加登屋のメモと写真…: 2022年1月アーカイブ
加登屋のメモと写真…
2022年1月アーカイブ

和田 誠さん

清流出版 (2022年1月20日 16:59)

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・会期中には是非にと思っていた「和田誠展」(10月9日―12月19日)を見に行くことができた。場所は東京・初台にある東京オペラシティ・アートギャラリーである。「きっとこれまで知らなかった和田誠の新たな一面に出会えることでしょう」のキャッチフレーズはオーバーでも嘘でもなかった。83年間の生涯で和田さんが制作した多彩な作品群は、まさに圧巻だったというしかない。グラフィックデザイナーとして知られた和田さんだが、それ以外にも、装丁家、映画監督、エッセイスト、作曲家、アニメーション作家、アートディレクターなど様々な顔をお持ちで、創作現場の広がりは留まることをしらない。まさに和田誠さんの膨大で多岐にわたる仕事の全貌に迫る初めての展覧会といっていい。僕も体調が万全とはいえなかったが、無理してでも出かけて本当に良かったと思っている。

 なんと約2800点にもおよぶ作品群と資料によって、その生涯を俯瞰する大規模な回顧展であった。僕も和田さんとの長いお付き合いの中で、仕事の広がりは知っていたつもりであった。しかし、年表と生まれてから83歳までの、時系列で展示された柱の数々を見て、知らなかったことが沢山あった。4歳にして描き始めた物語は、すでに後の多彩な才能の萌芽を予感させている。雑誌に掲載された小学生の時に描いた漫画があり、中学・高校時代に描いたクラスメートや担任教師などの似顔絵も展示されていた。それぞれの担当教員の似顔絵で作られた、1週間の時間割表も展示されていた。少筆とデフォルメが素晴らしく、僕が和田さんの学んだ教師の顔を知る由もないが、おそらく一目でそれと分かるほど特徴を摑んでいるように思える。いみじくも和田さんは言っていた。クラスメートも教師も「ただ“似ている”という観点だけで判断するなら、中学時代に描いたものが一番ではないだろうか」と……。


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僕の大好きな赤塚不二夫さんと愛猫・菊千代

・入口付近に人だかりがしていたので、覗いてみると、『週刊文春』の表紙を仕上げる和田さんのメイキング・ビデオが流されていた。すでにゴールは和田さんの頭の中にでき上がっているのだろう。それこそ遅滞なく軽快なタッチで、筆を駆使して色を塗って仕上げていく。実に見事なものである。このメイキング・ビデオでは、ほぼ15分で描き上げてしまった。それにしても『週刊文春』の表紙を、和田さんは1977年から2017年まで40年間、実に2000号分を制作してきている。「継続は力なり」という言葉があるが、40年間にわたり、毎週描き続けたこのパワーには脱帽するしかない。この仕事の全貌が巨大な壁一面に展示されていた。この週刊誌を僕は毎週見てきたはずなのだが、こうして俯瞰して見ると、圧倒的な仕事量であることが実感できた。『週刊文春』編集部は、この表紙について、「最低限の文字しかないのは、ひとえに、和田さんの絵の魅力あってのことです。」と絶賛している。
 

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圧倒されるような『週刊文春』の表紙群

 邦画・洋画の映画ポスター・コーナーも、同様に作品が大きな壁一面に展示されていた。僕の目は懐かしさにくぎ付けになった。映画好きの僕は、邦画・洋画を問わず、随分多くの映画を観てきたつもりだ。そんな懐かしの名画ポスターがずらりと並んでいるのだから、目が離せるわけがない。ポスターから連想された、若かりし頃の思い出も甦ってきて、しばらく動くことができなかった。愛らしいイラストレーションで描かれた演劇・個展のポスターも多数あった。「天井桟敷」のポスターなど、僕にとって感動ものであった。というのも僕は寺山修司の大ファンであり、寺山修司全集も持っていたほどなのだが、八王子から都心に引っ越すにあたり、泣く泣く処分した苦い記憶がある。和田さんは学生時代から、寺山修司とは親しい友人であったことから、この「天井桟敷」のポスターを嬉々として描いたものと思われる。


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演劇や各種ショーのポスターなども興味深いものだった

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装丁した単行本のコーナー

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僕が担当した和田誠さんの本(ダイヤモンド社、1991年刊)

・そしてもっとも興味があったのは、装丁本のコーナーである。僕が企画編集して、装丁をお願いした懐かしい『ブラウン管の映画館』も並んでいた。この映画本は、後に文藝春秋のドル箱となった『お楽しみはこれからだ』のシリーズに繋がっていく。それにしてもなんとバラエティに富んでいることだろう。音楽関係、映画関係、文藝エッセイ集、小説、絵本、美術・芸術関係など、トータルした装丁本は、実に2000冊にのぼるとか。なんと自著も200冊あまりある。清流出版でも犬の本を装丁して頂いている。中野孝次、如月小春、黒鉄ヒロシの3氏による鼎談集『犬は東に日は西に』である。洋犬、和犬3匹を配し、タイトルとの案配も絶妙である。


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清流出版(1999年10月刊)

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888ブックス刊行(2021年10月18日)

・これは僕もまったく知らなかったのだが、和田さんは22歳の頃から9年間にわたり、新宿にあった映画館(日活名画座)のために、上映映画ポスターを無償で描いていたのだという。このポスターは『和田誠 日活名画座ポスター集』(888ブックス 2021年10月18日)として出版刊行されている。大判の単行本であり、僕はアマゾンからでも取り寄せて、じっくり見てみたいと思っている。この本には185点のポスターが所収されている。描いた全体の正確な数字が不明のようだが、およそ9割は収録されているとか。無償で描いたというのがいかにも和田さんらしい。映画への深い愛情と心意気が伝わってくる。


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和田誠さんと僕 

 奥様である平野レミさんの意向もあったのだろう。嬉しいことに会場内に展示されたすべての作品は撮影がOKだった。だから入場者の皆さんは、思い思いの作品を前にシャッターを切っていた。これも素晴らしい配慮だと思う。そして更に感動的なのは、これらの作品群の行き先である。原画など作品と制作に関する資料は、和田さんの母校である多摩美術大学のアーカイヴセンター(東京・八王子市)に寄贈される。また、和田さんが海外から取り寄せた映画フィルムや資料は、国立映画アーカイブへ寄贈される。さらに自著や装丁本などは、渋谷区立中央図書館に贈られるという。こうした天賦の才が花開いた、素晴らしい作品群が、どんなに次代の若者たちに影響を与えることだろう。僕は改めて、和田さんに知り合えたことに感謝するとともに、お仕事をご一緒できた幸運を噛み締めている。

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