加登屋のメモと写真…: 2020年12月アーカイブ
加登屋のメモと写真…
2020年12月アーカイブ

堤江実さん

清流出版 (2020年12月18日 10:50)

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堤江実さん

・12月初旬、ショッキングな葉書が届いた。堤大介さん・堤未果さんの姉弟連名で、「去る11月19日、母 江実が八十歳で永眠いたしました」という知らせだった。江実さんはこのところ体調が思わしくなく、入院をしていたらしいのだが、ついに帰らぬ人となってしまった。僕と同い年なので話も合い、特に親しみを感じていたので本当にショックを受けた。葉書には、江実さんのホームページに「お別れの言葉」を残しているとあった。emitsutsumi.o.007.jp/を半信半疑で僕も見てみると、確かに「人生の大切な皆さま」に宛てと題し、お別れの言葉が綴られていた。それも亡くなった日の日付入りである。多くの人との出会いを通じて、幸せな人生を終えられたことへの感謝の言葉である。なんと凄い人だろうと僕は言葉もなかった。江実さんならではの見事な人生の幕の引き方であった。江実さんには、弊社から翻訳本、エッセイ集、童話と単行本もたくさん出させて頂いた。


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左より杉田明維子さん、堤未果さん、堤江実さん


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文・堤江実さん 絵・杉田明維子さんの共作(清流出版)

・堤江実さんの経歴を簡単にご紹介しておこう。1940年、東京都の生まれ。立教大学文学部英米文学科卒。文化放送アナウンサー、グリーティングカード、ラッピングペーパーの(株)カミカ経営を経て、詩、翻訳、エッセイ、絵本など幅広いジャンルの著作がある。自作の詩の朗読コンサート、ワークショップ、日本語についての講演、研修に従事してきた。主な著書に『ことば美人になりたいあなたへ』(清流出版)、『日本語の美しい音の使い方』(三五館)、『アナウンサーになろう』(PHP研究所)他多数。また絵本には、杉田明維子さんとのコラボの『うまれるってうれしいな』(清流出版)、画家・出射茂さん、国立環境研究所主任研究員・功刀正行さんと三人の共著となる『水のミーシャ』(読書推進協議会賞)『風のリーラ』(ユネスコ・アジア文化センター賞)『森のフォーレ』(ユネスコ・アジア文化センター賞)の以上3部作が清流出版から出版されている。その他にも、堤大介さんとの共著である『あ、きこえたよ』、『流れ星のリリリ』(以上PHP研究所)、『ルナ・おつきさんのおそうじや』(講談社)他多数。2011年には、詩と絵本の活動に対して、東久邇宮文化褒賞を受賞している。


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左より出射茂さん、江実さん、功刀正行さん


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受賞楯と共に清流出版刊行の絵本3部作 

・堤江実さんはジャーナリスト・堤未果さん、国際的なアニメーター・堤大介さんと二人のお子さんを女手一つで育て上げた。僕自身は子育てに関しては、任せ切りで関知せず女房の顰蹙をかってきた。翻って江実さんは、確固とした教育方針の元、お二人を国際人に育て上げた。何か秘訣があるはずだ。僕は子育ての要諦について尋ねたことがある。二人とも和光中学・和光高校で学んでいる。なぜなのか尋ねてみると、「和光学園ではクラスに必ず何人かずつ、障害のある子がいるんです」という。障害のある子どもたちと日々日常的に接することで、当たり前のように人を思いやる心が育まれる。弱者への温かい視線がごく自然に養われる、そんな環境を子どもたちのために選んだのである。この辺り、将来を見据えた、江実さんなりの深謀遠慮なのではないだろうか。
 
 そして二人のお子さんを、卒業と同時にアメリカ留学させている。特に大介君は野球に熱中した高校時代を送っており、背中を押されなければ留学はなかったかもしれない。江実さんは将来のグローバル・スタンダードを見越し、乗り切るための基礎作りをしてあげたのか。実際、未果さんはニューヨーク州立大学を経て、同大学院修士課程を修了。国連、アムネスティインターナショナルのニューヨーク支局員を経て、米国野村證券に勤務中、あの9.11に遭遇する。衝撃を受け日本に帰国後は、アメリカ―東京間を行き来しながら、執筆・講演活動を続けている。『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波書店)は衝撃的だった。同書は、「日本エッセイストクラブ賞」、2009年の「新書大賞」を受賞し、ベストセラーとなった。岩波書店からは『ルポ 貧困大国アメリカII』、そして『(株)貧困大国アメリカ』と執筆刊行、シリーズ3部作を完結させている。


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弊社に来社した時の堤未果さん

・堤大介さんも高校卒業後、ニューヨークに渡り、油絵を「スクール・オブ・ビジュアル・アーツ」に学んでいる。1998年の卒業後、ルーカス・フィルム傘下のルーカス・ラーニングで、スタッフ・イラストレーターとして働き始める。2000年、ブルースカイ・スタジオに、視覚効果/色指定担当のアーティストとして採用され、『ロボッツ』『アイスエイジ』、そして『ホートン/ふしぎな世界のダレダーレ』の制作に携わる。 2010年、ピクサー・アニメーション・スタジオに招聘され入社。アカデミー賞を受賞したアニメーション作品『トイストーリー3』 のアートディレクターに就任している。しかし、7年間勤めたピクサー・アニメーション・スタジオを退社、ピクサーで働いていた信頼する同僚ロバート・コンドウさんと二人で独立を果たした。


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トイストーリー3のDVD

 ピクサーで、しかもアートディレクターという大役を任され、自らドリームジョブと評した会社をアッサリ辞めてしまうとは……。その真意が2016年に銀座「クリエイションギャラリーG8」で開催された二人の新作アニメ「ダム・キーパーの旅」を展示した「トンコハウス展」で明かされていた。トンコハウスとは立ち上げたアニメーションスタジオ名である。居心地のよい環境にどっぷり浸ってしまわず、「ゼロから何か新たな世界をもがき苦しみながら作っていきたい」との熱い思いから独立を選んだという。今この経験をしておかなければ、自分の成長は止まってしまうと考えたからだ。ちなみに彼らの初作品となる短編映画「ダム・キーパーの旅」は受賞を逃したものの、2015年の米アカデミー賞にノミネートされている。僕は大きな夢をもち努力する二人の若者を応援したい。米アカデミー賞受賞も夢ではない。大きく羽ばたいて欲しいものだ。


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堤大介さんの新しい門出「トンコハウス展」にて


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堤江実さんと僕

 このような江実さんの子育てに関する考え方は、次代の子どもたちの子育てに役立つと確信した僕は、原稿執筆をお願いしたいと思っていた。その意味でも、突然の訃報はとても残念だった。江実さんは、音楽家とコラボしながらの詩の朗読会を毎年開催した。僕も港区白金台のレストランで行われた朗読会に、何度かお邪魔させて頂いた。会場で経理を担当していた女性が、なんと僕の中学校時代の同級生で、話が盛り上がったこともあった。詩を朗読する時の、あの柔らかトーンの声は、さすがアナウンサー出身ならではであった。
 前述した連名葉書によれば、江実さんのたっての希望だった『堤江実 全詩集』の刊行準備をお二人で進めているとのこと。素晴らしい親孝行になると思う。天国にいった江実さんも、きっとその刊行を心待ちにしているに違いない。1日も早く刊行にこぎつけることを僕も切に願っている。

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