2012.04.11くすはら順子さんの個展を観る

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ユニークな作品群

 

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美人姉妹のツーショット

 

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清流出版メンバーとくすはらさん(撮影:臼井雅観)

 

 

●自由奔放なタッチ、風変わりなフォルム――才能ある方!

 

・くすはら順子さんは、僕がお気に入りのイラストレーターである。弊社発行の月刊誌や単行本のイラスト、装画など、すばらしい作品を提供してくれている人だ。その作風はといえばペン、筆、パステル、グァッシュなどを駆使した画で、自由奔放なタッチ、風変わりなフォルムが持ち味である。連載エッセイをスタートさせる際、イラストレーターとしてくすはらさんを指名した方もいる。そのお一人が、産経新聞の「産経抄」を35年間、書き続けたことにより菊池寛賞を受賞したコラムニストの石井英夫さんである。いまも月刊『清流』に連載中の石井さんのコラム「いとしきモノたち」は、添えられたくすはらさんの絵がアクセントとなってユニークな誌面となっている。また、連載はすでに終了したが、金田一秀穂さんのコラム「気持ちにそぐう言葉たち」でもくすはらさんのイラストが、文章との間に妙な緊張感を生み出して、僕は大いに笑いながらその誌面を楽しんだものだ。

そのくすはらさんから個展の案内状をもらった。顧問の斎藤勝義さん、編集担当の金井雅行君、出版部の臼井雅観君を誘い都合4人で出かけた。個展会場は、銀座6丁目の「ギャラリー近江」である。僕がよく通っていた文藝春秋画廊や交詢社ビルがほど近い画廊であった。会場に着いてみると、月刊『清流』の秋篠貴子君がいたので、清流出版の関係者は5人になった。

 

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会場入り口の招き猫?

 

・会場の入り口には、ネコをモチーフにした陶器がチョコンと置かれ、来場者を迎えてくれる。早くも「くすはら順子はタダモノじゃない」という雰囲気が漂う。案内には「作陶器展」とあったが、実際は陶器と絵画の二本立てであった。会場の半分ほどは、テーブルの上に陶器作品を並べ、会場の壁面にリキテックスによる絵画作品を展示していた。この平面(絵画)と立体(陶器)の組合せが両々相まって、くすはら順子の摩訶不思議な雰囲気を醸している。

 

・まず、陶器をじっくり見せてもらった。文字に表わすのは難しいが、くすはらさんの巧みな才能を感じた。ほとんどが動植物をモチーフに器とドッキングさせたもので、ファンタジックな世界に誘い込まれる感じだ。鳥をかたどって、魚をイメージして、あるいはネコ、そして草花などをモチーフに、器と融合させた作品群……不思議な形状と陶器が次々現われる。約50点の作品が、ことごとくユニークで、日本ではない風土を、多分、東南アジアをはじめ、メキシコ、中南米、アフリカ等を連想させる形状。ある人が「ガウディに近い」と言ったが、それも確かに頷けた。ガウディの建築に似ているなど、ほめ言葉としても最高! 僕は、シュルレアリズムと抽象主義をつなぐ存在の画家、アーシル・ゴーキーの雰囲気を感じた。それほど自由奔放に遊んでいる。今回のくすはらさんの個展は、僕のあくまで個人的判断だが、断然、陶器の方が好きだ。くすはらさんの立体造形の感覚は日本人離れしていると思う。

 

・会場の壁に飾られたリキテックスによる絵画も、面白かった。今まで見かけたことのない秩序と構成の絵画である。陶器には見られなった規則的な線と色で構成された絵が多い。シンプルで、抑制された画風。およそ、くすはらさんらしからぬ作品といえようか。でも、ひょっとしたらこれらの作品は、あえて静かなふりを装っているのかもしれない、と僕は深読みする。あえて絵画の部分は、「私だってきちんとした絵が描ける」と自己主張している。約30点の作品のうち、会場の奥に展示された二枚の作品は、ものすごく気に入った! あとの作品は一枚のキャンバスのうち、三分の一しか描き込みがない。残りは、白基調に塗りつぶされた空間が三分の二ほどあって、その部分は、みなさんの想像力、イマジネーションで埋めてみれば……とでもいっているようだ。挑戦されているようで、なんだかわくわくさせられる! 

 

・会場の片隅に、これまでくすはらさんが装画を手掛けた本のカバーが展示されていた。その中に弊社の本で思い出深い『愛しの太っちょ――ダイヤモンド・ジムの生涯』(H.ポール・ジェファーズ著、仙名 紀訳、定価2940円、2008年刊)を手に取って、しばし感慨にふけった。この本は、シルクハットと燕尾服の太っちょ姿が描かれているが、黒の色調がとても効果的であった。実在の成金だった、ダイヤモンド・ジムは金に飽かせてグルメ三昧。でっぷり太った姿に大粒のダイヤを身に着けた装画は、なんとも愛敬があって微笑ましかった。そして、この翻訳に纏わるエピソードを思い出した。最初、僕の畏友、徳岡孝夫さんに翻訳を依頼したのだが、その後、徳岡さんは視力が低下して目が見えにくくなり、残念ながら翻訳を途中で断念された。そこで僕は、急遽、仙名紀さんにバトンタッチをお願いして完成させた経緯がある。いわば毎日新聞出身者(徳岡さん)から朝日新聞出身者(仙名さん)にリレーしたことになるが、お二人とも僕のかつての仕事ぶりをよく知る方なので、スムースに移行できた。いい仕事をしてくれたくすはらさんには心から感謝したい。帰り際、くすはらさんのお姉さんがたまたま来合わせた。お二人は大阪の出身だが姉君は嫁ぎ先が横浜だったとのこと。現在も横浜在住だという。お名前は大畑悦子さん。主婦業のかたわら、ピアノを教えているという才媛である。美人姉妹にさよならするのは残念だったが、後ろ髪を引かれながら会場を後にした。

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・「ギャラリー近江」に行ったメンバーは5人。清流出版メンバーが銀座に集うことは、めったにない。この後、美味しいお昼ごはんを一緒に楽しんだ。