原田芳雄、林美雄、そして「サマー・クリスマス」 - 高崎俊夫の映画アット・ランダム
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原田芳雄、林美雄、そして「サマー・クリスマス」

 原田芳雄さんが亡くなって、そろそろ四十九日を迎えようとしている。

 ちょうど、追悼特集を組むことになった『キネマ旬報』(9月5日発売)から、「歌手としての原田芳雄」というテーマでエッセイを依頼され、さらに、『赤い鳥逃げた?』『祭りの準備』『父と暮らせば』『寝盗られ宗介』などの原田さんの代表作の撮影を担当した天才キャメラマン鈴木達夫さんにインタビューする機会もあって、否応なく、この稀有な映画俳優に想いを馳せることになった。 

 

 私のような日活でのデビュー作『反逆のメロディー』を封切りで見ている世代にとっては、原田芳雄とは、一九七〇年代という時代そのものを体現する存在であり、また、同時に、林美雄という名前と分かち難く結びついている。

 いうまでもなく、林美雄さんは、一九七〇年代の始めに、TBSの深夜放送「パック・イン・ミュージック」のパーソナリティを務めていた伝説のアナウンサーである。

 

 林美雄さんが、当時、まったく無名だった荒井由実を発掘したこと、七一年の夏に封切られた藤田敏八監督の『八月の濡れた砂』を熱狂的に擁護し、毎週のように映画で使われた石川セリの主題歌を流したのがきっかけで、翌年、レコードが発売され、歌手石川セリが誕生したこと、その石川セリをゲストに呼んだ際、たまたま井上陽水がパックに来ていて、その出会いから結婚に至ったこと、などなど数多の伝説的なエピソードには、事欠かない。

 

 緑魔子が歌う「やさしいにっぽん人」、石原裕次郎の「憎いあんちくしょう」、荒木一郎の「僕は君と一緒にロックランドに居るのだ」、『日本春歌考』で吉田日出子が歌った「雨ショポ」、『私が棄てた女』で流れた渡辺マリの「東京ドドンパ娘」、亀淵ユカの「ひとりぼっちのトランプ」etc、林さんのパックで聴いた、さまざまな歌の断片がよみがえってくる。

 

 原田芳雄さんも林パックの常連で、時おり酔っ払っては、当時、弟分だった松田優作を引き連れて、スタジオに乱入し、ギターの弾き語りで、「プカプカ」「愛情砂漠」などを熱唱していたことも忘れがたい。

 

 一九七五年の一月十九日、新宿厚生年金会館大ホールで、林美雄さんが、企画・プロデュース、司会を務めた「歌う銀幕スター、夢の狂宴」というイベントがあった。渡哲也、菅原文太、宍戸錠、藤竜也、中川梨絵、桃井かおりらが出演した、この今や伝説となっている一夜限りのコンサートは、演出が『青春の殺人者』でデビューする前の長谷川和彦で、構成が、先頃、急逝した脚本家の高田純だった。

 もはや、三十五年以上も前の舞台だが、中でも、もっとも強烈に記憶に残っているのが、原田芳雄さんが歌った「プカプカ」「早春賦」「黒の舟唄」であり、宍戸錠に日の丸の旗をすっぽりかぶせられた鈴木清順監督が朗々と歌った「麦と兵隊」だった。

 

 この幻のイベントの映像を、最近、見る機会があった。

 二〇〇二年に林美雄さんが胃癌で亡くなった後、彼を偲ぶ熱心なファンが自然発生的に集まり、「ハヤシヨシオ的メモリアルクラブ」という名前で、毎年、林さんの誕生日である八月二十五日に「サマー・クリスマス」というささやかな呑み会を開いている。

 私も、いつの頃からか、この会に参加するようになり、これまで、林さんにゆかりのある日活ロマンポルノの名優・高橋明さんや女優の中川梨絵さんをゲストにお呼びしたこともある。

 

