加登屋のメモと写真…: 2015年1月アーカイブ
加登屋のメモと写真…
2015年1月アーカイブ

キューバの話――出版できなかった企画二つ

清流出版 (2015年1月20日 12:37) | コメント(0) | トラックバック(0)

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宮川安芸良(あきら)さんの大型本『聖地 キューバの記憶』の本文の中から。左から二人目が、著者・宮川さん。ここは文豪ヘミングウェイがこよなく愛したレストラン。壁面にいろいろの文豪の姿がある。この日、演奏していた3兄弟のミュージシャンたちが美しい音楽を聴かせてくれた。

 

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『聖地 キューバの記憶』(宮川安芸良著、左:面表紙、右:裏表紙)

 

・アメリカとキューバの間で国交が回復する可能性が出てきた。バラク・オバマ大統領は昨年1217日、1961年以来、半世紀以上も外交関係が断絶しているキューバと、国交正常化に向けた交渉を始めると発表した。2015年に国交が回復すれば、54年ぶりとなる。両国は相互に大使館を設置し、貿易と旅行の規制を緩和する方針。オバマ氏は、「アメリカの外交政策で賞味期限が切れたものがあったとすれば、それは対キューバ政策だ」、「我々のほとんどが生まれる前にとられた、かたくなな政策は、アメリカ人だけでなくキューバ人にとっても役に立つものではない。新たな序章の始まりだ」などと述べ、政策を180度転換させる考えを示している。近年にない明るい話題である。うがった見方をすれば、支持率が芳しくないオバマに変わり、ヒラリー・クリントン大統領実現を目指す民主党の知恵者が考えた策だろうとの話も出ている。オバマ氏の声明を受け、キューバ国内でも歓迎ムードが広がっている。思い起こせば、あのキューバ危機(196210月)があった。世界中が一触即発の危機に立たされたことがあったのだ。米ケネディ大統領はこの時点では第三次世界大戦、それも世界が滅亡に至る核戦争という最悪のシナリオを頭に描いていたに違いない。ぎりぎりのところで、ソビエトのニキータ・フルシチョフ首相の判断で第三次世界大戦は回避されたことになる。

 

20126月刊行で『聖地 キューバの記憶 Mi Cuba Querido』という写真集が出ている。発行はジャン デザイン カンパニー(JAN DESIGN CO.) というデザイン会社。著者も同社社長の宮川安芸良(あきら)さんだ。実はこの写真集の刊行を清流出版で後押ししたことがある。そもそも宮川さんと知り合ったきっかけは、弊社で刊行した画家・桂ゆきの著になるエッセイ集『余白を生きる――甦る女流天才画家・桂ゆき』(2005年、396ページ、定価3780円)を二十数冊購入してくれたことに始まる。訊いてみると桂ゆきとは親しい友人で、共に世界を旅した仲間だったという。この宮川さんが弊社を訪ねてきたのは、10年ほども前になろうか。キューバの写真集を出したいとのご希望だった。ラフレイアウトとそれまで撮り溜めた写真を多数持参されていた。僕は当時の出版部長・臼井雅観君とそれらを見て、いま一つ物足りなさを感じた。全体的に観光地紹介のような写真が多く、庶民の生活感が伝わってこなかったからだ。そこで僕は、もう少し、庶民の生活感が感じられる写真も入れて欲しいと提言したのだった。

 

・文豪アーネスト・ミラー・ヘミングウェイは、1940年から60年頃にかけてキューバの首都ハバナからほど近い丘に住んでいた。キューバの一体何が、世界的な文豪をしてそれほどまでに惹き付けられたのか。その秘密を知りたかった。また、僕は葉巻が大好きで、よく嗜んでいた。世界に冠たるキューバ葉巻の生産についても興味があったので、そんな葉巻の生産についても知りたかった。また、なぜ一人当たりの国民所得はあんなに低いのに庶民は明るくいられるのか。一般庶民の生活ぶりはどうなっているのか。そんな写真も見たかったのである。もう一つ付け加えると、僕はタンゴ、ルンバ、マンボ、サンバなどラテン系の音楽も好きでよく聴いていた。キューバの音楽も大好きだった。素晴らしく豊かな感性と高度な演奏技術は、世界的に話題を呼んだドキュメンタリー映画『ブエナビスタ ソシアルクラブ』からも伺える。ちょっと脱線になるが、妻の故郷である信州松本市に「ホテル ブエナビスタ」がある。何回も泊まっているので、懐かしい。そのブエナビスタに纏わる音楽、ルンバ、マンボ、チャチャチャ、そしてサルサなどリズムの宝庫であるキューバ。そんなリズムがどう刻まれ、自然に踊る人々も見てみたかった。宮川氏はもう一度、全体構成を考えてみたいと帰って行った。僕の提案を聞き入れてくれたのか、結局、その後も何回かキューバに渡ったようだ。都合10年ほどで11回も渡航し、キューバ各地の人々と交流して写真を撮り続けた。その熱い思いがこの本に集約されていた。フィデル・カストロと中国国家主席・江沢民、ゲバラの肖像がある革命広場、メーデー風景など政治的写真から、僕の提案した庶民の生活感が伝わる写真も多数掲載されていた。ロバのタクシー、のどかな田園地帯、キューバ最高級の葉巻コイーバ(Cohiba)畑やその葉っぱの乾燥風景、遊ぶ子供たち、母子の買い物姿など実に生活感に溢れた写真も僕の目を引いた。

