2010.05.31松井喜一・美知子ご夫妻

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 松井喜一・美知子ご夫妻


・天気のよい日は、自宅近くの野川沿いをゆっくり散歩する。歩数にすれば3000から4000歩、距離にして約1500メートル位であろうか。僕にとってリハビリを兼ねた散歩は絶対に欠かせない。サボるとてきめんに結果として表れる。右足が反り返って歩行困難になってしまうのだ。そうならないために一所懸命歩くので、周りの人々や景色が目に入らないことが多い。だがすれ違う相手は、僕の杖と歩き方を見ている。右半身が不自由であることは一目瞭然らしく、「大変ですね。がんばってください」と話しかけてくる人もいる。


・僕には言語障害もあるが、相手がフレンドリーだと、つたないながらあれこれ話が弾んで、フッと気づくと2時間経っていることもしばしば。その散歩の途中で親しくなったご夫婦を紹介したい。そのご夫婦は、かつて同じマンションの住人だった。実は昨年、隣の町に引っ越しをされたのだ。同じ野川沿いで、健常な人の足で20分ほどのところである。お名前は松井喜一さん、美知子さん。


・ご主人のホームページが充実しているので、それを元にザッと略歴をご紹介する。松井喜一さんは元電通の映像事業部長で、現在は陶芸家(落款は「松風」)としてご活躍だ。富士の麓裾野市に「松風陶芸窯」を築窯、富士焼を創始した方で、現在は焼き物のほか、ゴルフ、旅行、エッセイの執筆などを楽しんでおられる。昭和21(1946)年生まれの団塊世代。浦和高校からICU(国際基督教大学)に進み、フランスのストラスブルグ大学に留学した。その後、1968から69年にかけ、フランスからシルクロードを経てインド・カルカッタまで約3万キロを車で踏破する。


・70年、電通入社。79年、同社パリ支局を創設。87年まで責任者として駐在した。87年に帰国。その後、黒澤監督の最終作品「まあだだよ」、ヴィム・ヴェンダース監督「夢の果てまでも」、フレッド・スケピシ監督「ミスター・ベースボール」ほかに、スタッフとして映画製作に携わる。僕は元電通の作家・新井満さんご夫婦とは、長い付き合いがある。いつも新井さんから新著、CDなどを贈ってもらう仲だと言うと、ますます親しみが増した。


・今週、この松井さんからお葉書を戴いた。それによると、10年ぶりの個展を開催するという。タイトルは、「元気の出る器」展。器に富士山の溶岩を練り込んだことにより、イオンを発生する“パワー陶器”を焼いたのだという。早速、僕は妻に車で連れて行ってほしいと頼んだ。興味を引かれた方は、下記に連絡先を記すので訪れてみたらいかがだろう。場所は、調布市深大寺元町3-30-3 曼珠苑ギャラリー(深大寺山門そば)TEL0424-87-7043 期間は、平成22年7月1日(木)から7月6日(火)開館時間は11時から17時。おいしい深大寺蕎麦と古刹参詣をかねて、松井松風さんの元気の出る器を楽しみにしたい。


・松井さんのホームページには、いつも感心している。文章力がある上、取り上げるテーマが実に広範囲にわたる。最近では、「大和路逍遥」を数回にわたって楽しんだ。力作で読みでがあり、覗いてみることをお勧めする。古くは、「ばら色の人生(40年前地球散歩)」も興味深かった。1967年のユーラシア大陸横断の記録が元になったが、こうした経験をされた方は滅多にいない。22歳だった松井さんの冒険譚は、あの小田実や小澤征爾に勝るとも劣らない快挙と言いたい。


・奥様の松井美知子さんのホームページもよく読む。『フランスとフランス語の話』と題され、読むと忘れ去ったフランス語がおぼろに蘇ってくるような気持ちにさえなる。美知子さんは、青山学院大学を経て、現在は大妻女子大学でフランス語を教えている。著書も数冊あり、僕がもらって愛読しているのが『パリの憂鬱』(シャルル・ボードレール著、松井美知子訳注、大学書林語学文庫)である。有名な『悪の華』と並ぶ、ボードレールの傑作である。懐かしかったのが、『パリのどこかで(改訂新版)』(第三書房刊)の著者陣に美知子さんと一緒に山崎庸一郎さんが入っていたこと。約40年前のこと、山崎庸一郎さんにサン=テグジュペリについて原稿執筆をお願いしたことがある。その後、数度、手紙のやりとりをしたことが強く印象に残っている。


・美知子さんの発信している情報で一番の楽しみが、「映画」関連のお話。つい最近も、カンヌ映画祭が終幕、今年のパルムドール(最高賞)はタイの『ブンミおじさん』に決定したのを美知子さんのホームページ(もちろんユーチューブ)で知った。その映画で僕の大好きなジュリエット・ビノシュ(主演女優賞)を、美知子さんのホームページで見せてもらえたのは、うれしい限り。ご主人の葉書が届いた翌翌日、散歩の途中でバッタリ美知子さんに会い、映画談義で盛り上がった。最近(2010.1.12)、お亡くなりになったエリック・ロメールの『緑の光線 Le Rayon Vert』こそ、フランス映画の大傑作、ということで意見の一致をみた。早速、わが社で刊行している『中条省平の「決定版! フランス映画200選」』をお贈りすることを約束した。