加登屋のメモと写真…: 2016年10月アーカイブ
加登屋のメモと写真…
2016年10月アーカイブ

鹿島茂さんご夫妻

清流出版 (2016年10月26日 16:48)

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鹿島茂さん、奥様の岸リューリさん
 

・今回は、フランス文学者・評論家で明治大学国際日本学部教授でもある鹿島茂さんについて書いてみたい。というのも、今年、11月18日の発売予定で鹿島茂さんの新刊が弊社から刊行されるからだ。書名は『「悪知恵」の逆襲――毒か? 薬か? ラ・フォンテーヌの寓話』である。実はラ・フォンテーヌとは17世紀フランスの詩人で、「すべての道はローマへ通ず」「火中の栗を拾う」など、多くの名言・格言を残した人である。イソップ寓話を基にした寓話詩(Fables、1668年)でよく知られている。 

 ラ・フォンテーヌの童話集・寓話集は日本でも岩波書店、河出書房、社会思想社など大手出版社から十数冊翻訳出版され、今もって根強い人気を博している。「北風と太陽」や「金のタマゴを産むめんどり」「かえるの王様」などは、皆さんもよくご存じの寓話であろう。イソップ寓話というのは、子供向けに書かれたようで子供向けではない。実は混迷する現代日本を生き抜いていくに必要な、大人向けの人生訓がきら星のように散りばめられているのだ。

 弊社では、このイソップ寓話を鹿島流解釈により、現代の処世訓として蘇らせるとして、連載を月刊『清流』にお願いした。これがとても好評だったので、その連載を元に2013年、『「悪知恵」のすすめ ラ・フォンテーヌの寓話に学ぶ処世訓』として刊行させていただいた。これが大手新聞社、共同通信社の書評掲載、NHKのラジオ番組「土曜あさいちばん」で取り上げられるなど、評判となり増刷出来となったのだ。これに味をしめたというのではないが、再びラ・フォンテーヌの寓話を現代に読み解くという連載をお願いして、その2冊目が今回の『「悪知恵」の逆襲――毒か? 薬か? ラ・フォンテーヌの寓話』となったわけだ。
 

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『「悪知恵」のすすめ――ラ・フォンテーヌの寓話に学ぶ処世訓』(2013年刊)
 
 

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『「悪知恵」の逆襲――毒か? 薬か? ラ・フォンテーヌの寓話』(2016年刊)
 

・鹿島さんとのお付き合いは、かれこれ十数年といったところだろうか。これだけの売れっ子になると、書き下ろしは絶対に無理だという。確かに20本以上の連載を抱えていると聞けば、無理ならんと思えてくる。そこで考えて、雑誌に連載していただき、それを単行本にするというのが一番お願いしやすいこともあり、最初、「神田村通信」として神田神保町の古書街や古書事情などをテーマにして月刊『清流』にエッセイを連載していただいた。文章を鹿島さん、挿絵を奥様の岸リューリさんにお願いした。なかなかにユニークな誌面で、僕も印象深い。
 

 この月刊『清流』に連載された神田村暮らしのエッセイをメインに、プラスして他の雑誌、新聞からのエッセイを精選して一冊に編んで刊行したものだった。単行本として刊行した『神田村通信』(2007年)は、神田神保町の東京堂で発売と同時に、その週のベストワンに選ばれた。以降、順位は多少上下しつつも、数か月にわたってベスト10に入り続けた。このころ鹿島さんは、東京堂のすぐ傍に仕事場と居宅があり、当時の勤め先だった共立女子大学も神田村周辺にあった。だから帯のキャッチにこう書いたのを覚えている。「本の町・神田神保町に暮らす“フラヌール鹿島"の全生活を公開!!」と。僕も若い頃、神田神保町の遊歩者(フラヌール)に憧れたこともあったが、所詮、一介のサラリーマンの夢だった。
 

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『神田村通信』(2007年刊)
 

・鹿島さんといえば、1949年生まれで神奈川県のご出身。神奈川県立湘南高等学校から東京大学文学部仏文学科卒業し、同大学院人文科学研究科博士課程中退。32歳の時、翻訳した『映画と精神分析』(クリスチャン・メッツ著 白水社刊 1981年)を皮切りに、数々の著訳書があり、ざっと数えただけでも160冊を優に超えるのではないか。わが国有数の書き手でいらっしゃるのは事実だ。1991年には『馬車が買いたい!』(白水社刊)でサントリー学芸賞、1996年に『子供より古書が大事と思いたい』(青土社刊)で講談社エッセイ賞、1998年に『愛書狂』(角川春樹事務所刊)でゲスナー賞、1999年に『職業別パリ風俗』(白水社刊)で読売文学賞、2002年に『成功する読書日記』(文藝春秋刊)で毎日書評賞を受賞している。出版する本が軒並み高く評価されるという稀有な作家である。
 