 

・ここで宮川安芸良さんのプロフィールをご紹介しておこう。1938年、横浜生まれ。3代続くハマッ子である。 福田蘭童に師事した。蘭童は安芸良さんの名付け親でもある。1970年、福田蘭童を団長に、前述の桂ゆき、直木賞作家・渡辺喜恵子等の旅の仲間に飛び込み、中南米を2ヵ月近く旅する。1972年、福田蘭童のお供でフランス、スペイン、ポルトガル、そしてマグレブ地域(現在のモロッコ、アルジェリア、チュニジア三国)から、更にはイタリア、ギリシャ、エジプト、タイ、香港と旅する。1973年、二人の旅の話『サオをかついで世界漫遊』(福田蘭童著)が刊行される。その頃より福田蘭童、檀一雄、開高健といった釣仲間たちで結成された「雑魚(ざこ)クラブ」に加わり、日本各地を旅する。ちなみに同クラブ初代会長は、漫画「のんきなトウサン」の作者で、4コマ漫画の創始者で知られる麻生豊で、幹事長は立野信之、世話役が福田蘭童と女性群代表として渡辺喜恵子、女性釣り人には桂ゆきや宮城まり子、室生朝子などがおり多士済済のメンバーだった。1977年、日本で代表的な日曜画家グループ「竹林会」に入会。 石川達三、草野心平、石垣綾子、戸川幸夫、清水崑、那須良輔等の仲間入りをし、スケッチ旅行で各地を遊ぶ。19923月 ポルトガルのサンタクルスに檀一雄の文学碑を仲間三人で建立する。とまあ、こう書いてくると、宮川氏がかなり趣味人であることがうかがい知れよう。

この宮川さんには臼井君共々お世話になった。写真集の内容構成について少しばかりしたアドバイスに恩義を感じてくれ、福田蘭童の子息にして画家青木繁の孫1994年に亡くなった石橋エータローが渋谷で経営していた酒と肴の店「三漁洞」でご馳走になったこともある。帰り道、世田谷方面で僕と同方向なのでタクシーに同乗、宮川さんのお宅までお送りした。その際、奥さんに紹介されたが、素晴らしい麗人である。案外、この美人の奥さんを見せたかったのかも知れない。

 

・キューバについてはもう一人忘れられない人がいる。それが田中英子さんである。彼女は元キューバ大使・田中三郎氏のお嬢さん。英子さんは、父君の大使在任中の1996年から2000年までキューバに滞在した。日本に帰国してからは、都内でキューバ独特のリズム、サルサを中心としたダンス教室を開いて教えている。その英子さんが弊社を訪ねてきて、写真集の企画提案をされた。写真はキューバという国そのものを様々な角度から活写しており、一種の「英子ワールド」を醸し出していた。特筆すべきは、自身「トロピカーナ」のダンサーだったこともあり、普通の人は絶対に入れない、見ることができない世界を撮った写真の数々だった。名門ダンスカンパニーである「トロピカーナ」の舞台上と舞台裏の写真は圧巻である。こんな写真の撮影ができたのは、日本人でも彼女だけではないだろうか。ダンサー達の鍛え上げられた肢体、汗に輝く褐色の肌、華やかな髪飾り、飾り立てられた冠、光り輝く装身具、ダイナミックな踊り。かと思えば、対照的に質素で簡素な舞台裏も見せてくれる。開演前のダンサー達の張りつめた表情、閉演後の気だるい充足感漂う弛緩した顔、ゴミゴミした舞台裏の空間。陽気なダンサー達の悲喜こもごもの一瞬の陰影を見事に定着していた。添えられた文章も大変興味深かった。ダンサー達と交わした生の会話などが具体的に書かれ、リアルにダンサーという特殊な世界を楽しむ事ができた。弊社から出したいとの思いから、臼井君に指示し、英子さんとは何回か打ち合わせを重ねたが、最終的な刊行には至らなかった。父君田中三郎氏はフィデル・カストロに大使として滞在期間、実に48回会ったという伝説の人だ。その著書も『フィデル・カストロ――世界の無限の悲惨を背負う人』(635ページの大著、2005年)、『フィデル・カストロの「思索」――人類の経験を背負う人』(2011年)等を刊行した同時代社から、20107月に『CUBA――A PHOTO DIARY』として刊行された。結果的に素晴らしい写真集が世に出た。英子さんの衒いのない素直な文と写真が相まって、希少なキューバの魅力を伝えている。彼女は、ロンドン生まれ、ルーマニア、南アフリカで幼少を過ごし、ウィーンのインターナショナル高校で卒業後、上智大学、カリフォルニア大学バークレー校留学を経て、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスを卒業、国際関係学修士号を取得というエリートだが、世界的に有名なショーに魅せられ「トロピカーナ」の舞台に立ったユニークな女性として僕は敬愛している。僕としては出版できなくて残念な思いをしたが、彼女の本『CUBA――A PHOTO DIARY』を観てからは、結果オーライと思いたい。田中英子さんの今後のより一層のご活躍を願っている。

 

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田中英子さん(サルサインストラクター)


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CUBA――A PHOTO DIARY』 

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