 そして、今年は、原田芳雄追悼ということもあり、林美雄夫人が秘蔵する、DVDに起こしたこの幻の『歌う銀幕スター 夢の狂宴』の映像を特別上映したのだ。

 原田さんは、『反逆のメロディー』で共演した佐藤蛾次郎が歌う「もずが枯れ木で」をはさんで、「プカプカ」「早春賦」「黒の舟唄」を歌っていたが、ほとんど記憶していた通りなので、われながら驚いた。

 

 原田芳雄の歌といえば、日活ニューアクションのアンチ・ヒーロー像をそのまま体現した男くさいブルースという印象が強いが、どちらかといえば、両性具有的な魅力がある。

 「プカプカ」にしても、途中から<あたい>という女性の語りに変化する瞬間、トーンがふっと柔らかくなるし、荒木一郎とデュエットした「ミッドナイトブルース」など、荒木一郎のほうが男性的で、精一杯、シャウトしているにもかかわらず、原田芳雄のほうが手弱女(たおやめ)風に耳に聴こえるのだ。

 

 鈴木達夫さんがキャメラを回した『寝盗られ宗介』で、越路吹雪ばりのドレスアップした女装姿で「愛の讃歌」を絶唱するクライマックスなど、そんな原田芳雄の倒錯的な魅力が一気に開花した名場面といえるのではないだろうか。

 

 今年の「サマー・クリスマス」のサプライズ・ゲストは、『祭りの準備』で原田さんの妹を演じた桂木梨江さんで、桂木さんは、『祭りの準備』の現場の想い出を切々と語ってくれたが、これには心底、感銘を受けた。

 

 封切り以来、久々に『祭りの準備』を見直すと、桂木さんの演じたヤクザにヤク中にされ、頭がおかしくなって帰郷した妹は、主人公の江藤潤の恋人・竹下景子よりもはるかに重要な役で、ちょうどフェリーニの『812』のサラギーナのような邪悪さとイノセンスを象徴するヒロインなのだった。

 鈴木達夫さんは、インタビューの中で、原田芳雄さんが、帰ってきた桂木梨江さんを無言で行水させる名場面は、その場で原田さんが思いついたアイディアだと語っていたが、桂木さんに聞いてみると、まさに、その通りだという。

 

 桂木さんは、「原田芳雄という兄貴のことを思う時に、バブルが始まった八〇年代以後ではなく、未だにさまざまな可能性をまさぐっていた一九七〇年代という時代のことをもっと真摯に考えなければいけないような気がします」と話していたが、私も深く同意したい。

 

 漠然と、数年前から『林美雄とパック・イン・ミュージックの時代』という本をつくりたいと思っていた。もちろん、林さん御本人は、亡くなってしまっているので、ちょうど、ジョージ・プリンプトンの『トルーマン・カポーティ』(新潮文庫)のように、林美雄さんと関わりのあったさまざまな有名・無名の方々に話を聞き、オーラル・ヒストリーの形で、林美雄と深夜放送というカルチャーが最も輝きを放っていた時代をとらえてみたいと考えていたのだ。

 そして、まず、最初にインタビューしなければと思っていたのが、原田芳雄さんだった。

 まさに、その矢先の突然の死であった。

 

 加藤泰監督の『遊侠一匹』の主題歌「何が意気かよ」の<何が意気かよ 気が付く時は みんな手おくれ 吹きざらし>という一節が身に沁みてくるようだ。

 残された時間も人間も少なくなってきている、とあらためて自分を鼓舞しているところなのである。

 

 

 

  

反逆.jpg 

『反逆のメロディー』

著者プロフィール
高崎俊夫
(たかさき・としお)
1954年、福島県生まれ。『月刊イメージフォーラム』の編集部を経て、フリーランスの編集者。『キネマ旬報』『CDジャーナル』『ジャズ批評』に執筆している。これまで手がけた単行本には、『ものみな映画で終わる 花田清輝映画論集』『タデ食う虫と作家の眼 武田泰淳の映画バラエティブック』『女の足指と電話機--回想の女優たち』(虫明亜呂無著、以上清流出版)、『ロバート・アルトマン わが映画、わが人生』(キネマ旬報社)、『テレビの青春』(今野勉著、NTT出版)などがある。
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