 鹿島さんは、なんといっても19世紀フランスを専門領域とし、わけてもオノレ・ド・バルザック、エミール・ゾラ、ヴィクトル・ユゴー等を題材にしたエッセイで知られている。その上、古書マニアとして有名だ。毎回、フランスへ行くと、どっさり古書を買ってしまう。カード決済で購入されるらしいのだが、財布の中はカードだらけでどう収めようとしても入りきらないと嘆いてらした。ただ一つの朗報はこのところのユーロ安であろうか。一時、160円近くまでいったユーロで古書を買うにも負担増で頭を抱えておられたが、現在は110円台で推移している。円高になっての50円近い差は、随分お金の使い勝手が違うことだろう。僕が1969年から1970年まで、パリ生活をしてせっせと古書店巡りした時は1ドル360円、そして、外国に持ち出せるドルは制限があり、たった500ドルだった。僕は少々、早すぎたらしい。1990年代になってから古書店巡りに目覚めれば良かった。
 

・鹿島さんは、流石に超売れっ子である。今年に入って、すでに3冊の新刊を刊行された。弊社が4冊目である。『フランス文学は役に立つ!「赤と黒」から「異邦人」まで』(NHK出版刊)と、2冊は「ドーダ理論」をテーマにした偉人伝だ。「ドーダ」とは「自己愛に源を発するすべての表現行為」である。著書『ドーダの人、小林秀雄――わからなさの理由を求めて』(朝日新聞出版刊)の概要にはこうある。≪作家はそれぞれ「ドーダ」を表現欲として書き続けてきた。小林秀雄の文章は難解である。「なぜ、小林秀雄は分かりづらいのか」。そこから本書はスタートし、小林のコンプレックスを突き止め、偉大な文学者の本質を軽やかに衝く。難解な小林秀雄の文章が身近に感じられる、読みはじめたら止まらない文学論、かつ、コンプレックスにがんじがらめになった小林を身近に感じ、苦手意識が薄らぐ、読み応えのある小林秀雄論≫であると。続いて刊行されたのが、『ドーダの人、森鴎外――踊る明治文学史』(朝日新聞出版刊)である。同じく概要ではこうある。≪東大で独逸語を学び、ドイツに留学したのちには軍医の傍ら、小説家としても名をはせた森鴎外。彼には西欧人コンプレックスから生まれた「ドーダ」がある、と著者は説く。偉大な文学者の過剰な自意識に迫る画期的な文学評論≫と。いずれにしても鹿島さん独特の視点から書かれたドーダ理論に裏打ちされた異色の偉人伝である。大いに興味深いところだ。
 

・鹿島さんの所蔵するコレクションが、また、素晴らしい。2012年の5月、雨がそぼ降る日だったが、僕は、月刊『清流』の長沼里香編集長と練馬区立美術館で開催された『鹿島茂コレクション』を観に行った。そして、『バルビエ×ラブルール展』を観て、興奮を抑えきれなかった。ともにフランスのアール・デコ期を代表する挿し絵画家、ジョルジュ・バルビエ(1882-1932)とジャン=エミール・ラブルール(1877-1943)の見事なコレクションの数々。鹿島さんのコレクターとしての慧眼ぶりに目を見開かれた思いがした。バルビエは鮮やかな色彩の妙に、そしてラブルールは緻密な線描写が素晴らしかった。バルビエがニジンスキーのダンスを描いた名高いデッサンには思わず唸らされた。また、ラブルールは文学作品の挿し絵を多く手がけ、オスカー・ワイルドの代表作『ドリアン・グレイの肖像』の他、アンドレ・ジッドの『法王庁の抜け穴』の挿し絵などが特に印象に残っている。それにしても、見事なコレクションであった。鹿島さんは、ここ数年、練馬区立美術館と組んで、『グランヴィル展』(19世紀フランス幻想版画)や『モダン・パリの装い展』(19世紀から20世紀初期のファッション・プレート)等のコレクションを行っているが、このような試みは、本来の類なき“文才”の名はもちろんだが、その上“名コレクター鹿島茂”の評価を高めることになったのではないだろうか。

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