2010.07.15宮崎正弘さんを囲んで

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宮崎正弘さん

・現在、日本で最も注目されるチャイナ・ウォッチャー(中国通)といえば、真っ先に名前が挙がるのは、間違いなくこの人、宮崎正弘さん(写真)。宮崎さんの中国通ぶりには、近年、ますます拍車がかかっている。とにかく訪れた回数が半端ではない。中国への渡航も、数十回に及ぼうかという人なのだ。福建省、広東省、四川省、山東省、河北省など、中国33のすべて省、直轄市、モンゴル、ウイグルなど自治区、特区を踏破している人など、日本人ではそうそういまい。宮崎さんは、これを『出身地でわかる中国人』という本にまとめている。だから細部にわたって実に詳しい。そもそも現地で日本人と思われない。ほぼ、中国人で通ってしまう人なのだ。会話も自然だから現地の人も取材されているとは思っていない。それほど溶け込んでいる。“中国を一つの国だと思うのが、そもそも間違いだ”というのが宮崎さんの持論である。

・例えば、同じ中国国内であっても、“愛国虚言”を弄する北京人がいれば、海外志向が強い上海人がいる。広東人の日常の挨拶は「儲かりまっか」だというし、“中国のユダヤ人”と異名をとるしたたかな温州人がいる。凶暴なマフィアで知られるのは福建人である。辺境の地を行けば、漢族を恨むウイグル、チベット族がいる。中国の少数民族は、漢族を除いて実に55族にものぼるといわれている。当然のことながら、地域が変われば言葉は通じないし、気質も習慣も違う、文字通り多民族国家なのである。宮崎さんの言は、地道な取材の裏づけがあるだけに説得力がある。宮崎さんによれば、なぜか嫌われ者は上海閥、上海人なのだそうだ。だから上海万博に7000万人もの人が押しかけるのはあり得ないという。その嫌われ者の上海閥が、実は政治の中枢を牛耳っている。軍を支配しているのは、山東閥であり、商業については広東省が台頭しつつあるという。複雑に利権・特権が入り乱れているのである。

・宮崎さんから配信していただいている、プログ「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」は、僕の知っている限り読み手も多く、ほぼ毎日、多いときには数度も更新されている。宮崎さんの著書は、これまで約150冊にも及ぶが、そのうち半分くらいが中国の分析、早耳情報だと思う。僕と宮崎さんとはダイヤモンド社時代からで、30年以上のお付き合いになる。最初のころは、「日米の特許戦争」「先端産業ルポ」から、「三島由紀夫もの」なども書いてもらったが、最近はやはり中国ものが中心だ。弊社から刊行した『中国よ、「反日」ありがとう!』『迷走中国の天国と地獄』『風紀紊乱たる中国』など、何れもタイムリーなテーマということもあり、よく動いた。

・今回も同じ中国もので、『上海バブルは崩壊する――「宴のあと」の悪夢のシナリオ』(仮題)を予定している。宮崎さんの企画書にあった、「中国の上海バブル崩壊は、秒読み、ドバイ、ギリシアの1000倍!」を見て、すぐさま弊社に来てもらった。弊社から数分のところに、宮崎さんがよく行く中華料理店がある。宮崎さんが関わる「憂国忌」など、九段会館でのイベントも結構あるが、その後、必ず行くのがこの中華料理店だ。その店で一緒に昼食を摂りながら、細部の詰めをさせてもらった。上海万博がまだ開催中ということもあり、このテーマだったら早く出せるにこしたことはない。もともと宮崎さんの原稿執筆は早いほうであり、基礎となる原稿はすでに書き上げてある。大至急、ブラッシュアップしていただくことになった。藤木健太郎君が編集担当者、外部編集スタッフに信頼できる旧知の川鍋宏之さんにお願いして、9月刊行を目処に進めさせてもらうことになった。

・黄砂に埋もれる北京、泥海に沈む上海、自壊していく中華帝国の未来が見えてくる。経済繁栄はうたかた、“邯鄲の夢”のように儚く消える。農村は疲弊し、相次ぐ農民の反乱。少数民族が反旗を翻し、蒙古族のナショナリズム復活が囁かれる。イスラム教徒のテロも脅威になりそうだ。内では、ドルなど外貨を着服する政府高官が続出している。子弟を海外へ留学させ、スイス銀行にせっせと預金する。着服し持ち出す外貨が半端でないので、あるはずの外貨準備高と実際の外貨との差が著しいなど、中国ならではの異常事態も露呈している。中国崩壊の序曲は、上海のみならず、すでに内側から始まっているのである。面白い本になりそうな気がしている。他社の最近の販売実績からしても、ある程度の部数は配本できそうだ。この先も、中国ものをあと数弾仕掛けたい気持ちがある。宮崎さんとは、今後とも長いお付き合いになりそうだ。よろしく宮崎さん。