場があって象のように大きなネズミと戦う奇想天外な話(笑)。もうひとつは、血統書つきの名犬がどんどん失踪する事件で、それはナチスの残党が自分たちの犬の価値を高めようとしている陰謀で、鎌倉の奥に巨大な犬の収容所があるって話(笑)。カメラが引けども引けども、何万頭の犬の収容されたアウシュビッツが延々と続いているんです。たしかに話は面白いんだけど、「とても実現不可能です」って言ったら、「ちょっとトイレに行ってくる」って言ってそれっきり帰って来なくなっちゃって(笑)。」

 

たしかに、山崎忠昭さんの書くものには、どこかモラルのタガがはずれた刺すような〈毒〉と〈狂気〉が宿っていたような気がする。

日本テレビの伝説的なプロデューサー井原高忠がつくったバラエティ番組『九ちゃん!』に集まった三人の作家が、その後、朝日ソノラマからジュブナイルものをそれぞれ発表する。小林信彦の『オヨヨ島の冒険』、井上ひさしの『ブンとフン』、そして山崎忠昭の『悪魔がねらっている』である。小林、井上両氏は、この作品によって本格的に小説の世界に進出し、大きな飛躍を遂げることになる。

いっぽう、山崎さんの『悪魔がねらっている』は、当時、井上ひさしさんが絶賛したと言われるが、あまり話題にはならなかったようだ。澁澤龍彦の『黒魔術の手帖』と『秘密結社の手帖』にインスパイされたオカルト風の恐怖小説で、巧みなストーリーテリングは、『悪を呼ぶ少年』などトマス・トライオンの一連の作品を彷彿させるものがあった。『悪魔がねらっている』は、数年前、まんだらけの店頭で、法外な価格が付けられていたのを見かけたことがある。

 

山崎忠昭さんは、晩年、テレビの仕事もなくなり、時おり、幻聴に悩まされるらしく意味不明の電話がかかって来ることが多くなった。私は、ときどき、会っては、一緒に酒を飲み、励ますことぐらいしかできなかった。 

あれは、亡くなる数年前だったろうか、地下鉄サリン事件が起こり、オウム真理教の幹部が一斉に検挙された時期に、久々に山崎さんに会ったら、事件にまつわる参考試写で岡本喜八監督の『殺人狂時代』を見た公安の人間が、こういうホンを書いた人物を不審に思ったらしく、突然、会いにやってきたと語っていた。

その時に、「こんなものを書いてみたので、読んでみてくれませんか」と、B5判の用紙にワープロで打たれた小説を手渡された。

 

題名は『ルミよ 祈りて 闇なる邪悪を祓え』とある。

美少女ヒロイン、ルミが、ある日、突然、超能力を授かり、真言密教を武器に、巨大な悪と闘うという荒唐無稽なサイキック・アドベンチャー小説である。スティーブン・キングの『ファイアー・スターター』と『風の谷のナウシカ』をブレンドさせたようなフシギな味わいがある。

とくに大島渚監督の『少年』を思わせる、ヤクザな義父によって当たり屋をやらされている薄倖のヒロイン、ルミの哀切極まりない描写が強く印象に残る。

オウムを思わせる邪悪な新興宗教組織が登場したり、『家畜人ヤプー』ばりの奇天烈で残虐なSMの描写があったり、まったく飽かせない語り口は、山崎忠昭の卓越した手腕をうかがわせるに充分である。

このグロテスクでイノセントなダークファンタジーは私の手許に残されている。どこか奇特な出版社が、この異能の作家、山崎忠昭の幻の小説を世に出してくれないだろうか。


無頼帳.jpg

山崎忠昭著『日活アクション無頼帖』(ワイズ出版)

 

悪魔が狙って.jpg

山崎忠昭著『悪魔がねらっている』(朝日ソノラマ)

著者プロフィール
高崎俊夫
(たかさき・としお)
1954年、福島県生まれ。『月刊イメージフォーラム』の編集部を経て、フリーランスの編集者。『キネマ旬報』『CDジャーナル』『ジャズ批評』に執筆している。これまで手がけた単行本には、『ものみな映画で終わる 花田清輝映画論集』『タデ食う虫と作家の眼 武田泰淳の映画バラエティブック』『女の足指と電話機--回想の女優たち』(虫明亜呂無著、以上清流出版)、『ロバート・アルトマン わが映画、わが人生』(キネマ旬報社)、『テレビの青春』(今野勉著、NTT出版)などがある。
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