竹本さんと堀尾さん - 加登屋のメモと写真…
加登屋のメモと写真…
竹本さんと堀尾さん

 

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竹本忠雄さん、堀尾真紀子さん、長沼里香、僕

 

・堀尾真紀子さん(右)は昨秋、弊社から『絵筆は語る――自分色を生きた女たち』を上梓されている。その堀尾さんから、筑波大学名誉教授の竹本忠雄さん(左から2人目)をご紹介いただいた。早速、日時を指定して、担当編集者の長沼里香(左)をはじめ、わが社の幹部(藤木健太郎、松原淑子、臼井雅観)を交えて竹本さんの単行本企画案を検討することになった。


・堀尾さんは東京藝術大学大学院修士課程入学後、フランスへ留学(フランス国立美術工芸大学)しているが、現地で竹本忠雄さんの知遇を得て、すでに 40年近いお付き合いになるという。堀尾さんの留学期間(1969-70年)には、僕もフランス語版の雑誌『レアリテ』の版権交渉や編集技術、販売・広告戦略のノウハウを取得するためパリに滞在していた。だから三人が現地で遭遇する可能性もあったわけだが、それほどドラマチックな出会いはさすがに用意されていなかった。今回、40年という長い時を経てようやく実現したのである。


・今回の企画は、堀尾真紀子さんの著書(『画家たちの原風景――日曜美術館から』、NHKブックス刊、1986年)の中でも、1章を設けて記述されている銅版画家・長谷川潔を改めて世に問いたいという話である。堀尾さんも件の『画家たちの原風景』で長谷川潔の生涯を俯瞰し、「マニエール・ノワール」(黒の様式)を完成するまでの経緯を執筆されている。当の長谷川潔は1980年に亡くなった。画家本人が執筆、構成した本が上梓(1982年)されているが、読みたくても絶版となった今ではなかなか手に入らない。


・そこでこの貴重な『白昼に神を視る』(長谷川潔著、白水社刊、4500円)をわが社から復刻しようというのである。一言でいえば長谷川潔の画文集だ。語録、遺稿、書簡、回想録を集成し、重要作品を精巧な図版によって忠実に再現する。渡仏62年、ついに一度も故国に帰ることなくパリに客死した銅版画家・長谷川潔。彼はこの本で、芸術の底流に流れる思想的背景、対自然観、作品の構成法、版画の技法などを明らかにしている。


・長谷川仁、魚津章夫、竹本忠雄の各氏が編集者の立場でこの本に深く関わっている。とくに「回想録」は、竹本さんが1967年10月から約 2年にわたって画家のアトリエに通いづめ、本人から直接聞き書きをした労作である。さらに竹本さんは、刊行に当たって、今日的意義を加筆するとともに、堀尾さんの「長谷川潔の思い出」等も追加、更なる充実を図りたい意向だ。幸い来年は、長谷川潔の生誕120年、没後30年の節目に当たる。出版に絶好のタイミングということもある。


・ここで竹本忠雄さんのプロフィールを紹介しておきたい。東京教育大学大学院修士課程修了後、1963年に仏政府給費留学生としてソルボンヌ大学に留学。専門はフランス文学だが、美術、文芸、霊性文化の領域でも評論、講演活動をする等、国際的に活躍しておられる。コレージュ・ド・フランス元客員教授で、フランス騎士勲章受章。アンドレ・マルローとの親交で知られる方でもある。『ゴヤ論―サチュルヌ』 (アンドレ・マルロー著、竹本忠雄訳、1972年)や『アンドレ・マルロー――日本への証言』(竹本忠雄著、美術公論社刊、1978年)など、マルロー関係の名著訳書もある。


・僕は会う前から竹本さんには旧知の印象があった。その理由は、共通の友である評論家の宮崎正弘さんのお蔭だとも言える。彼のブログ「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」が日々ネット配信されてくるが、例えば、フランスの文化大臣アンドレ・マルローは1974年に日本を訪問、熊野・那智の瀧や伊勢神宮に参拝している。五十鈴川の清流で禊をうけた折に体得し「このバイブレーションはなんだ」と震えたことを宮崎正弘さんがブログに書いている。


・そして、竹本さんに関する動向もよく記述される。著書『皇后宮美智子様 祈りの御歌』(扶桑社刊)、『天皇 霊性の時代』(海竜社刊)などを書評で取り上げているが、特に歌集は、竹本さんが皇后宮美智子様の『瀬音―皇后陛下御歌集』(大東出版社刊、1997年)をフランス語に訳された労作(歌集『SEOTO』)である。竹本さんは御歌選集『セオト―せせらぎの歌』を3年がかりで訳し、2007年に完成されている。皇后伝執筆のために積み重ねてきた研究は、《皇后宮(きさいのみや)美智子様―ポエジーと祈り》として訳書の後記に生かされている。この竹本さんの訳業は、全世界の心ある方々に皇后宮美智子様の素晴らしさを伝える好著となった。実は、僕の部屋には美智子皇后陛下が御蚕の繭玉を慈愛溢れる眼で見つめている写真が飾ってある。日々、そのお姿に挨拶し、「今日もお元気ですかと?」お尋ねするのが僕の日課となっている。


・竹本さんによれば、『白昼に神を視る』を段取りよく制作するには、横浜美術館がキーポイントになるとのこと。同館は長谷川仁さんからの寄贈を含め、長谷川潔の作品を3,000余点所蔵しているという。そして、同館学芸員の猿渡紀代子さんが長谷川潔の熱心な研究者であり、『長谷川潔の世界』(渡仏前・渡仏後1、2全三巻、有隣堂刊)の著書がある。堀尾さん、猿渡さんのご協力をあおいで、良い本が出来ることを期待している。


・なお、堀尾さんの旧著『画家たちの原風景――日曜美術館から』も、弊社で復刊することを決めた。この本は、第35回日本エッセイスト・クラブ賞を受賞している。長谷川潔のほか、神田日勝、芹沢銈介、池田遙邨、三岸好太郎と節子、斎藤義重......などを俎上に乗せた画家論である。かつて『家永三郎集、月報、第3巻、1998年1月』に堀尾さんが、《生活者にむける熱い眼差し――「日本文化史十二講」から》という論文をお書きになっている。今までこのような幅広いジャンルを、これほど優しく平易に書ける方はざらにはいないと実感した記憶がある。今回、復刻した本をお読みいただけば、皆さんにも僕の言うこの意味を分かっていただけるに違いない。

 

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